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逃亡
42 *カエアンside
しおりを挟むカエアンはレイラが行方不明になってから、突如として回されてきた仕事に追われる事になっている。
「アイツはまだ見つからないのか!」
「さ、探してはおりますが、何処にも………首都の宿屋という宿屋……花宿も探しましたが………」
「フン!アイツが花宿なんかに行く訳ないだろ!こんなにも仕事を放棄しやがって!」
執務室に閉じ込められたかの様に、レイラが居ない代わりにカエアンが執務室で頭をポリポリと、ペンの頭で掻いていて、その鬱憤の捌け口はゲイリーになっていた。
それでだろうか、ゲイリーの額の面積が広がり、可哀想な事になっていた。
「商会にも、商談の面会が入っていますので、そろそろ出掛けませんと」
「知るか!この計算が合わないんだ!」
「今日は無視出来ない相手だと、お話したではありませんか!」
カエアンは商会にも行かなかった事もあって、商会から従業員が来ては連れて行こうとするので、全くカエアンは休める気がしない。
「ねぇ………カエアン……いつになったら戻って来るの?」
「ティアナ!執務室には来るなって言っただろ!」
「え~、だってつまらないんだもん」
「ティアナ様!部屋に戻りましょう!」
商会の従業員はティアナが妊娠している事を知らない。
レイラが妊娠している事にしていたので、ティアナの腹が出ている事は内密だったのだ。
「そういえば、ティアナ様も此方に居られたのですね………挨拶でも………」
「しょ、商会に行くぞ!」
「あ、はい…………でもティアナ様……」
「ほら、行くぞ!」
邸だけでも、ティアナの事を隠すのが大変なのに、商会に知れたら一斉に噂が広がってしまう。
従業員を無理矢理連れ出して、カエアンは疲れた顔で目の下にクマさえあった。
---クソッ……何で俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ!何が不服なんだ!3食食えて、雨露凌げりゃ文句無いだろ!
今のカエアンもその環境下に居る筈だが、文句が出ているのに気が付いていない。
---あぁ!ムシャクシャする!
草臥れ疲れた身体では、集中出来る筈はない。
商談予定の相手をその姿で現れたカエアンだったが、商談相手に不快感を与えてしまった。
「申し訳ありませんが、アマルディア伯爵……この取引……夫人と進めておりましたが、無かった事にさせて頂きたい」
「…………え?……な、何故……契約書を書くだけだった筈じゃ………」
「そうだったんですが、夫人だったから我々は取引が出来たのです………身重の身体で大変なのに、時間迄割いて頂き、誠心誠意対応して下さいました………しかし、ご主人がコレでは……話が噛み合わない、取引の商品の知識が乏しく、これでは今後の取引に、此方もデメリットしか見えないのです………夫人とでしたら、再開致しますので、またご連絡をお待ちしております」
「な…………そんな……」
従業員達も、カエアンを冷たい目で見る様になっていた。
これが一度や二度ではない。
レイラが居なくなってから、何度も商談や取引の打合せも数多くあり、カエアンに変わってからは、皆断られていたのだ。
「ご主人様………取引のある商会………もう、何処も打ち切られたのですが」
「何………だと………?」
「前伯爵閣下からのツテで、取引のあった商会もありましたが、夫人が居られて、取引商会は増えていたんです………これはもう………アマルディア商会は成り立たなくなりますよ……」
「…………申し訳ありませんが、今度の給金頂いたら、辞めさせて頂きます」
「お、俺も………」
「私も………」
レイラが居なくなって、1ヶ月経った頃だった。
あっという間に、この件は首都に広まり、勿論アーロン伝でレイラも耳にする。
「従業員の皆、働き口あるのでしょうか……」
「さぁな………もう、店も閉店した場所もあるそうだ。従業員が居ないからな」
「邸の皆が心配です………私が居たから成り立ったのに………」
「邸の侍従達、引き抜いてやろうか?」
「…………え?そんな……有り難いですが、彼等が何と言うか………」
「レイラが居る事は内緒にして、求人出せば良い………貴族邸勤めの経験者歓迎優遇、とすれば気になる筈だ」
「…………ありがとうございます、閣下」
後日、職業斡旋の窓口でオーヴェンス公爵家の求人が出された。
侍女経験者、執事、侍従、面接要、と乗せた所、アマルディア伯爵家の者も来たのである。
「若奥様!」
「若奥様だわ!」
「ご無事だったのですね!」
「良かった………心配していたんです!」
数人の面接後、アーロンのはからいで働ける事になり、彼等にはカエアンやティアナには、離縁の決着が付く迄は、内密にという制約を結んだ。
貴族の邸で働く以上、雇い主の家の事は他言無用。
漏らしたら、その界隈では働けない事は充分に承知している彼等だ。
その分、給金は弾んでいるので、もう少しレイラは引き篭もりに撤する予定だ。
「何だと!侍女と侍従が5人も辞めただと!」
「当然でございましょう?商会の件が噂を呼び、店を閉めているのですから…………この事がお父様に知れたら、如何されるおつもりですか?カエアン様………若奥様も出て行かれて、業績悪化は目に見えているそうではないですか。今はお父様に若奥様が不在なのを伏せておられる様ですけど、時間の問題かと………」
マリアやゲイリーは、長年世話になった事もあり、まだ辞める事には至ってはいないが、考えるとレイラの件で、カエアンに話している。
我慢の限界が来たら、もう彼等もアマルディア伯爵家から出て行くかもしれなかった。
「カエアン、外注呼んでくれる?新しい妊婦用ドレスが欲しくって………」
「ティアナ…………無理だ………駄目だ……少しは我慢してくれ」
「…………え?嫌よ………如何して私が我慢しなきゃ駄目なのよ!」
「金が入らないんだよ!商談も潰れて、店も閉店してるんだ!侍女達も数人辞めた!だから、我慢するんだよ!」
「……………何よそれ……人だったら雇えば?出来るわよね?お父様だってそうやって従業員を増やしてきたんだもん」
全く、金の巡りが分かっていないティアナ。
カエアンは、働く事の意味を漸く気が付いた様だが、時は既に遅かった。
あと、1ヶ月と少し。
ティアナの出産前に、レイラがカエアンと離縁出来る迄、カエアンは事の結末を知る事になる。
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