何故、私は愛人と住まわねばならないのでしょうか【完結】

Lynx🐈‍⬛

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結婚

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 宴も終わり、レイラは結婚式後の初夜が待っている。

「…………」

 普段、使わせて貰っている風呂場より豪華な風呂場。
 使わせて貰える以上有り難い事ではあるのに、レイラは嬉しくはない。

、ナイトドレスは此方でお願いしますね」

 この日に限り、入浴の手伝いが倍以上の侍女で、失笑も嫌味も遠慮が無かった。
 若奥様だんて、思ってもいない言葉が、とんでもなく嫌味でしかない。
 そして、渡されたナイトドレスも、レイラの身体には合っていなかった。
 寧ろ、ティアナのサイズ感。

「閨作法はご存知です?」
「悲鳴挙げないで下さいね、今夜はお泊りのお客様が大勢おみえですから」
「カエアン様にお任せしていれば良いんです…………クスクス……」

 嫌味や虐めをされるより、まだ無視される方が良いと思ったのは初めてだった。

私はではないし、差別したくないけれど、私は貴族。貴女達は平民。これは紛れもない事実で、その境界線を忘れないで………如何でも良いけれど、もしこのアマルディア伯爵家から、別の貴族の家で働きたくても、が必要で、そのを私は出せる事が出来る力があるのをお忘れなく………、働き口を変えたかった時、私が紹介状を書くか如何か………私の匙加減ですからね」
「っ!」
「えっ!」
「ち、ちょっと!誰よ笑ったの!」

 ずっと、アマルディア伯爵家の侍女として働くなら如何でも良い事だが、クビになれば話は変わって来る。
 そもそもクビになった侍女に紹介状なんて物は書きはしないし、円滑に働き口を変えたいと思った時、物を言うのは貴族から出す紹介状や推薦状なのだ。
 無かった場合、給金が少ない働き口を探すしかない。
 平民にとって、貴族の邸で働ける事は一種のステータスで自慢。
 事、首都ではなく田舎の領地の侍女風情では、文字の読み書きもまともに出来なかったりする。
 王城や爵位の高い貴族の邸で働くには、最低限の文字の読み書きは出来ていなければならないのだから、領地の邸勤めの侍女は大した事ではない。

 ---大した事ないわね、こんな事で動揺するんだもの……問題は、この事が広まって、アマルディア伯爵夫妻やカエアン様、彼女に知られて、どうまた酷い目に遭うか、だけど………簡単にお金も返せない私では、離縁も簡単じゃないから………

 侍女達は急に静かに仕事をする様になった。
 散々嫌味を言っていた侍女達がだ。

「整いました………若奥様」
「あ………そう……」
「カエアン様の待たれるお部屋へご案内致します」

 気鬱な夜が始まってしまう。
 レイラも結婚には、多少なりは夢があったのに、好きでもない男に捧げなければならない身体。
 閨作法も知らない訳ではないから怖いのだ。

「此方です」
「…………ありがとう」
部屋からお出になられませんよう………」
「っ!」

 先程の威勢とは売って変わり、レイラは武者震いを覚えた。
 扉を叩き、カエアンの声が返る。

『入って来い』

 その返事で、レイラは部屋に入って扉を閉めるなり、先程の侍女達数人が扉の前に集まったのをレイラは知る由もなかった。

「…………え?………な、何でティアナ様が………」
「ふふふ………似合わないわねぇ、やっぱり……貧相は貧相のままね、カエアン」
「全くだ」

 何故ティアナがカエアンの部屋に居るのか分からない。
 恋人同士なのは予想していたが、何も初夜に夫婦の場所に居る事に常識が無い。
 レイラは呆気に取られ、ティアナを追い出して貰おうと、人を呼ぼうとしたが、扉が開かない。

「え………な、何故!開かない!」
「お前、侍女達から聞かなかったのか?今夜は泊まられる客人も居て、結婚式を挙げた花嫁が、夫の部屋に居ないと知れたら、体裁が悪いだろ?」
「だからといって、何故ティアナ様が居るんです!ティアナ様は出て行くべきではないんですか!」
「五月蝿いわねぇ……大きな声を出さないでよ、外に聞こえちゃうでしょ………それに………ね……胎教に悪いわ………ねぇ?カエアン」
「そうだぞ………それなのに、今夜はお前の為に、ティアナは俺に抱かれ、閨行為をお前の代わりにしてくれる、て言うんだ。有り難いだろ?」
「…………な、何を言っているんですか……」

 夫婦になっても白い結婚で良いならそれでも良い。
 レイラには嬉しい誤算だ。
 だが、カエアンとティアナの考えが、レイラに分からない。
 カエアンがティアナを愛人にしたいのなら勝手にすればいい。
 それに自分を巻き込まないで欲しかった。

「アンタ、馬鹿なの?」
「馬鹿なんだろ」
「じ、常識がなっていないから、驚いているんです!ティアナ様を愛人にしたいなら勝手にどうぞ!其処に何故私が居なければならないのか、不明だからじゃないですか!幾らティアナ様がアマルディア伯爵家の養女になられたとしても、世間的には義兄妹ではないですか!」
「…………だから、お前と結婚したんだろうが」
「…………は?………この結婚と、貴方達2人の関係に何が繋がると?」
 
 レイラは冷静になろうとしても、カエアンの隣で見たくもない嫌味の笑みで、魅惑的なナイトドレスを開けさせていて、それがレイラの怒りを助長していて、冷静になれない。
 決して、嫉妬なんて物は存在していない。
 この馬鹿げたこの2人の計画に、ハマったレイラも、それに乗ったロヴァニエミ子爵も、2人の関係を恐らく知っているであろう、アマルディア伯爵夫妻や侍従達に腹を立てている。

 ---爺やが言っていた………この結婚は祝えない、て………知っていたのね……爺や!何故教えてくれなかったの!

 ロヴァニエ子爵家の執事は、レイラの結婚に反対だった。
 アマルディア伯爵家の首都にある邸に勤めている妹から、カエアンとティアナの関係を知っていて、執事は聞いて、濁してくれたのだろうが、後悔が出る未来を与えないで欲しかった。
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