何故、私は愛人と住まわねばならないのでしょうか【完結】

Lynx🐈‍⬛

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救世主

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 翌日、首都に来ていたライラが会いたい、と連絡がアマルディア伯爵家から入り、レイラはマキシムとライラが泊まる宿の近くのレストランで、昼食を取る事にした。
 アマルディア伯爵家にはティアナが居るからだが、ライラもティアナとは会いたくないだろう、快くそれに応じてくれた。

「まさか、レイラが妊娠したとはねぇ……びっくりしたわ。何故連絡をくれなかったの?」
「ほら、ロヴァニエ子爵家も今……大変だから」
「確かにねぇ……でも、別荘が出来たら、会いやすくなるわね」
「え?まだ建築はしていないですよ?」
「何言ってるの?もう造ってるわよ?アマルディア伯爵が領地から職人呼んで、先日から工事しているわ」
「な…………聞いてな……」
「じゃあ、レイラに内緒だったのね………お父様は早く土地代を払って欲しい、てアマルディア伯爵に手紙を送ってるみたいだけど」

 レイラは資金の事を何も決めていないのに、何故勝手に話を進めているのか、と腸が煮えくり返る思いだ。
 それもこれも、ティアナがカエアンに頼んだのだろう。

「私もね、結婚決まったら、たまに使わせてくれない?今が正念場なのよ」
「え?…………お姉様、お相手が居られるのですか?」
「えぇ!とても素敵な方よ!王太子殿下の従兄で、オーヴェンス公爵閣下!」
「…………オーヴェンス公爵閣下、ですか?……凄い方とご縁があったのですね……」

 乙女の様に、ライラが手を組みウットリと天を仰ぐ。
 確かに男前の独身男性だし、26歳という働き盛り。
 浮いた話は一切聞かない、令嬢達の狙う男の1人だ。

 ---優しい方だったな……お姉様と婚約されるなら、きっとまたお会い出来るかもしれない。昨夜のお礼もしたいし………何が良いかしら

 ライラにオーヴェンス公爵の好きな物を聞こうかと思ったが、何故か聞き出す事が出来ない。
 モヤっとした気持ちが、胸を苦しめたからだ。

「でしょう?それも全て、レイラがアマルディア伯爵と結婚したからだわ!」
「私?」
「アマルディア伯爵家の事業が右肩上がりらしいじゃない?だから、あんな広大な土地に別荘が建てられるのね!意外と貴方の旦那様、出来るじゃないの………あまり良い噂聞かなかったから、全然好みじゃなかったし、あんな平民如きに現抜かして、碌な男じゃないと思ったけど、貴女と仲良いみたいだし、噂はやっかみだったのね」
「…………お姉様……どんな噂を耳にされたのですか?」
「そうね………もう過ぎた噂だから言うけど、平民女と街で買い物をよくしていて、2人で花宿で目撃された、とか?」

 花宿とは、恋人同士に通う、情事の為の宿だ。
 同じ邸に住んでいるのに、何を馬鹿な事をしているのだろう。
 それでは偽造した所で、もう言い逃れ等出来やしない。

「お姉様」
「ん?」
「お姉様は噂好きなご友人多かったですよね?」
「えぇ、面白い噂聞きたいなら、答えてあげるわよ?」
「アマルディア伯爵の別荘の事を流して頂けませんか?」
「良いけど、何て?」
「愛妻の為に、実家の領地に豪邸を建てた若き伯爵、と」
「…………何か企んでる?」
「お金、早く欲しいのでしょ?」
「そりゃ、勿論!」

 このレイラの考えがどう転ぶのか、アマルディア前伯爵は知っているのかを見る為だ。
 自分から聞けば良いが、領地への連絡に関しては、何故かカエアンやティアナが目を光らせていた。
 都合の悪い事でもあると、レイラは直感が働いている。
 高額な物を買うのだ。
 こればかりは、アマルディア前伯爵夫妻も知らないと大変な事になる。
 もし、アマルディア前伯爵が支払いを拒否したのなら、レイラが今迄カエアンやティアナから言われた事を包み隠さず暴露するだけ。
 アマルディア前伯爵は分からないがエリーゼ夫人は絶対にティアナの肩を持つと思われても、アマルディア伯爵家の業績を上げているのはレイラだ。
 アマルディア前伯爵もそれは分かっている。
 レイラがそんな馬鹿な買い物をしない事も、カエアンが妻の為に別荘を購入しない事も。
 おかしいと思う筈だ。
 ロヴァニエ子爵家への融資額程ではないにしても、充分にレイラはアマルディア伯爵家に貢献している。
 
「そういえば、セイラは元気にしていますか?」
「セイラ?………ん~ん……気が弱くなってるわ………貴女の結婚式にお父様とお母様が行けなかったでしょ?」
「……………はい」
「出発前に、セイラは熱がある事を隠してたのよ」
「え?」
「楽しみにしてたみたい。レイラの花嫁姿………興奮して眠れなくて熱が出たらしいのよ………トリスタンは行きたい、て私達と行く予定ではあったんだけど、トリスタンはトリスタンで、馬車に乗り込む時、踏み台で足捻っちゃって………手紙の件もあったし、お父様は怒ってたからそれはそれは大変だったわ……」

 結局、ロヴァニエ子爵への誤解は解けたレイラだが、もし結婚式に来てくれていたら、両親からの愛情を期待しない事を止めていたのだろうか。
 期待しようとしても裏切られる悲しさは、両親の顔を思い出すと蘇るのだ。
 弟妹の病気や怪我で、何度大切な日を忘れられたか分からない。
 レイラの誕生日には、マキシムの馬術大会があったり、ライラのデビュタントで後回しされたり、トリスタンが落馬して骨折したから誕生日の祝いどころではない、と言われたり。
 セイラに至っては季節の変わり目になる気温差の変動で体調を崩しがちで、今はその時期だ。
 レイラの誕生日はもう直ぐだが、嫁いだ娘の誕生日は忘れられて当然に違いない。

「体調にはくれぐれも気を付けて、とセイラに伝えて下さい。それと………これをセイラに渡して貰えますか?」
「…………これは?」
「帽子です。あの娘、いつもベッドで寝ているから、外に出る時の楽しみにしたい、と言っていたし」
「……………私には無い訳?」
「……………お姉様は、趣味じゃないとか、これは持ってる、とか仰るじゃないですか。だから用意していませんし、この帽子は此処に来る前に買ってきたので」
「家族全員にお土産渡すのが筋じゃない?」

 ライラの病気といえばコレ。
 物欲の塊。
 
「…………此処の昼食代は私が払いますから、それで勘弁して下さい。用意していないんです」
「昼食代は当然、貴女が払うのよ?………用意していないなら、また明日会いましょ」
「…………今日だって、アマルディア伯爵家の仕事を中断して来たのです………明日は無理ですし、お姉様はいつまで首都に居られるんです?」
「明日には帰るわ」
「それでは遅いではないですか」

 一体、何処までせびるつもりなのか。
 妹からせしめる事への恥ずかしさは無いのだろうか。
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