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救世主
24 *番外
しおりを挟む王城、王太子執務室。
「殿下、調査依頼のあった件で報告が………」
王太子、エルリックの側近であり、従兄でもあるオーヴェンス公爵が、開いてある扉をノックし、書類を持って立っていた。
「アーロン、丁度良かった………気になってた事があったから、さ」
「仕事中だ、阿呆………オーヴェンス公爵と呼べ、エルリック」
「良いじゃん………本当、オーヴェンス公爵は真面目だなぁ……」
オーヴェンス公爵、名はアーロン。
アーロンは書類をエルリックに渡し、エルリックの執務机の上に座る。
「え………書類の上……」
「早くして下さい……俺は機嫌が悪いんで」
「何だよ………例の愛しの彼女の事か?」
「それ絡みだからです」
「…………先に見ろって事ね?…………どれどれ………」
アーロンはエルリックに判断を委ねようと、その結果で動く気の様だ。
「ふ~ん………本当に馬鹿なんだな……あの夫は」
「早く解放させてくれ」
「え?………待ってよ………まだあっちがさ………」
「それなら、これをしてくれ」
「ん?…………こ、これは………あ、後出しズルいぞ!アーロン!」
「頼む!違法建築物取締につき、工事停止及び、非許可を出してくれ!」
「…………出すのは良いが……」
「で、これ………」
「…………は?………お前………買う訳?この曰く付きになるこの場所を!」
「あぁ…………直に俺の領地になるしな……先に奪って何が悪い?」
あっちだの、これだの、お互いにしか分からない意思疎通。
国政を担う王太子と、その補佐をする従兄である公爵が、何やら企んでいるのは分かる。
「…………ん~……どうせ、お前の領地にするんだから、買わなくてもさ………」
「もう、我慢の限界なんだ………彼女が苦労しているのを手助けも出来ない………まだ俺は顔見知りだからな」
「分かるけどさ………だから、彼女の家族から接近したんだろ?」
「いや、父親が融資を願ってきてからだ」
「…………え?いつお前、彼女に惚れたの?」
「内緒」
アーロンは以前から、海賊被害や事業の立て続けの失敗している領地、ロヴァニエ子爵領を懸念していた。
代替わりしたロヴァニエ子爵家。
名門の名が泣くこの衰退はおかしい、と調べてからの事だった。
造船と商売の才があるロヴァニエ子爵に、海岸線のある土地を国から与えられて、数百年。
今迄は、衰退する様な事はなく、海の主要都市に繁栄した領地だったのに、代替わりしてから事業の失敗が相次ぎ、海賊からの被害が多発、そして事もあろうに娘を売って迄、金を手に入れた暴挙。
結婚が商売になる事は、貴族の間で罰にはならない為に、よくある事だと一般的な感想しか無かった。
それでも、かろうじて領地を保っていたのは、誰かという事だ。
愚者であるロヴァニエ子爵ではない筈、と思ったのは、代替わりして3年後だったから。
個人的に調べると、長男も優秀とは聞いた事もなく、長女は論外。
次男と三女はまだ幼く、経営の才があるのか如何か、と思えば次女の存在に目が行く。
『へぇ~…………親に内密で補佐するとは、なかなかの逸材だな』
と、思っていた。
第一印象が、一回り程歳の下の令嬢に、感情の様な物はない。
せめて、あの領地を守れるなら、と女性に爵位を与えても良いのでは、と思ったからだった。
しかし、その令嬢が融資と引き換えに、結婚をさせられる、と知った時、ロヴァニエ子爵家の存続は如何する、と嘆いた。
国王や王太子からは、ロヴァニエ子爵家を取り壊し、領地を返還させ、アーロンが領地を持つ方が良いのでは、と提案あり、それには一度はアーロンは了承していた事だ。
しかし、いつまで経ってもロヴァニエ子爵へ要請してもナシの礫。
それが1年程続いている。
流石に、国も海賊の被害が増えている今、放置は出来ない。
民が被害に遭っているのに、対策もしないロヴァニエ子爵が国からの要請を聞かないからだった。
アーロンは、ロヴァニエ子爵の次女、レイラが気になり始め、嫁いだアマルディア伯爵家迄調べた。
家督を継いだ、愚息という噂のあるカエアンの妻になって気の毒だと思った。
しかし、家督が変わった途端、アマルディア伯爵家の財政が右肩上がりに急激になるのは、レイラがキッカケだと、調べて見れば分かる事。
最近、成人したばかりの16歳の少女が、経営の才があるなど誰が思うものか、と信じられなかった。
「何か嬉しそうだなぁ………」
「…………まぁな………手に入りそうだし?」
「何企んでる?他に」
「ん?…………離縁からの婚約?」
「は?…………簡単に出来る訳ないじゃないか!」
ロヴァニエ子爵の取り壊しと、アマルディア伯爵家の両方の問題がある以上、簡単に解決する訳ではない。
「だから、エルリック………お前の力が……あぁ、いや………陛下の方が良いよな……お前じゃ役不足」
「何だと!協力してやってるだろ!お前の恋路!」
「俺だって、海賊の被害の対策行って、案を出したが?」
「ぐぬぬぬぬ……」
「そういう事だ………直ぐにやってくれ、殿下」
「絶対に、お前達の邪魔をしてやるからな!」
もう、用事が終わったアーロンは、エルリックの執務室から出でようとした背中に、エルリックの遠吠えが響いたのだった。
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