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結婚
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しおりを挟むレイラが首都に居を移動し、暫くは平穏に暮らして来れた。
それは、ティアナの悪阻が思ったより重く、カエアンとティアナの情事が無い事と、マリアが邸内の者は皆知っているのだから、カエアンとティアナの寝室に、レイラを入れる必要はない、とはっきり言われ、カエアンは特にマリアからの言葉には逆らえない節があり、レイラは情事の声を聞かされる事なく、睡眠不足にならずに済んでいる。
ロヴァニエ子爵家にも、レイラが首都に居る事も伝えてあるので、別荘探しの件も手紙のやり取りで進められていた。
「…………この間取りとこっちの景色……これならあの人達も納得するかしら」
今迄、何軒かをカエアンとティアナに見せてきたが、ティアナの我儘にロヴァニエ子爵やマキシムも妥協させろ、と手紙に書かれ、金の無心をされているので、いい加減決めては欲しかった。
未だに何処から資金を出すのか、カエアンははっきりしないのも悩みの種で、ティアナが悪阻で静かになった分、カエアンがティアナに付きっきりで五月蝿くて堪らない。
そう、カエアンは全く家の仕事をしないのだ。
邸の事も、領地の事も、鉱山や鉱山以外の工房や店の事も、全く目に通さないので、レイラはゲイリーの目を掻い潜り、小銭を蓄えられている。
レイラがそうやって働くから、貯蓄が出来るのであって、タダ働きなんて本来したくないのだ。
「カエアン様は部屋かしら」
「はい、今日は一度もお部屋から出ておられません」
「少し外しますね」
「畏まりました、若奥様」
領地と比べて、本当に首都のこの邸は住みやすい。
カエアンとティアナ、ティアナを擁護する若い侍女達さえ居なければ、だが。
「カエアン様」
「何だ、何の用だ」
「別荘の事で、またロヴァニエ子爵領から場所と見取り図が届いたので」
「…………見せろ!」
悪阻が酷いティアナは今日も食べては吐き、気持ち悪そうだ。
妊娠初期でも身体を動かし体力を付ける必要があるのだが、ティアナは周りが大事にしてくれるので甘えている。
カエアンはそんなティアナが横たわるベッドの脇で、献身的に看病している振りして、ティアナが吐く度に大騒ぎするのだ。
死に逝く訳でもあるまいし、大袈裟過ぎてレイラは勿論、マリアや出産経験のある侍女達は呆れている。
初めこそは、大事にされておられますね、と暖かい目で見ていた者でさえそうなのだ。
出産経験の無い侍女達には分からない様だが。
「如何だ?ティアナ」
「…………嫌よ……庭が無いじゃない、これ……こっちは部屋数少ないわ……」
「だそうだ!違うのを持ってこい!」
「そうは言われても、元々ロヴァニエ子爵領は、漁港や貿易港で観光の為の港ではないんです。もし別荘を、と望むなら更地から建てる事をオススメします………それと資金面ですが、更地から別荘を建てる事の費用は爆上がりしますから、それでも良いのですか?更地なら思う様に建てられますよ?」
「それよ!それが良いわ!ね?カエアン、そうしましょう!」
---馬鹿なの?どれだけ費用が掛かるか想像してるのかしら
「そうだな!俺もその方が良い!おい!何故今迄それを話さなかった!」
話さなかったのではなく、思い付かなかったカエアンとティアナの無知さだ。
何軒も物件を見せては却下するなら、1から好みの場所や間取りにすればいいと、考えついても良い筈だ。
資金さえあれば、どんな風にだって作れる。
「話さなかった、ではなく、何故それを考え付かなかったのかが私は疑問ですけど」
「っ!」
「いい加減にしなさいよ!カエアンを侮辱したわね!」
「とんでもない………一般的知識を持つ人なら考える、と思ったので………カエアン様は何故仰らないのかな、と」
「っ!………と、当然思ってたさ!当たり前だろ!」
「そうよね?カエアンなら思ってたわよね!」
プライドの高い2人だから、その点を突けば恥を掻きたくないので、さも知ったか振りをしてくれる。
それが、レイラにはちょっとした仕返しだった。
「それで、予算は幾らにしますか?」
「お前が買うんだ、お前に任せる」
「私は買いませんけど?別荘に行く事はないと思いますし」
「何を言っているんだ。ティアナが行けばお前も行くんだよ!」
「その前に離縁します」
「しない、て言ってるだろ!」
離縁の話になると水掛け論になる。
嫌いな女を何故妻に留めさせるのか、と理由を知って、レイラは殺意さえ芽生えそうなのに、カエアンの頭の中はどれだけ都合良く、自分勝手なのだろう。
「平行線なので、話しても無駄でしたね………予算はカエアン様の資産から出しますので、そのおつもりで」
「何だと!俺の金は俺が使う!」
「ですから、別荘はカエアン様の物でしょう?それともティアナ様が払われるのですか?」
「私は欲しいって言ってるのよ!誰が私からお金を出すのよ!」
「ではカエアン様から、という事に……失礼します」
毎回、金の出処でこの有様だ。
カエアンは出したくないのが丸わかりで、それでもティアナの為に別荘を欲しがっている。
---念の為に、前アマルディア伯爵に聞いてみようかしら
カエアンが金を出さないなら、アマルディア伯爵家全体の資産から出して貰わないと、到底別荘の建築は無理な話。
それも、土地を管理するロヴァニエ子爵は纏まった金が直ぐに欲しいと言うのだから、面倒な話だ。
お互いビタ1文も払いたくない、となれば、例え良い場所が見付かっても、建てる事も出来ない。
「ねぇ、カエアン」
「何だ?ティアナ」
「絶対に、別荘はあの女か実家の子爵家に払わせましょ?」
「踏み倒すのか?」
「えぇ………悔しいじゃない?最近、生意気に言い返して来るし、私の悪阻が酷いのは全てあの女の所為よ」
「そうだよな……アイツ、大人しそうな顔をしてるのに生意気だ………ティアナが領地で教育してやったのに、最近ティアナが悪阻で出来ないからって………」
「…………この吐気……辛いわ………カエアン………うっ……」
「ティアナ!」
レイラの見ていない所で、こんな会話は日常で、悲劇のヒロインの様に振る舞うティアナに同情するのは若い侍女ばかり。
おかげで、レイラには若い侍女達は寄り付かない。
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