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逃亡
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しおりを挟むアーロンがオーヴェンス公爵家へ帰宅したその日、レイラは熱も無いのに、アーロンが顔が赤いから、と言って医者を呼ぶ騒ぎになってしまった。
無理矢理、ベッドに寝かし付けられ、傍に寄り添われて、レイラは恥ずかしさで、頭から顔を出せない。
「レイラ!熱があるなら、医者に見せないと!」
「だ、だ、大丈夫ですから!寝れば治ります!」
---お願いします!あまり顔を近付かせないで!
その騒ぎに、ケリー夫人が呆れ顔だ。
「アーロン、女性には女性特有の体調の変化があるのです。貴方は少し落ち着いて、着替えていらっしゃい」
「…………分かりました……レイラを頼みます」
ケリー夫人に追い出されたアーロン。
それはそれで、傍に居てくれないと思うと寂しくて、レイラは顔を出して見送る。
「ご、ごめんなさい………閣下………」
ポソッと呟くのが、ケリー夫人に聞こえた様だ。
「あら?あらあら………そう……あの子も鈍そうね…………レイラ嬢」
「っ!………は、はい………」
「貴女も口にしないと、伝わらないわよ?」
「ひっ!…………い、言えないです………わ、私は今………人妻ですし……」
「…………そうだったわね……外側から見たらとても面白く見えるのだけど、今は人の道理に反した恋路ですものね………婚約の承認をされてから、というのが、貴女にしたら安心するのかしら?」
律儀にも、レイラはそういう所は真面目なので、気持ちを伝えるのには躊躇するのだろう。
「…………はい……」
「本当………可愛いらしいわ、オーヴェンス公爵家のお嫁さんは」
「っ!」
ベッド脇で、頭を撫でて微笑んでくれるケリー夫人。
「…………お義母様……とお呼び出来る日が待ち遠しいです………」
「今からでも大歓迎よ」
「ふふふ………正式に婚約者になったら、そうお呼びします」
「律儀ねぇ………そこが可愛いから許せちゃうけれど、1人勝手に落ち込むアーロンも、気が付いてくれたらねぇ………」
「…………普通にが、こんなに難しいと思うのは初めてです………」
「そうね………慣れていくわ……約3ヶ月後の夜会迄にはね………起きられるなら、お夕食食べましょう………熱は無いんだから」
「はい」
ベッドに押し込まれただけで、病気ではない。
勝手に勘違いしたアーロンの鈍さだ。
だからといって、レイラが今気持ちを伝える気はないので、普通に振る舞わねばならない。
ヤキモキしているアーロンも見れそうで、ケリー夫人は楽しそうにしている。
「レイラ、起きてきて大丈夫なのか?」
「は、はい………本を読み過ぎて、知恵熱が出たみたいです」
ダイニングで先に来て待っていたアーロンは、もう席に座っていたが、レイラの座る椅子を引く為に立ち上がってくれた。
「ありがとうございます、閣下」
「…………いや……所で、何を読んでたんだ?」
「相対性理論の論文です」
「…………ま、また難しい本を読んでたんだな……」
「面白いですよ?閣下は読まれた事ありませんか?」
「あ、あるのは知っていたが………」
「アーロンも読んだら?」
「…………10分で眠くなりそうなので、止めておきます」
そう言いつつも、読まれた形跡のある本だった。
アーロンも読んでいたかもしれない、と思うと、共通の話題があるのは嬉しい。
「レイラ…………似合ってるな、そのドレス」
「っ!…………ありがとうございます……ケリー夫人が見立てて下さって………とても嬉しいです」
「欲しい物があったら、言ってくれ………本とかも遠慮は要らない」
「…………今は……このお邸の本を全部読破したいので………」
「…………どれだけ知識を頭に入れるつもりだ……凄いな………」
「レイラ嬢は何が一番興味があるのかしら?」
「…………今………そうですね……人の気持ちが分かる心理本なんかあったら読んでみたいです………私、人の気持ちを読むのが苦手というか、鈍いので………」
「…………プッ………そうだな、レイラには必要かもな………」
「それは、アーロンにも必要ね………私も目に付いたら、手に入れておきましょう」
「…………」
「…………は、母上……俺が鈍いと?」
「あら、違う?」
「俺は普通だと思ってます」
好きなレイラの気持ちを分からなくて、普通と言い張るなら、レイラも普通ではないだろうか。
「普通…………て、都合良く出来た言葉だ事……」
「…………はい、そう思います」
「な、何だ?」
「レイラ嬢、ワインは如何?」
「強くないので、少しだけ………」
「女同士の食事、楽しかったわね」
「はい!」
アーロンの分からぬ会話が続く。
1週間、何事も無かった様子のレイラと母の雰囲気に安堵はしたが、この2人の距離が縮まって、少しアーロンは嫉妬心を見せる。
「レイラは俺の妻にするんですからね?母上……まるで、俺が蚊帳の外で貴女達が母子の様だ……」
「母子になるのだもの………犬猿より良いわよね?レイラ嬢」
「はい、嫁姑の仲が悪いより」
「本当、可愛いお嫁さんが決まって良かったわ」
「…………そ、そうですか……」
まだレイラの気持ちが分からないアーロンにとって、レイラが辛い事にならないか、公爵位だから従順になっているのではないか、と不安だったのが顔に出そうになっていた。
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