何故、私は愛人と住まわねばならないのでしょうか【完結】

Lynx🐈‍⬛

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救世主

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「アマルディア伯爵ご夫妻ご入場!」

 到着すると、案内された会場迄、王城の騎士にエスコートされ、入場し何処の貴族かを紹介される。
 きらびやかなシャンデリアに、見た事も無い絵画、ふかふかな絨毯、レイラが今迄に本を読んで夢見た世界だった。
 此処にカエアンが居なければ、どんなに自由に見て回れたか、と思うと、直ぐに現実に帰ってきてしまう。

「ご結婚された噂は本当だったのね、アマルディア伯爵の嫡男」
「今は家督を継がれたらしいぞ」
「カエアン卿といえば、噂にあった………」
「それがあの女性?まさか………平民は登城出来ないですわ」
「では別の令嬢を娶ったのか」

 何やらカエアンの噂をしているらしい人達。
 耳を傾けると、ゴシップ好きな貴族達の様だ。
 というからには、カエアンとティアナは何かと話題に挙がっていたのだろう。
 ティアナは今でこそ外出しないが、首都に居て外出してこなかったとは言い難い。
 それこそ、首都の平民出自なのだから街に出れば友人や知り合いも居るだろう。

 ---知らぬは本人ばかり、という訳ね……だから、その噂を掻き消す必要があった所で、私との結婚に踏み切った、て事?じゃあ、妊娠中に離縁しないと、大変な事になるわね

「あ………」
「如何した?」
「兄と姉が居ますので、挨拶して来て良いですか?」
「…………俺も行く」

 人混みで分からないが、マキシムとライラは誰かと談笑している様に見えた。
 誰かは分からないが、ライラが嬉しそうにしている事で、相手は男だろう。
 しかし、カエアンは呼び止められ、レイラは抱き止められてしまった。
 仲の良い芝居をしなければならない、という気持ち悪い約束の所為で、カエアンも触りたくないレイラに触れているのだ。
 ティアナとの約束とはいえ、居ないのだから無視すれば良いものの、この馬鹿な男は律儀に守っている。

「アマルディア伯爵、ご結婚されたとか……おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「家督も継がれたとか?」
「えぇ………嬉しい事に、結婚後直ぐに妻が妊娠もしまして………」
「っ!」

 打合せも無いこのカエアンの発言。
 先程のカエアンとティアナの噂を払拭するかの如く、カエアンの爆弾発言に、周囲のゴシップ好きな貴族達は、カエアンとレイラに集まってきてしまった。

「まぁ、おめでたい事が続かれましたわね、アマルディア伯爵」
「ご夫人もおめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「カエアン様っ!」
「ほら、お前も礼を言え」
「っ!」

 この騒ぎに、マキシムとライラも気が付いた様で、人を掻き分けて迄、レイラに近付いて来た。

「レイラ!それは本当なの?」
「お、お姉様………」
「父上には報告してるのか?」
「お、お兄様……」

 レイラは久々に泣きたくなる。
 嘘で塗り固まらされた、レイラの結婚。
 謀ってしまった事への罪悪感。
 ロヴァニエ子爵家の娘として産まれて、体裁と見栄だけの塊の家族とは違って、自分だけは嘘偽りなく生きていきたかったのに、こんな時にこんな場所で、言われて欲しくない事を言われて、祝福されるという事は、後に祝福した人達を騙し謝罪もしなければならない。

「っ!…………失礼します!」
「あ、レイラ!」
「何だ?レイラの奴………如何したんだろう」
「知らないわ………でも泣きそうだったわよ?」
「…………フッ……」

 カエアンは、逃げたレイラを追う事なくしてやったり、と笑顔を絶やさない。

「妻は悪阻がある様でして、皆様に迷惑お掛けしない様に配慮したのでしょう」
「そうでしたか、それは致し方ないかと」
「お大事に、とお伝え下さい」
「ありがとうございます、妻も喜びます」

 この猿芝居を、遠くから傍観していた男が居た。
 そして、レイラの後を追うのだが、その事に誰も気付いては居なかった。

「うっ………っ………ヤダ………もう………嫌……」

 何処をどう歩いて来たか分からない。
 足を止めた時、目に入った噴水のベンチに座り、声を圧し殺してレイラは泣き、涙を止める事も出来ない。

「どうぞ、良かったら」
「っ!…………あ、あります……ハンカチなら持って………」
「もう、そんなに濡れて役に立つ?」

 レイラの前に、気付けば男性が立っていて、ハンカチを渡すのに、蹲ってくれた。

「服が汚れてしまいます………私の事は捨て置き下さい………」
「号泣する若い女性を放置する程、俺は薄情では無いと自負しているんだが………俺が君から見えなくなるのは、君が泣きやんだ時だ」
「…………っ……っうっ……」

 こんなに男性に優しくして貰った事はないレイラ。
 嬉しくて甘えてしまいたくなる。

「妊娠しているんだろう?身体も冷える……中に入ったら?」
「嫌です………戻ったら……また屈辱に……耐えないと………」
「…………では、コレを……」
「っ!………いけません!それでは貴方が風邪をひいてしまいます!」

 男は、上着を脱ぎ、レイラの肩に掛けようとしたが、レイラは突っ撥ねる。

「妊婦の身体の方が大事だと思うけど?」
「…………戻ります……申し訳ございませんでした………オーヴェンス公爵閣下」
「あれ?俺自己紹介してないよね?」
「…………貴族名鑑を見ていましたので、覚えています………私も名乗らず申し訳ございません………レイラ………っ……」
「分かっているから名乗らなくていい………察してあげるよ」
「…………ありがとうございます……」

 すると、何処からかレイラを呼ぶ声がした。
 声はカエアンだが、この時始めて名を呼ばれる。

「つ、連れが迎えに来た様ですので………ハンカチのお礼は必ず致します……ありがとうございました」
「…………うん……また……」

 レイラが走って離れて行く。
 妊娠している女ならば、走る事は避ける筈。
 それをレイラはしなかった。

「…………やはり、あの男には勿体無い……ちょっとアマルディア伯爵家も調べるか……」

 不吉な予感さえさせる言葉をオーヴェンス公爵は残し、葉巻に火を付け、深く肺へ吸い込んだ。


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