何故、私は愛人と住まわねばならないのでしょうか【完結】

Lynx🐈‍⬛

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結婚

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 首都でのアマルディア伯爵家の邸は、領地の邸と比べて半分ぐらいの小さな邸だった。
 それでも管理が行き届いていて、美しい建物。

「此方のお部屋をお使い下さい」
「ありがとうございます」
「レイラ様」
「……………はい」

 マリアに部屋を案内され、レイラは部屋を見渡していた。
 領地の部屋の陰湿な嫌がらせの部屋とは雲泥の差で居心地も良さそうな部屋だった。
 その時、マリアから声が掛かる。

「ご結婚………何故されたのです……」
「…………あ……その……事情により……です」
「あれ程、兄には止めて、と知らせていたのに………」
「…………爺やからは、祝福出来ない、と言われてました」
「…………でしたら何故……」
「…………ロヴァニエ子爵家の経営難………それが発端で」
「そうでしたか………私も兄もロヴァニエ領出身でございまして、出稼ぎに私は首都のこのアマルディア伯爵家で働く様になり、同じくこの邸で働く主人と出会い、それから此方でお世話になっております。私には現ロヴァニエ子爵が若かりし頃しか存じ上げないので、どの様な事になっているか等、知る由もありません………それでも、よく考えて頂きたかった………」
「マリア侍女長………気を遣って頂いてたのですね」

 アマルディア伯爵家の内情を知るからこそ、反対していたに違いないマリア。

「リアナ様………私は中立の立場です。例え、カエアン様やティアナ様が何をなさっても、悪い事は悪い、と言って参りました。カエアン様は素直な方ですが、ティアナ様は私の注意は聞かれない方です。お2人のご関係に、リアナ様も驚くかと思いますが………」
「知ってます」
「…………もう、ご存知で……」
「ティアナ様の妊娠も知っています……私に、ティアナ様の妊娠周期に合わせて、体型を変えろと迄言われました」
「なっ…………」

 マリアの驚く表情を見る限り、ティアナの意図を知らなかった様子だ。

「なので、私はティアナ様の出産される前に離縁するつもりです」
「…………それは………その方が宜しいかと……このマリア、微力ながらお手伝いさせて頂きます」
「良いんですか?中立の立場だと今………」
「アマルディア伯爵家の存続が掛かる様な事に、黙って見過ごせません。この首都のこの邸の執事は私の息子です。ティアナ様には弱い息子ではありますので、リアナ様の考えを漏らす事はお気を付け下さい。それ以外は仕事は出来る息子です」
「分かりました………心強い人が近くに居てくれて嬉しいです」
 
 良い味方が出来た、とレイラは始めて首都に来て安堵する。

「あと、この邸の侍女達も、ティアナ様に憧れる者も多く、ティアナ様に媚びを売りますからお気を付けて」
「それは、領地で散々見てきましたから大丈夫です」
「そうでしたか………お疲れでございましょう、夕食前に甘い物を持って来させます」
「ありがとうございます」

 侍女長という立場は忙しいだろうに、話に付き合って貰って良かった。
 甘い物は疲れた時に最適だけど、レイラは邸を見回りたい気持ちもある。
 特に、執務室を見なければ始まらない。
 アマルディア伯爵領地では、夫妻それぞれの執務室があり、伯爵とエリーゼ夫人の仕事はしっかり分かれていた。
 レイラはエリーゼ夫人に付いて、仕事を覚えたのだが、領主としての仕事の内容は、カエアンが引継ぐ事になっていたとしても、全部把握しておかないと、レイラは金を貯めれない。
 無駄な浪費は減らし、金の流れを掴み、余裕のある所から着服する。
 折角、カエアンが伯爵になり、権限を持ったのだ。
 実質、前アマルディア伯爵夫妻は領地管理をしながらのんびりと生活する事を望んだ。
 アマルディア伯爵家は、鉱山もありその経営もレイラが管理出来れば、早く金は集まる筈だ。

「よし………明日から早速……」

 休んでいる暇は無い。
 カエアンやティアナの顔を見なくて済むなら、執務室に引き篭もって仕事をさせて貰う方が癒やされる。
 首都に居るし、大きな書店もあるのも知っているのだが、大好きな本も読みたいのを我慢して、離縁に向けて動き出すつもりで、握り拳を作り、レイラは気合いを入れた。


     ♡  ♡  ♡  ♡


 翌日、早速マリアの息子と会い、アマルディア伯爵家に関する帳簿や通帳を見せて貰ったレイラ。

「此方が鉱山、これが領地からの税金徴収帳簿、アマルディア伯爵家の資産全体の収支報告書、給金帳簿でございます」
「…………鉱山から取れる金の加工工房は1つだけでは無いと思うのだけど、それぞれ工房の収支も入っているのかしら」
「はい………それは此方に」
「…………うん………流石、名門のアマルディア伯爵家はしっかりされているわ………見やすいし、従業員の働きに応じただけの給金の未払も無い…………」
「お若いのに、お詳しいのですね」
「はい、実家のロヴァニエ領では手伝わせて貰えませんでしたが、その知識はマリア侍女長の兄のロヴァニエ子爵家の執事から教わってきましたので」
「叔父とは会った事はありませんが、良い教師でもあったのですね」
「そうですね」

 レイラが幾つもの帳簿を同時に見て、年毎や月毎に見比べつつ、紙に気になる事を書き進めていながら話すので、マリア侍女長の息子、ゲイリーは感心して見つめていた。

「此処の邸の経費なんですけど、少し無駄な浪費を削っても良いかしら」
「無駄な浪費?ありましたでしょうか」
「えぇ………侍従達の人数から、食費と割に合わない気がしたの………勿論、食べる事は大事だし、働いて貰っているのだから、料理の工夫で何とかしたいな、と………例えば、同じ材料でも産地が違えば値段も違ったりするから、安い方にするとかね」
「…………なるほど……いつも同じ産地の食材でしたね」
「買いに行く店を1つに縛らない事で、安い店を探せるわ」
「ですが、浪費分だった分は何処に持って行くのですか?」
「それは貯蓄に貯めて、その分給金に回せるでしょ?給金が多くなれば皆が喜べるし」
「…………素晴らしいお考えです、若奥様」

 ゲイリー迄味方に付ければ、カエアンやティアナでも好き勝手には出来ないだろう。
 前アマルディア伯爵夫妻が此処に居ないだけ、レイラは自由に動けそうだった。
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