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断罪
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しおりを挟む「大丈夫か?」
「………はい……」
レイラが泣いたのは久々だった。
充血した目の顔をアーロンに見られたくなかったが、アーロンはレイラの顔を覗く。
「っ!」
「目を逸らすな」
「だ、だって………見つめるので……」
「そんな事を言ってて如何する……キスする時はお互いに見つめ合うのに」
「っ!」
「…………何だ?想像でもしたか?」
「や、止めて下さい!そ、そんな………想像だ……なんて……わ、私にも………心の準備という……ものが………」
真っ赤な顔で、アーロンの横に立っていたレイラは手を伸ばして、一歩下がり、アーロンをガードしつつ、顔を隠した。
「…………ヤバイ……可愛いからキスしたくなった………」
「だ、だ、駄目です!結婚式迄は!………な、何もかもそういう事は初めてで………す、好きな人には………こんな顔見せながらなんて………は、恥ずかしい………」
「…………好きな………人……」
「っ!…………きゃぁぁぁぁぁっ!………わ、わ、忘れて下さい!忘れて~!」
「…………もう元音は取った!もう一度聞くぞ!………レイラ………」
アーロンに肩をガッチリ捕まれ、レイラは両手で顔を隠してアーロンを見ない様にしていた。
手で隠しているのに、目も綴じている。
「…………俺が………好きなのか?」
「っ……………っ!」
「っ!」
頷くだけで精一杯なレイラ。
その頷きだけで、察して欲しい。
しかし、アーロンはまだ諦めてはいない。
因みに此処は邸の入口。
ロヴァニエ子爵家の執事を見送ったその場所。
何やら甘い雰囲気になっているレイラとアーロンを、陰ながら応援する輩達が野次馬の様に集まって来ていて、レイラにもアーロンにも見られない様に、固唾を飲んで待っている。
「レイラ………顔を見せてくれ……」
「い、嫌です………い、今、凄い顔してます、きっと………」
「可愛い顔だろ?」
「…………か、可愛いくないです……」
「馬鹿だな………俺にはその顔が可愛いくて仕方ないのに」
「っ!…………うっ………や、やっぱり駄目です!」
「…………あぁ、そう……折角、レイラが好きそうな海外の本を見つけて贈ろうと思って、俺の部屋にあるんだが、読みたくないんだ………」
「っ!…………ズ、ズルいです!読ませて下さ…………っ!」
本に釣られ、顔に当てた手を、握り拳にし、下ろした瞬間、アーロンの顔が近付いていた事を知ってしまった。
たったその一瞬の動作で、隙を突かれたレイラは、重なる唇の暖かさを知り力が抜けた。
アーロンにも抱き締められ、重なった唇に、心臓がバクバクと五月蝿くなる。
重なっただけで、深いキスではなかったが、トロンとした目でアーロンを見つめていてしまい、またも唇を奪われてしまう。
「んっ!」
一瞬の隙は、アーロンは見逃さず、現実なんだ、と夢では無い、と教えられた2回目のキスは唇を甘噛み迄されて放れた。
「可愛い………まだ足りないが…………お前等!見物するなら金取るぞ!見世物じゃない!」
「おめでとうございます!ご主人様!」
「いやぁ!良かったですよ!」
「レイラ様可愛いです!」
「はぁ………やっとですか………ヤキモキさせられたわ………」
「は、母上!」
レイラは暫く、皆に揶揄われそうな日が続きそうで、部屋に篭もる事に決めた。
♡ ♡ ♡ ♡
「原書なんだが、辞書を使わないと読めないかも」
アーロンが、レイラに本を贈ろうとしていた事が、口先だけでは無かったと知った。
その本と辞書、2冊をレイラの部屋に持ってきてくれたのだ。
「わぁ………ありがとうございます………ん?……」
「何だ?読んだ事ある………とか?それとも辞書も……」
「あ、いえ………辞書は要りません。読めますので」
「…………え………俺でもこの国の文字は辞書無いと分からないんだが……」
「難しいですよね、私もこの国の文字を読めるの3ヶ月掛かりました」
「…………あ、あぁ………そう………だが、首を傾げてなかったか?」
「あぁ………実は読みたかったシリーズなんです!歴史書で、続刊を探したかったんですけど、暇が無かったので………ありがとうございます!」
「っ!…………か、可愛い……」
レイラの満面の笑みはアーロンを悩殺させる。
再び、キスを迫ろうとレイラの頬へ手を伸ばしたアーロン。
だが、レイラは本を抱え、頭を下げてしまった。
「閣下!本当にありがとうございます!早速読ませて頂きますね!」
「あ、あぁ…………か、感想を聞かせてくれ」
「勿論です!では、おやすみなさい!」
「……………はぁ……」
好きと言われても、まだまだ本には勝てなかった様だ。
アーロンはレイラに伝えたかった言葉の半分も言えてない。
「…………君は笑顔が似合う………今の様に笑っていて欲しい………」
だが、今はその笑顔を簡単に奪う愚者が多過ぎて、執事に久々に会えた直後の辛そうな顔が、アーロンではまだ元気を取り戻す力はない。
だからこうして、レイラが好きそうな物を集めては贈っていても、まだレイラの心にはアーロンが入る隙間はまだ小さかった。
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