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逃亡
37 *カエアンside
しおりを挟むアマルディア伯爵家、首都にある邸では大騒ぎになっていた。
「居たか!」
「い、いや、此方にも居られない!」
「一体何方へ行かれたの?若奥様は………」
「ど、如何しましょう!マリア侍女長!執事!」
侍従達一同、レイラが居なくなって邸内を探し回っている。
「五月蝿いわねぇ………行く所が無ければ帰って来るわよ」
「金なんて持ってないしな………おい!それより腹が減った!早く飯を持って来い!」
ティアナとカエアンは、レイラにしてきた事への罪悪感等は無い。
自分達の欲望に忠実過ぎて、視野が狭いのだ。
今でも、未開封の箱から出した子供服や靴、玩具を出しては、まだ見ぬ子供への期待に夢が広がっている。
「ねぇ、名前如何する?」
「そうだなぁ………可愛い名前じゃないとな、ティアナと俺の子だし」
「私は育てないから、あの女の意見も聞いたら?」
「なんだよ、俺との子供が欲しいから、俺に結婚を急かしたんだろ?育てないのか?」
「ふふふ………育児に時間使ったら、カエアンとの時間取れないわよ?………また妊娠して、子供が出来たら、またカエアンとあの女の籍に入れれば良い………私、自分が産んだ子を貴族にしたいんだもの」
「お前は賢いよな………考えも付かなかったぞ、俺は」
ティアナとカエアンは知らないが、これは犯罪だ。
平民が貴族との子供を産むのは犯罪ではないが、それを貴族同士の籍に平民が産んだ子を、貴族女性の腹から産まれた、と申請するのは違反している。
何度、レイラがカエアンとティアナに説明しても、バレなきゃ良い、で済ますのがカエアンとティアナだ。
何処かで、必ず漏れて、現に漏れているのに、気が付きもしない。
首都は広いが、アマルディア伯爵夫妻が一緒に外出する事は見られないのと、レイラが邸と銀行、商会の出入りが頻繁な事から、銀行や商会からカエアンは仕事をしているのだろうか、とざわついているのも、カエアンは知らないのだ。
今、何処でどんな噂が流れ、アマルディア伯爵家が恰好の餌食になっている事も気が付きもしない。
レイラがもう、商会に出入りしなくなれば、噂がまた立ち、忽ち拡散されるだろう。
その騒ぎの中で、カエアンがティアナを守れるか、が注目される筈だ。
「…………もう、戻られない方が良いわ……」
「マリア侍女長……そんな事仰らないで下さい」
「皆も分かるでしょう?………若奥様が、あれだけティアナ様に体型を合わせて外出しているのを」
「…………そ、それは……」
「ティアナ様は平民………貴族の養女となられても、貴族として扱われないから、若奥様が産んだ子だと、世間に騙すのだから………若奥様の親中察するわ」
幾ら邸の侍従達に箝口令を強いても、綻びはあって、疑いの目が光っている。
「仕事先変えようかな………」
「馬鹿ね、今変えたって紹介状も無いと、貴族の邸の侍女は出来ないのよ?………若奥様がいらっしゃれば書いて頂けたと思うけど………カエアン様がしてくれると思う?」
「思わないわね………カエアン様、お仕事しないもの」
「若奥様が来られて、全部若奥様にさせて、カエアン様はずっとティアナ様から離れないし」
「さぁさ、食事を部屋にお運びして!………今日は雨が降っているし、若奥様も雨宿りで何処かの宿に居られるかもしれないわ。きっと明日にはお帰りになるんじゃないかしら」
レイラの存在価値が今更分かった所で、レイラは動き出そうとしている。
後日、アマルディア伯爵領地にアーロンから手紙が送られ、アマルディア前伯爵が激高した事で、再び大騒ぎになるのだ。
「何だ?この請求書の束は………」
「貴方、如何なさったの?」
「首都に居るカエアンの名で此方に送られて来た様なんだが…………ん?……こ、これは督促状!な、何だこれは!」
カエアン宛にロヴァニエ子爵領からの、請求書や督促状、そして首都のあらゆる店からの請求書の山が、カエアンが頻繁に浪費した時期と被り、首都の邸に送れば、必ずレイラに追求される為、領地に送る様にしたのだろう。
ロヴァニエ子爵領から送られて来た督促状は勿論、別荘地の土地代。
ロヴァニエ子爵は、レイラにも通達していたが、レイラは別荘の事が明るみになる前には、アマルディア伯爵家を出てしまった為、見る事が出来ない。
そして、アマルディア前伯爵は事実確認をしようと、首都へ行こうと準備中に、アーロンからの面会要請で、領地に行くと言うのだから、アマルディア前伯爵は領地でアーロンを待たねばならなくなった。
もし、アマルディア前伯爵がアーロンと会うと決めず、首都のカエアンに会いに行っていたら、物事は変わったかもしれない。
しかし、何方が先だとしても、アーロンの包囲網は抜けられぬ様にしてあった。
「急な申し出に応じて頂き、申し訳ない。アマルディア前伯爵」
「い、いえ………手紙にありましたが………それは……じ、事実なのでしょうか?オーヴェンス公爵閣下」
アマルディア伯爵領地にて、アマルディア前伯爵夫妻がどうアーロンに反撃するのか、出来るのか。
「全て…………事実……隅々迄読んで貰えたなら話は早い………保身に走って切り捨てか………破滅の道に共に進むか………何方か選んで欲しい………俺は何方でも構わないが、保身に走るなら………アマルディア伯爵家の存続を手助けしよう」
アマルディア伯爵家領地邸、応接室。
真っ青なアマルディア前伯爵夫妻の前で、腕と足を組み、葉巻に火を点け、アーロンは2人の返答を待つのだった。
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