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復興
49 *番外
しおりを挟むアマルディア伯爵家。
「此処か……マリアの勤めている邸は……」
王城の夜会が始まる直前。
品のある漆黒のスーツの男が呼び鈴を鳴らした。
出たのはアマルディア伯爵家の執事、ゲイリー。
「何方様でしょうか」
「此方に、マリアという女性とその息子、ゲイリーという者が働いていると聞きましたが………申し遅れました、私はロヴァニエ子爵家で執事をしてお………」
「兄さん?…………兄さんでしょう!」
「マリア………元気だったかい?」
「えぇ!如何して首都に……」
閑散とした何処か寂しい邸の雰囲気を、マリアが一気に明るくする。
「実はとある事情で、お前達を迎えに来たのだ」
「迎えに?………それって……レイラ様が?」
「…………いや、私の独断だよ」
「マリア、お客様かね?」
「あ………旦那様……兄でございます。とあるお邸で執事をしております……」
「ジュドーと申します………妹と甥がお世話になっております。ロヴァニエ子爵家で長年執事を」
「ロヴァニエ……」
マリアの背後に立つ旦那様はアマルディア前伯爵だ。
ピクッと眉が上がり、目付きが鋭くなっていた。
「ロヴァニエ子爵の執事が何の用だ」
「オーヴェンス公爵閣下から、此方のお邸に住まうご子息と、ロヴァニエ子爵家次女レイラ様が離縁されると伺っております。ご子息様がアマルディア伯爵家から絶縁される事もありまして、妹と甥に新しい職場を用意した為、迎えにあがった次第です」
「…………新しい職場?それは何処だ……マリアとゲイリーには、我が家でも重宝する逸材……領地へ連れて行くつもりだったが……」
「ロヴァニエ子爵が世代交代致します。其方の主人の信頼する侍女長と執事が必要かと……私ももう歳……主人を守れる新しい執事の方が、と思いまして……」
「子爵が世代交代?一体誰かね?」
「…………レイラ・ロヴァニエ様です」
「レイラだと!………ヤラれた……オーヴェンス公爵!」
深々と頭を下げた、ロヴァニエ子爵家の執事、ジュドー。
独断で動いたのは、アーロンから今後起きる事を聞いていたからだ。
アマルディア伯爵も、息子カエアンとレイラの離縁には反対を貫いたが、全責任を取らされてアマルディア伯爵家を取り潰されては、と渋々承諾した。
離縁しても、レイラには仕事を手伝って貰いたかったのだろう。
カエアンとは別でレイラを探させていたアマルディア伯爵だが、アーロンに隠されていたとなれば見つからなくて当然だった。
「後日、耳に入るかとは思いますが、レイラ様の離縁後、オーヴェンス公爵閣下とのご婚約が正式に決定致します」
「っ!」
「兄さん………本当に?若奥様……いえ、レイラ様が?」
「嘘を言っても、私は何も特にはならないよ、マリア………如何かな?レイラ様に仕えてみる気は無いか?此方でお世話になるのであれば、無理強いはしない………宜しければ、他の者の働き先をロヴァニエ子爵家で世話させて頂く事も可能でございます」
「……………好きにするが良い……」
事の経緯も分からないマリアとゲイリー。
キョトン、としていたがレイラが無事だった事や、離縁が成立した事へ安心した顔になった。
「如何する?マリア………君の息子にも聞かねばならないだろうから、よく相談して決めると良い………私は今夜迄、この宿に居る。今夜、ロヴァニエ子爵が変わるから、明日には帰宅するが、ロヴァニエ子爵領で働くなら、領主邸に来なさい」
「分かったわ、息子と相談する」
「行こうよ、母さん」
「ゲイリー?」
「…………君がゲイリーだったのかい」
「初めましてですね、叔父さん………叔父さんの事は、レイラ様や母からは聞いてました。母の故郷にも行ってみたかったし、この邸が無くなるなら、また1から出直したい。父さんには怒られそうだけど」
「…………えぇ……兄さん、私も行こうと思う」
こうして、アマルディア伯爵家で長年勤めていた、マリアとゲイリー親子は、ロヴァニエ子爵へと向かった。
ロヴァニエ子爵家の邸は、暴徒によって破壊され、価値のありそうな物は奪われていて、大変な事になっていた。
「さぁ、片付けなくっちゃね!」
「此処も大変だね、母さん」
「なぁに、もう直ぐ新しいロヴァニエ子爵家の邸が出来る………領主の仕事で必要な資料は全て其処に運んであるから大丈夫だ………此処は元ロヴァニエ子爵がそのまま使われるだろう」
縁の下の力持ちはレイラだけではない。
執事、ジュドーもだった事に、気が付かなかったロヴァニエ前子爵が愚かだったのだ。
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