何故、私は愛人と住まわねばならないのでしょうか【完結】

Lynx🐈‍⬛

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結婚

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 レイラがカエアンと結婚し1週間。
 毎夜、付き合わされるカエアンとティアナの情事に、レイラは寝不足になっていた。
 同じぐらいの時間を寝ている筈なのに、カエアンとティアナは寝不足そうに全く見えない。
 
「もう、カエアンったら………」
「可愛いな、ティアナは」
「…………」

 そして、一体また何を見せられているのか、1台の馬車で、アマルディア伯爵領地から首都に向かっているレイラとカエアン、ティアナ。
 3日程馬車で掛かる為、妊娠しているティアナには無理ではないか、と普通の一般的常識人なら思う筈なのに、カエアンはティアナと首都に行く、と決めたのだ。
 勿論、のレイラも一緒に、3日掛ける旅を5日掛けてゆっくりと向かうという地獄。
 宿のある村や街を経由する、いたせりつくせりの旅で、野宿等当然ティアナから却下された遠回りの移動だ。
 2台にして移動したかったが、カエアンの言い分がこれまた腹立たしい事この上なかった。

『俺だってお前と同じ空気を吸いたくない。だが、お前が妻である限り、妻と馬車を乗っていないと、誰に見られるか分からん。ティアナも妊娠中だし心配だからな』

 レイラを貶しに貶し、プライドの高さから他人の目を気にし、愛人にしか気を遣わない。

「ねぇ、所で別荘の件は如何なったかしら?」
「あ、そうだ!別荘は如何した」
「…………今探して貰ってますよ」
「愚図ねぇ………遅いわ」
「そうだ!早くしろ!」
「海が見渡せて高台の別荘………というだけで、予算も何も聞かされていないのと、間取りや規模も様々なんです……曖昧な希望だけで見付かるとでも思ってるんですか?」

 レイラはなるべく、別荘探しを引き延ばし、しっかりと金の出処を聞き出したかった。
 以前も、カエアンの私財から出すのか、それともアマルディア前伯爵の私財から出すのかを、カエアンははっきり明言していないのだ。

「ティアナが好きそうな別荘だ」
「分からないの?私の好み」
「興味無いので………全ての人間がティアナ様の好みが分かるんですか?あの歩道を歩いている子供から老人迄」
「なっ………お前!言葉を考えてティアナに話せ!あいつ等が分かる訳ないだろ!」
「そうよ!」
「なら、私も分かりません」
「何ですって!」

 レイラはティアナを理解したくない。
 性格は大分分かってきたが、ティアナの好みに沿う物を用意したくもない。
 のらりくらりと、はぐらかさせて貰うつもりだ。
 
「子供が産まれたら、遊びに行きたいんだからな!それ迄に用意しろ!」
「ですから、限度額は幾らですか?」
「それはお前が考えろ」
「でしたら間取りは?」
「ま、間取り?」
「何よ、それ」
「…………間取りは間取りです。何部屋必要で、風呂場は幾つ必要か、日照は何方向きが良いか、海岸が見える場所が良いのか、それとも崖か………何も決めてもいないのに、見ずに書類上で決めても良いんですか?」

 あまりにも、知識不足の2人なので、時折この調子で、何も言葉を返させなくする様にすると、墓穴を自ら掘ってくれたり、話を反らしてくれる。

「へ、部屋は多ければ多い方が良い!アマルディア伯爵領の邸よりな!」
「凄いですね、カエアン様はそんなに貯蓄があるのですか」
「…………あ、当たり前だ」

 本当にこの男は勉強をしてきたのだろうか。
 マキシムより、愚者の様に見えるのだ。
 伯爵位を継承したカエアンだが、領地でも執務室に顔を出した事も無い。
 カエアンの使う部屋にも机はあったが、1冊も本の無い部屋だった。
 マキシムでさえ、剣術や馬術、航海学の本は持っていた。

『カエアン様、ティアナ様、邸に到着致しました』
「ティアナ、降りるぞ」
「首都に帰ったの久しぶりだわ」
「俺が伯爵になった初の夜会があるから、首都に急いで帰ってきて悪かったな」
「ううん、良いのよ………伯爵様」
「コイツ………照れるじゃないか」

 先ずカエアンが降りて、ティアナをエスコートするのが当たり前で、リアナにはエスコートする事は無かった。
 これでは、カエアンが隠したいティアナの妊娠が知れ渡るのは近いだろう。

「お帰りなさいませ、旦那様。そして、若奥様、ティアナ様」
「侍女長!何故ティアナが一番後に挨拶なんだ」
「当然でございましょう?カエアン様の奥様なのです………それに、この上下関係を誤ると、何処から漏れるか分かりませんよ?」
「そ、それは………ティアナが平民だからか?」
「……………それは周知されておられます………別の事ですよ」

 侍女長、とカエアンに呼ばれた老女。
 彼女がロヴァニエ子爵家の、執事の妹の様だ。
 その彼女が自身の腹を擦る。
 それで察してくれ、と言うのだろう。

「何だ?腹が痛いのか?薬飲めよ」
「……………」
「行こう、ティアナ」
「うん」

 ---本当、馬鹿な人ね………気付きなさいよ

 カエアンの腹を擦る訳にはいかないから、自身の腹を擦って見せて、ティアナの妊娠が露呈する事を示唆させたのに、如何しようもない男だ。
 カエアンとティアナは早々に邸の奥へと入って行くがレイラはどの部屋を使えば良いか分からないから呆然と立ち尽くしていた。
 すると、侍女長がレイラの前に来て、頭を下げる。

「兄がお世話になっていたお嬢様だと聞き及んでおります………侍女長のマリアと申します」
「レイラです。これから宜しくお願い致します」
「…………ご結婚、おめでとうございます………」
「…………っ!」

 何か憂いのある表情で微笑むマリアに、レイラは彼女の優しさが見えた。
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