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救世主
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しおりを挟む王太子エルリックの誕生祭の夜会にも関わらず、そのエルリックがアーロンと逃げて来た王城の庭。
一体、レイラは何をしているのだろう、と思っている。
話し掛けられ、面白い事を見れているが、何処まで彼等がレイラの周辺の事を知っているのか理解出来ない。
「あ、あの………私はそろそろ戻ろうと思います」
「あ、待って、レイラ嬢」
「…………もう……嬢……では……」
「またそんな暗い顔して………1人では解決策を見つけられないんだろ?」
「…………な、何を仰るのですか?殿下………あ、あの………」
「殿下、興味と好奇心と娯楽で言っている様に思われますよ、その顔………彼女が怯えてますって」
エルリックの意図が興味や好奇心なら、レイラはエルリックに全て打ち明けれる訳がない。
後退りするレイラの足は、ジリっと方向を変える。
「あ、ごめん………アーロンが説明した方が良いんじゃない?ほら………アレとか………あぁ、それとももっと踏み込む?」
「…………お前、本当に性格悪いぞ!そのアレとやらは本当に好奇心と娯楽だろ!」
「え?アーロンの素が見えて面白いし」
「あ、あの本当に失礼を………」
「あぁ、いや………待ってくれ、令嬢」
「俺、ちょっと離れててやろうか?アーロン」
「そういう時は何も言わず静かに離れてろ!でも、それは今は余計なお世話だ!」
一体全体、何を見せられているんだろう、とすっかり涙も枯れ、寒いので本当に中に入りたいのだが、とレイラは寒さから自分の身体を抱き締めている。
それを見たアーロンは直ぐに上着を脱ぎ、レイラの肩へ掛けた。
「あ、あの………本当にこの様な事は!……誰かに見られたら誤解を招きます!」
「いや、もっと早く、掛けていたら良かった、と思うよ………人払いさせているから、それは安心してくれ………殿下が居られるのだから、護衛はついている。会話も聞こえない距離で、この噴水を囲っている」
「ですが、閣下が寒いのでは」
「君の格好より、露出は少ない………腕を出したドレスを着ているんだ、寒かっただろ」
「っ!」
「気にせず、羽織っていればいい」
「…………あ、ありがとう……ございます……以前の事も今日の事も………以前のお礼もあんな物で、と思っていたのに………何とお礼を申し上げたら良いのか………」
「…………あぁ、あのお礼は気に入ったよ……付けているだろ?」
アーロンがレイラに羽織らせている上着の襟に、キラリと光るピン。
使ってくれている事がこんなに嬉しいと思うとは思わなかった。
「…………ありがとう……ございます……」
「え?………今泣く所か?」
「う、嬉し………くて……誰かに贈り物をした事………無かったですから………病弱の妹に先日、帽子を贈ったぐらいで………家族以外に贈ったから、ご迷惑ではと……」
「あ………いや……嬉しかったから……愛用しようと思う………」
「お~い………アーロン………話しするんじゃなかったのか~」
何やら、話が逸れてしまい、尚且つ甘い雰囲気になりそうだったので、背後から野次馬的存在にされてしまったエルリックに突っ込まれる事態になってしまった。
「あ………エルリック殿下に無礼を!申し訳ございません!」
「いや、絶対に無礼じゃないから………」
ニマニマしている所を見ると、アーロンのレイラに対する言動が、微笑ましく見えているのかもしれない。
「甘い雰囲気は結構だけど、相手は人妻だからな、アーロン」
「…………分かってる……すまない、脱線した」
「あ、いえ………私も申し訳ございません」
「で、話し戻すけど、レイラ嬢の憂いを取り払ってあげようかな、て俺達思ってるんだけど………」
「取り払ってあげる、というより、国の方針で決定した事案が、君に関係する事でね………協力した方が何かと円滑に進むな、と」
「それは………ロヴァニエ子爵家の事ですか?それともアマルディア伯爵家………」
「両方………かな?この場合………協力しあえば、レイラ嬢のアーティファクトを使わなきゃならない理由も解決出来るよ?3ヶ月以内に」
「え!ほ、本当ですか!」
エルリックがレイラの腹を指差し、ウィンク迄見せているが、10歳ぐらいの姿では可愛さしかない。
もし、18歳の本当の姿なら、女性達はときめくだろう。
「…………アーロン……俺って魅力無い?」
「阿呆…………あぁ、君の憂いも解決出来ると思う」
レイラにウィンクを無視されて、少しショックを受けたエルリックに、アーロンは追い打ちを掛けて、レイラの事に集中する。
「…………あの……少し考えさせて頂けませんか?」
「え?如何して!時間無いんだよ?」
「…………当事者でも無いのに巻き込まれる人達も居ますよね?領民とか………産まれて来る生命………とか……此処には居ませんが………当事者だけを………当事者達から私は逃げたくて………」
「方法は考える」
「…………それでも、私にも準備がありますし、お返事は後日でも宜しいですか?」
「うん、あんまり待てないけど、連絡待ってるよ。俺達としたら、やっぱりレイラ嬢の協力が欲しいし」
「…………分かりました……あ、上着をお返しします。あとは戻るだけなので………公爵閣下、ありがとうございました。エルリック殿下、本日はお誕生日おめでとうございます。若き太陽に栄光を………」
レイラはそのままアーロンの上着を着て行く訳にはいかず、最上級の挨拶をした後、城内の夜会へと戻った。
「何、あれ………ちょっと惚れそう!可愛いじゃん!」
「駄目!俺が先に目を付けた!」
「ねぇ、いつ惚れたんだよ、なぁ………いい加減教えろよ、アーロン」
「五月蝿いな、俺達も戻るぞ!」
「えぇ!聞かなきゃ戻らない!」
「なら、寒中水泳でもするか?」
「っ!…………ま、待った待った待った!止めろ!分かった聞かないから!」
10歳サイズのエルリックは余程軽かったのか、アーロンに担がれるエルリックは目の前の噴水に頭を付けられそうになっていた。
その後、本当にエルリックが寒中水泳をしたのかは、夜会にその後も戻らなかった事が証明した。
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