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復興
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しおりを挟むオーヴェンス公爵家に戻ったレイラ達。
あれからレイラは家族達とは話せなかったが、近日中にロヴァニエ子爵領へ帰らされ、荷をまとめて、マキシムは再び首都にある寄宿学校の寮へ、セイラは地方の医療機関へと検査入院する。
結果次第では、療養を余儀なくされるだろう。
残りの家族は、邸へ帰るが、ロヴァニエ子爵になったレイラが金の管理をし、ほそぼそと暮らす事になる。
幾ら事業を初めても、権限を取り上げられたロヴァニエ前子爵は、再起は難しいだろう。
ロヴァニエ子爵夫人と共に、隠居生活が待っている。
ライラに至っては、貴族令嬢として嫁ぎ先は見込めるので、我儘を言わない限り、問題無く過ごせるに違いない。
トリスタンも、兄マキシムと同様に寄宿学校に入れる年齢になったら、入る事に決まった。
「疲れたか?レイラ」
「…………はい……でも清々しいです」
「そうか………またこれから忙しくなる。数日休んだら、ロヴァニエ子爵領へ行こう」
「一緒にですか?」
「そう、暫くあっちに住むからそのつもりでな」
「…………分かりました……実感湧きませんね……私が子爵なんて」
夜会を終えて、もう身支度を整え、眠るだけなのだが、レイラとアーロンは廊下で話をしている。
「元々、君のお祖父さんは、成人したら子爵家を継承させよ、と遺言書には書いていたんだ」
「それが、何故今出て来たんでしょう」
「あの執事が、隠していたんだよ………お祖父さんがレイラの成人前に亡くなったからね」
「確かに、私が11歳の頃に亡くなりました」
「気が付いていたんだろうな、君のお祖父さんは………君に商売の才があった事に……」
「…………私……お祖父様にべったりだったんです……両親がアレだったから………」
レイラは寂しい時に祖父の働く執務室で、祖父の仕事を見ていて、色々覚えていった。
しかし、父が仕事の邪魔だ、とレイラが執務室に来る事を嫌がっていたのだ。
もうその時にはレイラは本で知識を学び、祖父や執事から領民への接し方や、商売のノウハウを口頭で教えられていた。
一度読んだ知識は記憶に残り、母が付ける教養の教師だけで、既にマキシムやライラより出来ていた。
その才を見出した祖父は、レイラが成人したら子爵家を継承させる、と父に話したのだという。
しかし、自分の代が訪れない事に苛立ちを覚えた父は、レイラに継承させたくなかった。
マキシムはロヴァニエ前子爵に似て、自分の父に似なかった事から、マキシムを継承者にと思っていたのだ。
しかし、病でレイラが成人する前に亡くなり、ロヴァニエ前子爵は遺言書を燃やして無かった事にしようとしたのを執事は知っていて、祖父の願いから亡くなる前に中身をスリ替えていた。
遺言書が燃やされた事や事情を知る執事は、レイラに肩入れし、結婚に反対をしていたのだという。
「もし、あのまま遺言書通りになっていたら如何なってたんでしょうね」
「さぁな………婿養子でも取らされて、ロヴァニエ子爵家には何も問題が起きない、という筋書きが一番良かったんだろうが、それでは俺が嫌だな」
「何故です?」
「出会えないだろ!俺達が!」
「…………そうでしょうか……会えはすると思うんです………夜会でとか……」
「そうなっても恋に落ちてくれるのか?」
「っ!………つ、つまらないですね、その人生」
真剣な目で見てくるアーロンに、レイラは目を逸して考えてみる。
もし、遺言書通りなら、然るべき時に何処かの貴族の婿養子に入れる男を選んでしまうかもしれない。
というか、選ばされるだろう。
幸になるか不幸になるか、は相手次第だろうが、アーロンと恋に落ちないかもしれない。
「つまらないな、確かに………俺はレイラと出会って、面白い人生だと感じた」
「はい、私も………波瀾万丈で………ふふふ……」
「それに、どっかの愚息がレイラに婿入りする事を考えたら許せん………俺は公爵家を継がなきゃならん………この人生だったら、結婚してもレイラは公爵夫人であり、子爵の爵位を両方持つからな」
「何方にも、後継者必要になりますかね?」
「2人は子供必要だな、レイラ」
「っ!」
アーロンにくるッ、と身体の向きを変えられ、頭を撫でられたレイラ。
「まだ婚約中だから、夜は共に寝ない………はぁ……我慢出来るか?俺…………が!キスは良いよな?」
「…………だ、誰も見ていないなら………良い……です………よ?」
「っ!…………あ、煽るな……上目遣いされると我慢の限界が来そうだ………」
「だ、だってアーロン様の背が高いんですから、そうなっちゃいます」
「じゃ、跪くか?」
「……………うっ……そ、それは……私が……上目遣いされ……」
「プッ…………慣れていけばいい………」
まだ少し肌寒いが廊下の窓をアーロンが開けた。
其処にレイラを抱き上げて座らせる。
「ひゃっ!」
「軽いなぁ………もう少し体重増やしても良いぞ、レイラは華奢だから………」
「…………体重より、胸が大きくなりたいです……お姉様やティアナ様はグラマーだったもの」
アーロンと目線が合う高さになったレイラは、自然にアーロンの肩へと手を置いた。
「そ、それは………俺が努力する事だから、気にしなくて良い………胸だけが魅力だと思ってるのか?レイラは」
「色気無いですし」
「俺は今のレイラが可愛くて好きなんだがな」
「…………じゃ、じゃあ……アーロン様が努力して、私の胸を大きくしなくても良いです」
「い、いや………それは分からんぞ?………兎に角、自然体のレイラでいれば良い…………分かったか?」
「…………は、はい………」
優しく抱き寄せられるレイラ。
窓の外は地上に落ちるので、アーロンは背中に手を回していた。
落ちそうなのは怖いが、アーロンの信頼出来る腕の中では、忘れさせてくれる。
灰褐色のサラサラの髪がアーロンの指に絡み、キスをしながらアーロンに弄ばれて、背中がくすぐったかった。
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