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救世主
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しおりを挟む「…………ふぅ……夜空の星が綺麗だし、この寒さが心地良い……」
今回も嘘八百の戯言でレイラと仲が良く、愛妻家を演じるカエアンから、コソッと逃げたレイラ。
思い出にもなった噴水の脇に座り、冷たい水を掬っては手から溢れる様を繰り返し見ていた。
「まるで私の様………幸せが手から溢れてく……」
決して自分を悲観したい訳ではないが、寂しくなると、苦渋しか思い出せない。
だから、思い出となったこの場所に来たのに、アーロンに会えるとは思えないのに来てしまった。
「またそんな薄着で上着も羽織らずに………身体が冷えるぞ」
「っ!」
「また君を驚かせたな」
「オーヴェンス公爵閣下にご挨拶申し上げます………えっと………申し訳ありませんが、失念した様で、其方の小さな紳士は何方の方でしょうか……」
アーロンが今度は、見知らぬ少年と一緒に居たので、対処が分からない。
「あはは、分からないのは無理はないね」
「彼は王太子エルリック殿下だ」
「…………え!エルリック殿下?………でもお姿が……」
先程は18歳に見えた青年だったのに、今は10歳ぐらいの少年だ。
「年齢を変えられるアーティファクトを使ってる…………女性達から逃げてきてね……そうしたらまた女性が居たんで、様子を見ていたら意味深な言葉を聞いたんで、声を掛けたんだ」
「も、申し訳ございません………殿下の憩いの場所を私の様な者がお邪魔致しまして……」
エルリックの紳士的な態度は、歳相応な対応で、10歳の少年では言えない様な言葉だ。
少なくとも、レイラが知る少年像ではない。
「気にしなくて良いよ、この庭は開放している場所で、登城した者なら入れる」
「所で、また何かあったのか?」
レイラがエルリックと会話をするものだからか、アーロンが割って入る。
本来なら無礼ではありそうな割って入った言葉に、エルリックは気にもした様子も無い。
「…………いえ……特には………殿下や公爵閣下にお話する様な事は何も……」
「本当に?…………俺は王太子だよ?国民が憂いているなら解決したいと思ってる。それとも君は国民ではないのかな?」
何故なら、エルリックもレイラがこの場に居る事に不審感を覚えていたからだ。
「殿下は聞きたいだけでしょ」
「え?気にならないの?アーロン………気にならないの?…………気になるよね?」
少年の粒らな瞳で、上目遣いでレイラとアーロンを見つめるエルリック。
アーロンがまた何かあったと察してレイラに聞いてしまったから、エルリックも興味を示した様ではあるが、その表情はレイラを心配する感じでもなく、ただの興味本意。
しかし、レイラは見苦しい、耳汚しになる話題には触れたくないと思っている。
「本当に何も………」
濁すだけ濁して、レイラはこの場から離れようと思っていたら、エルリックが突如話を変えてきてしまった。
「…………そういえばさ、アーロン」
「何です?」
「ロヴァニエ子爵の事でさ」
「今、それ話ます?」
「ロヴァニエ子爵家が如何したんですか!この夜会に家族の1人も来ていないなんて……姉は……姉のライラはオーヴェンス公爵閣下と婚約される、と聞いて…………あ、あれ?何を驚いて?」
レイラのまくし立てた言葉に一番驚いていたのはアーロンだった。
全く身に覚えがない訳ではないが、噂に疎そうなレイラから聞かされた時のアーロンは、エルリックが見た事も無い表情をしていたらしい。
「プッ…………あははっ………ははははははっ!お前………アーロン!ライラ嬢を誑かしちゃ駄目だろ!」
「誤解だ!何故ライラ嬢とそんな話になってる!」
「違うのですか?」
「違う!断じて違う!」
ライラから聞いた話が嘘だと言われ、何が正しいのか、レイラはロヴァニエ子爵家の今が分からない。
アーロンの慌てて訂正する姿も、以前会った時の紳士的な空気は全くなく、これが素の姿かもしれない。
「君、ロヴァニエ子爵の次女、レイラ嬢でしょ?」
「は、はい………今は……違いますが……あ、名乗りもせずご無礼を……レイラ・アマルディアと申します」
「うん、知ってる………最近よく耳にするんだよ、君の名前」
「え?何か私が殿下にご迷惑をしましたでしょうか」
「…………君、自己肯定感が低いんだねぇ……それに、賢くてそれを誇示しないんだな」
「どういう意味なのでしょう………」
自分の知識を誇示して何になるのか。
誇示した時、兄マキシムからの言葉でレイラは傷付き、賢く振る舞うのを止めていた。
今はアマルディア伯爵家に居るので、マキシムの様に抑えつけて来る者は居ない。
「君、幸せを掴みたくないのか?」
「…………え?」
「今、幸せが溢れていく、と言ったの忘れた?」
エルリックがレイラを心配そうな顔で見てきている。
2度も幸せという言葉を言われ、レイラはあの時の表情と言葉で、何か察知されてしまったのだと、嘘では言い逃れは出来ないと悟った。
「…………私1人では、難しいんです………あと3ヶ月以内で、どうにか出来るなんて思えなくて………ロヴァニエ子爵領で、夫が別荘を買おうとしています……資金も幾ら掛かるかも気にせず、とても無知で………父はそのお金を当てにしているだろうと思うのですが、ロヴァニエ子爵家のほぼ浪費癖を持つ人達で、領地の事や領民の事、従業員達の給金……本当に考えてくれているのか、と……その別荘の土地代から建築費、夫が自分で出すとも思えません。私は………あと3ヶ月以内に決着を付けたいのですが、何方も守る気も起きず、逃げ出したいと考えています」
「子供は如何するんだ?母親になるんだろう?」
「…………この姿………いえ……何でもありません……」
エルリックに言ってしまったら、もう言い逃れ等出来ない。
アマルディア伯爵家の人間になっている今、レイラにも責任があるだろう。
「アーティファクトを使ってる?」
「っ!」
「あ、図星だ………君、嘘下手だなぁ……顔に出てる………妊娠してないでしょ」
「そうなのか?本当に妊娠していないのか?」
「アーロン、彼女に近過ぎ」
今にも腕を掴まれ、アーロンの顔が近くに来ようとする時、エルリックがレイラとの距離を離そうとアーロンの額を押して離した。
「な、何故お分かりに?」
「え?だって、アマルディア伯爵家に養女が居るだろ?平民の義妹にカエアンはベタ惚れって、誰でも知ってる………それがいきなり結婚って……しかも、相手は経営難のロヴァニエ子爵家の令嬢だって言うんだから、調べて当然」
「殿下は、その観点から調べてないでしょ」
「協力してるだろ!お前の案に!」
「利害一致したからだ」
レイラは、このアーロンとエルリックは何処まで知っているか分からないので、この話を聞かないと離れられなさそうだった。
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