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救世主
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しおりを挟む今、無いと言ったのか、と目を見開いてティアナを見つめたレイラ。
無い訳はないだろう。
充分な小遣いは渡していた。
「わ、若奥様…………あ、あの……実は……」
「如何しました?」
侍女の1人が申し訳無さそうに、レイラに声を掛け、レイラが発言を許したので続ける。
「旦那様が子供部屋に、と改装したお部屋の事なのですが、その費用は何方から出たのでしょう………今の事を聞けば……気になりまして……」
「え?改装?…………私は聞いてません!何ですか、改装って!カエアン様!」
「子供が産まれるんだぞ!お前は待ち遠しくないのか!いつまでもティアナに子供の事をやらせておいて、母親失格だ!」
「…………いや………私、母親じゃないですから」
「母親はティアナ様よね?」
「うん、ティアナ様………」
突っ込みを入れると、逆ギレするカエアンだが、侍女達の指摘に、案の定逆ギレする。
「黙れ!お前はティアナが産む子供の母親なんだ!」
「…………それで、カエアン様とティアナ様のお金を全て注ぎ込んだから、邸の侍従達の給金を奪って、こんな物を買われたのですね?」
「こんな物、ですって!アンタはこの子の母親になるんですからね!」
「母親は貴女でしょ………私は絶対に、貴女の子供の母親にはなりません。履き違えた価値観や情報を鵜呑みにした事から、常識的考えを持つ私に植え付けるの止めて下さい」
「ま、ま、また訳の分からない話を!」
「子供部屋は何処?」
「向かいの部屋です………若奥様が、商会に行かれている間に時々改装業者を………私達は皆、若奥様はご存知かと………」
レイラはカエアンとティアナの部屋を出て、向かいの部屋の扉を開けた。
そこは、壁紙がピンクに統一され、カーテンもピンクで目がチカチカする派手さ。
そして、また未開封の箱に服がもう用意されていて、色から性別が女の子と分かっているのだろうか。
「…………もし、男の子だったら如何するつもりなのかしら………」
「女の子に決まってるだろ!妊娠時、優しい顔付きで穏やかな生活をしていれば、女の子だと聞いた!」
「…………そんな、医学的根拠でもあるんですか?………本当、馬鹿な事を……靴だって服だって、乳児や子供の成長は早いのに、こんなにも毎日着ても多そうで、この部屋にあった玩具と、カエアン様の部屋にも同じ物を見ましたけど?」
「…………え?本当か!」
「あるわよね」
「あるわ」
「あった」
どんどん、愚者な主人を侍女達に見せ付けていくカエアンには、もう救いようが無いし、レイラも指摘だけで今後も放置しそうだった。
「それで、もう1つ伺っておきたいんですが、私の通帳も消えてましたよ?」
「…………あぁ………そうだったか?」
レイラがカエアンを見ているのに目を背けるカエアン。
ティアナに至ってはお腹を擦りながら、この時の笑みを浮かべたティアナは最悪の結果になる。
「ねぇ、カエアン…………何故あの女に金がある訳?」
「なぁ………本当……結構貯めてたから、使ってやった」
「んなっ!」
「あのお金で、此処を出て行く為の資金にするつもりだったのかしら?無駄だって言ったわよね?…………ふふふ……」
「人のお金をあれ程、今盗むな、と言ったではないですか!働きもせずに全て私に商会の事や邸の事をやらせておいて、1枚の金貨を稼ぐのに、どれだけ時間を要するか分からないんですか!」
レイラはこの日一番の爆弾を投下する。
それでも、カエアンやティアナには響かない。
「さぁな………俺は伯爵、偉い貴族様だ………金貨1枚なんて直ぐに手に入る」
「…………ふざけないでよ!絶対に、離縁してやる!」
「無駄無駄!…………カエアンが承認しないものねぇ?」
「お前は一生、俺達の為に生きるんだよ!」
「……………何に使ったのよ……」
「ん?」
「私が貯めたお金は何に使ったのよ!って聞いてるんです!」
「聞いて如何する、もう払ったのにな」
「答えなさいよ!」
敬語を使う気にもならない。
レイラの歳上なのに、歳下の子供相手にしている感覚だ。
弟のトリスタンより知能が無い。
侍女や侍従もこの騒ぎに集まり出して、マリアや銀行から帰って来たゲイリーも何事か、と駆け寄って来た。
「別荘に使ったわ」
「…………は?………別荘は工事中断している筈………」
「許可なんて待ってられるか、もう直ぐ子供が産まれるのに、許可が出てから建てたんじゃ、間に合わないからな」
「あ、あ、貴方達!…………本当の大馬鹿者よ!」
「っ!」
「っ!」
「…………言ったわよね……私……建築許可が無い場所に、建築物を建てる場合は必ず申請が必要で、地質調査後に許可が出る迄、建ててはいけないと………それを守らなかったら、罰金が莫大なんだ、という事も!…………資金だって、未だに何処から出すかもはっきりさせてないですよね…………お義父様に説明して、工事は中断だと言われたではないですか!まさかまた無視して勝手に進めたんでしょ!」
「……………五月蝿い!」
「っ!」
レイラの激高に、全て言われた事を指摘されたカエアンは、レイラの前に立つと、レイラが、倒れるぐらいの力で叩いた。
「カエアン様!何をしたんです!若奥様は邸の為に頑張ってらっしゃるんじゃないですか!これはあんまりですよ?…………このなさりよう……マリアは今日という今日程、カエアン様にガッカリした事ございません………今後の身の振りを考えさせて頂くかもしれません………ゲイリー!若奥様の手当てをして頂戴!……誰か、医者を呼んで!」
「は、はい!」
侍従達は、レイラを連れてカエアンから離れて行き、カエアンとティアナの前には誰も居なくなっていた。
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