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断罪
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しおりを挟む「レイラ様、お似合いです」
「髪はハーフアップにしますか?」
「このドレスなら項が見えた方が色っぽくないかしら?」
この日、王城の夜会用ドレスの試着をしていたレイラ。
カエアンとの離縁の承認を得る為と、アーロンとの婚約を発表する、という1日で、否たった数時間の間に、大それた事をするのだから、気合いを入れなければならず、アーロンと衣装を揃えて準備をしている。
「ご主人様と並ぶ姿が目に浮かびそうです!」
「本当………カエアン様とは見られない姿ですし」
「シッ!もう、カエアン様の事は忘れなきゃ」
「あはは………元気で居るなら私は気にしないわ………心配なのは、マリアやゲイリー………残った侍従達よ」
「…………私達………薄情でしたね」
「…………うん……マリア侍女長や執事にはお世話になりっぱなしだったのに……」
レイラに付きたい、とアマルディア伯爵家の元侍女達は願い出てくれて、レイラが居なくなってからの事を度々聞かせて貰っている。
「レイラ」
「…………閣下……お早いお帰りだったのですね、おかえりなさいませ」
「…………よく似合ってるな……シトリン色のドレス………俺に合わせてくれた?」
「ケ、ケリー夫人と侍女達からの助言です………か、閣下は………髪型の好みありますか?………アップか………ハーフアップか………」
「…………ハーフアップとは、肩が隠れる髪型か?」
「はい」
「じゃあ、そっちで」
「ほらぁ!ハーフアップの方が良いんだって!」
「アップも色っぽいって思ったんだもん!」
「…………」
侍女達の圧に、アーロンはレイラを見た。
「さ、先程迄議論してまして………」
「あぁ………なる程………好みとしては項が見える方が好きだが、可愛いレイラを見せびらかしたいからな………灰褐色の髪が靡くのが、俺は好きだ」
「っ!」
「きゃぁぁぁぁぁ!」
「好きだって!」
「言われたい!」
「あ、貴女達………」
恋愛話好きなのだろう、レイラとアーロンの関係を彼女達が知った時、アーロンへの不信感やレイラがカエアンを裏切ったと思ったのだと後に明かしてくれたのだが、レイラがカエアンと離縁したい理由や事情を知ると、もうティアナへの憧れは無くなってしまった様だ。
「そうだ、もう試着が終わるなら、ロヴァニエ子爵領で動きがあったから、それについて話をしておきたい………執務室で待ってる」
「分かりました、着替えたら行きます」
「…………」
「っ!」
アーロンは、決してレイラに無理強いして、触れては来ない男だが、如何してもレイラの灰褐色の髪だけは触りたいらしく、何かにつけてレイラの髪を1束掬い、軽くキスで気配を残していく様になった。
レイラもアーロンへの恋心は大分膨らみ、自然に好きだと言いたくなる時もあるが、生真面目さから我慢をしていた。
「さり気なく、髪にキスする姿が素敵過ぎます」
「ご主人様のお母様であるケリー夫人は、国王陛下のお姉様だと聞きましたし、気品が溢れてますよね………」
「流石、公爵様」
つい先日迄はカエアン様、とウットリしていたのを知っているレイラなだけに、調子が良いな、とは思ったが、結局はミーハーなだけで、悪気は無さそうだ。
レイラは着替え終えて、2つ執務室が並ぶ、アーロンが居る方の扉を叩く。
「レイラです」
『入って』
「失礼します………じ、爺や!」
「お久しぶり振りでございます………レイラお嬢様………大人になられて一層美しく………」
執務室に、アーロンだけが居ると思っていた。
それが、ロヴァニエ子爵家の執事も居るとは思いもよらず、レイラは思わず抱き締めに行く。
「おやおや、大人になられても爺やに甘えるのは変わりませんな」
「だ、だって………でも、如何して首都に?」
「俺が呼んだ」
「…………閣下が?」
「オーヴェンス公爵閣下、私からお話しても宜しいでしょうか」
「あぁ、構わない………事情を知る貴方からの方が、レイラも共感出来るだろうし」
アーロンは執務机の前にあるソファに、レイラを促して座らせると、レイラの隣に座る。
それが、さも当たり前な様な気がして来る昨今。
「爺や…………何があったの?」
「はい、実は今、ロヴァニエ子爵領では暴徒化になっております………」
「暴徒!…………まさか、ストライキ?」
「はい………その通りでございます。レイラお嬢様が居られた時は、レイラお嬢様が止められましたが、今回は止られる方が居られません」
「お父様は何をしているの?お兄様は?」
「……………相も変わらず何も」
「……………っ!」
想像してしまう。
恐らく、給金未払をまたロヴァニエ子爵はしたのだろう。
元々、多い給金では無かったロヴァニエ子爵家が出す給金。
繁栄していた時より、半額程に値下げさせてしまったロヴァニエ子爵。
似合った額を支払わない事が続き、更に未払となると、約束されたかの様に、暴徒が起きる。
恐ろしくて、レイラは悲鳴に近い声を出し、口を押さえた。
「お父様達は領地に居るの?」
「…………安全確保の為にこの首都におります……私はお供として参りましたが、国王陛下からの再三の呼び出しを無視し続けた挙句、私を王城へ行かせ様と旦那様は………」
「そこで、俺が拾って来た。勿論、国王陛下にはその事を報告済みで、今暴徒を鎮圧させる為に、俺の部下に向かわせて、代わりに給与を配ってる」
「か、閣下!何故そこ迄!」
「何故?決まってるだろ、君の為だ」
「閣下…………」
「君に、ロヴァニエ子爵家を継承させる為、俺はロヴァニエ子爵領を妻の実家を守る為………強いては、国の防衛力を強める為。暴徒が激しくなれば、海賊達の餌食だ………領地はもっと荒れる…………嫌だろ?好きだよな、あの場所が」
「っ!…………ぅっっ……はい……」
レイラがアーロンの心遣いに、嬉しくて涙を溜めて頷く。
「お嬢様………先程、オーヴェンス公爵閣下から、お嬢様の事………ご苦労された事、今知りました………そんな事になっているとは知らず、爺やは………お助けにも行けず……申し訳ございませんでした………」
「爺やが………謝らなくても………爺やには感謝してるわ………頑張ってくれてありがとう……教えに来てくれてありがとう」
「お嬢様………」
執事は話を終えると、ロヴァニエ子爵家族が居る宿へ戻って行った。
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