何故、私は愛人と住まわねばならないのでしょうか【完結】

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
上 下
50 / 62
復興

49 *番外

しおりを挟む

 アマルディア伯爵家。

「此処か……マリアの勤めている邸は……」

 王城の夜会が始まる直前。
 品のある漆黒のスーツの男が呼び鈴を鳴らした。
 出たのはアマルディア伯爵家の執事、ゲイリー。

「何方様でしょうか」
「此方に、マリアという女性とその息子、ゲイリーという者が働いていると聞きましたが………申し遅れました、私はロヴァニエ子爵家で執事をしてお………」
「兄さん?…………兄さんでしょう!」
「マリア………元気だったかい?」
「えぇ!如何して首都に……」

 閑散とした何処か寂しい邸の雰囲気を、マリアが一気に明るくする。

「実はとある事情で、お前達を迎えに来たのだ」
「迎えに?………それって……レイラ様が?」
「…………いや、私の独断だよ」
「マリア、お客様かね?」
「あ………旦那様……兄でございます。とあるお邸で執事をしております……」
「ジュドーと申します………妹と甥がお世話になっております。ロヴァニエ子爵家で長年執事を」
「ロヴァニエ……」

 マリアの背後に立つはアマルディア前伯爵だ。
 ピクッと眉が上がり、目付きが鋭くなっていた。

「ロヴァニエ子爵の執事が何の用だ」
「オーヴェンス公爵閣下から、此方のお邸に住まうご子息と、ロヴァニエ子爵家次女レイラ様が離縁されると伺っております。ご子息様がアマルディア伯爵家から絶縁される事もありまして、妹と甥に新しい職場を用意した為、迎えにあがった次第です」
「…………新しい職場?それは何処だ……マリアとゲイリーには、我が家でも重宝する逸材……領地へ連れて行くつもりだったが……」
「ロヴァニエ子爵が世代交代致します。其方の主人の信頼する侍女長と執事が必要かと……私ももう歳……主人を守れる新しい執事の方が、と思いまして……」
「子爵が世代交代?一体誰かね?」
「…………レイラ・ロヴァニエ様です」
「レイラだと!………ヤラれた……オーヴェンス公爵!」

 深々と頭を下げた、ロヴァニエ子爵家の執事、ジュドー。
 独断で動いたのは、アーロンから今後起きる事を聞いていたからだ。
 アマルディア伯爵も、息子カエアンとレイラの離縁には反対を貫いたが、全責任を取らされてアマルディア伯爵家を取り潰されては、と渋々承諾した。
 離縁しても、レイラには仕事を手伝って貰いたかったのだろう。
 カエアンとは別でレイラを探させていたアマルディア伯爵だが、アーロンに隠されていたとなれば見つからなくて当然だった。

「後日、耳に入るかとは思いますが、レイラ様の離縁後、オーヴェンス公爵閣下とのご婚約が正式に決定致します」
「っ!」
「兄さん………本当に?若奥様……いえ、レイラ様が?」
「嘘を言っても、私は何も特にはならないよ、マリア………如何かな?レイラ様に仕えてみる気は無いか?此方でお世話になるのであれば、無理強いはしない………宜しければ、他の者の働き先をロヴァニエ子爵家で世話させて頂く事も可能でございます」
「……………好きにするが良い……」
 
 事の経緯も分からないマリアとゲイリー。
 キョトン、としていたがレイラが無事だった事や、離縁が成立した事へ安心した顔になった。

「如何する?マリア………君の息子にも聞かねばならないだろうから、よく相談して決めると良い………私は今夜迄、この宿に居る。今夜、ロヴァニエ子爵が変わるから、明日には帰宅するが、ロヴァニエ子爵領で働くなら、領主邸に来なさい」
「分かったわ、息子と相談する」
「行こうよ、母さん」
「ゲイリー?」
「…………君がゲイリーだったのかい」
「初めましてですね、叔父さん………叔父さんの事は、レイラ様や母からは聞いてました。母の故郷にも行ってみたかったし、この邸が無くなるなら、また1から出直したい。父さんには怒られそうだけど」
「…………えぇ……兄さん、私も行こうと思う」

 こうして、アマルディア伯爵家で長年勤めていた、マリアとゲイリー親子は、ロヴァニエ子爵へと向かった。
 ロヴァニエ子爵家の邸は、暴徒によって破壊され、価値のありそうな物は奪われていて、大変な事になっていた。

「さぁ、片付けなくっちゃね!」
「此処も大変だね、母さん」
「なぁに、もう直ぐ新しいロヴァニエ子爵家の邸が出来る………領主の仕事で必要な資料は全て其処に運んであるから大丈夫だ………此処はロヴァニエ子爵がそのまま使われるだろう」

 縁の下の力持ちはレイラだけではない。
 執事、ジュドーもだった事に、気が付かなかったロヴァニエ前子爵が愚かだったのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

『白い結婚』が好条件だったから即断即決するしかないよね!

三谷朱花
恋愛
私、エヴァはずっともう親がいないものだと思っていた。亡くなった母方の祖父母に育てられていたからだ。だけど、年頃になった私を迎えに来たのは、ピョルリング伯爵だった。どうやら私はピョルリング伯爵の庶子らしい。そしてどうやら、政治の道具になるために、王都に連れていかれるらしい。そして、連れていかれた先には、年若いタッペル公爵がいた。どうやら、タッペル公爵は結婚したい理由があるらしい。タッペル公爵の出した条件に、私はすぐに飛びついた。だって、とてもいい条件だったから!

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

誰ですか、それ?

音爽(ネソウ)
恋愛
強欲でアホな従妹の話。

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

処理中です...