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結婚
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しおりを挟む季節が移り変わり、少し肌寒くなった頃、建国祭がある。
その為にカエアンは首都に帰って来たのだが、レイラは建国祭にある貴族界の夜会に参加しなければならなかった。
「え!コレを使えと!」
カエアンから渡されたのはアーティファクトという魔法の道具だ。
アーティファクトは色々な用途がある。
明かりを灯せたり、火を起こす道具だったり、人の生活に欠かせない道具だ。
だが、中には異様なアーティファクトがある。
それが、カエアンが持つ物で、人間の身体の体型を意のままに変えられる、というもの。
「仕方ないだろ!ティアナは安定期に入り、腹も少し出て来たんだ!お前はティアナが産む俺達の子を妊娠している、という事にしないと」
「嫌です!安定期だと言ってもまだ5ヶ月だと言うじゃないですか!人によってはまだお腹は出ていませんよ!」
如何にかして、そんな道具を使わず、レイラが妊娠している、という誤解を植え付けられたくはない。
カエアンとティアナが考えている事に、レイラが国を謀った罪に問われたら、レイラも罰せられてしまうのだ。
外見だけで、そんな誤解を招く事になるのも嫌なのだ。
「カエアン」
「ん?何だ、ティアナ」
「………………」
嫌がるレイラを見て、カエアンにティアナが耳打ちする。
「…………なる程………分かった」
ニマニマと不敵な笑みをレイラに見せつけた2人に、レイラは嫌な予感がしていた。
「良いぞ、使わなくても」
「当たり前です、使いませんから」
「その代わり、仲の良い夫婦らしく演技するんだ」
「…………そ、それも嫌ですけど、妊娠していると誤解されるより良いです」
仲の良い夫婦とは真逆な夫婦ではあるし、レイラはアマルディア伯爵家の籍に入っている以上、渋々了承せざる得ない。
「じゃあ、それで決まりだな」
そして、カエアンとコーディネートを合わせたドレスをティアナが用意した、と言い出して、また何を勝手に、と思ったが、ティアナにしては無難なドレスだったので、レイラはそのドレスを着る事にした。
夜会迄に出席する貴族達の顔と名、出身地、アマルディア伯爵家の事業の為に、話題作りのタネを考えてレイラは備えていなければならず、カエアンやティアナの事は相手にする事もなかった。
「出られるか?」
「はい………もう出られます」
「行ってらっしゃい、カエアン………浮気しちゃ駄目よ?」
「する訳ないだろ、俺はティアナ一筋なんだから」
邸の中とはいえ、ひと目を憚らずカエアンとティアナはキスを見せつけ、若い侍女達は素敵なカップル、と思っていそうな高揚感漂う目で2人を見ていた。
---何処が羨ましいのかしら……
頭の中が常にお花畑の2人を、全く羨ましいとは思えないレイラ。
カエアンを好きなら羨ましいと思ったかもしれないが、全く持ってそんな感情は生まれては来ない。
「先に馬車に乗ってます」
「羨ましいんでしょう?」
「別に………尊敬に値する方達なら羨ましいとは思うと思いますが………」
「何ですって!」
「ティアナ様、胎教に悪いですよ」
首都の邸にはマリアが目を光らせていてくれるので、虐めの類いはめっきり減った。
「ティアナ、任せておけよ」
「お願いね、カエアン…………きっとよ?」
「あぁ………あの女にもう好き勝手させるか」
カエアンとティアナに背を向けていたレイラには2人の言葉は聞こえなかった。
♡ ♡ ♡ ♡
王城に行くのが始めてのレイラには、何もかも新鮮で目移りしそうだった。
ロヴァニエ子爵家は首都に邸が無く、両親は首都に行く時は宿を取っていた。
経営難が続き、数年ロヴァニエ子爵は王城へは赴いてはおらず、資金集めで首都を駆けずり回るぐらいだったらしい。
だから、レイラは首都に行く父に時折、本を数冊土産に貰うぐらいでしか、首都との関わりがなかったのだ。
「これだから田舎者は………」
「始めて王城に来るんです。デビュタントも出てないので」
「プッ………」
「笑う様な言葉ではありませんが」
「貧乏な貴族の女は出れないもんなんだな………デビュタントといえば、これで結婚相手が決まると言っても過言ではないのに」
「カエアン様はそれで結婚相手を見付けた訳ではないじゃないですか」
「俺はティアナが居るからな………求婚者が多くて困った困った…………」
「…………馬鹿らしい集まりなのですね、デビュタントというのは」
「何だよ!」
貴族の世界は意外と狭い。
社交会に出ない事には、出会いがほぼ無いのだ。
だから貴族名鑑という書籍もあり、各家に数年に一度、1冊ずつ配布されて、結婚相手を見つける事もある。
---そういえば、お姉様もよく貴族名鑑を眺めてらしたわね……書庫に行っても本を読むでもなく、貴族名鑑目当てで見てらした……
ライラも好きな男でも居たのだろうか。
だから、カエアンとの結婚を拒んでいたのかもしれない。
ライラの好きな相手の事には興味も無いが、首都になかなか行けない令嬢の日常とはそういうものなのかもしれない、とレイラは感じた。
---発行された時、一度見れば済む気もするけど………
レイラは恋を知らないから言える事。
何しろ、レイラの周りの男は愚者ばかりなのだから。
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