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婚約
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しおりを挟むレイラのウエディングドレス選びは、集団虐めで終わった。
滑稽な姿にさせられたレイラを見て、ティアナは満足したのか、笑い飛ばした後、自分のドレスを早く仕上げたくて、ティアナの一言で、レイラは解放された。
「もう良いわよ、面白かったから」
「ティアナ様、令嬢から謝罪ありませんよ?」
「お許しになられるのですか?なんとお優しい………」
「私、早く着たいのよね」
「そうね、お母様も早く見たいわ」
ティアナはもうレイラには目も呉れず、この騒ぎに戸惑っていた仕立て屋も、胸を撫で下ろした。
名門と呼ばれたアマルディア伯爵家の闇を見てしまい、如何して良いか分からないだろう。
怯え怯えで、ティアナのドレスの試着を手伝わせ、レイラのドレスの横にティアナは並んだ。
色こそは純白ではないが、白に近い黄色のドレスに銀の糸の刺繍が全体を彩り、ベースの黄色と重なり合う事で、白っぽく見間違えそうだった。
花嫁の純白のドレスに被らない様に、列席者としてのマナーがあるが、許される範囲内と言えば範囲内。
しかし、見る人によっては不快感を生ませそうだ。
「見事だわ…………お腹周りも余裕持たせてくれてありがとう」
「お嬢様はコルセットが必要無いぐらい細いですからな」
「ふふふ………どっちが花嫁か………私に負けてるのに、勝とうとするからよ」
---勝とうとするから?勝ち負け………て何の勝負を言ってるの?この人……
「カエアン様の横にお立ちになるティアナ様は美しいでしょうに………」
まるでティアナはカエアンと結婚したがっている様な言い回しに、レイラは確信した。
カエアンはレイラと結婚する事で、平民出身のティアナを愛人にし、ティアナもそれを望んでいる。
そして、アマルディア伯爵家の全員がそれを黙認し望んでいる、という事を。
これではまるで、レイラの影で好き勝手出来る様に、レイラはスケープゴートにさせられる、という事だ。
---冗談じゃないわ……こんな所、絶対に逃げないと………でも……ロヴァニエ子爵家は……ううん……家族なんて二の次………邸で働く侍従達の生活や領地民の事を考えたら……
「エリーゼ夫人、もう私はドレスが決まりましたから、部屋に戻らせて頂きます。午後から領地や邸の管理運営の事を教えて頂けるのですよね?」
「…………図々しいのね……あんな事をしておいて………まぁ、良いわ……早く仕事を覚えて頂戴。これから毎日、厳しく指導しますから」
「お願いします」
自分がスケープゴートだと確信すると、ティアナを中心とした虐めを無視する事に決めた。
一々反応しない様に、心掛けて自分を守るしかない、と思い午後に向けて、休息を取る事にしたのだった。
♡ ♡ ♡ ♡
「本当、図太い神経ねぇ………あの娘」
ティアナもドレスの最終チェックを終え、自室へと引き篭もり、侍女達に手足のマッサージをさせていた。
「ティアナ様、追い出してしまいましょうよ」
「あら、それは駄目よ」
「何故ですか?」
「結婚式を挙げて、カエアンの子が産まれる迄は、離縁させないわ………さっき、お母様が追い出そうとした時は焦っちゃったけど」
「では、あの謝罪させたのは追い出さない為だったのですか?」
「そうよ、なかなかの見ものだったわね!思い出しただけでも笑っちゃうわ!」
ずる賢いティアナは、アマルディア伯爵家に養女として引き取られたのは10歳の時。
5歳で親に捨てられ、腹違いの弟妹の面倒を見ながら、路上生活をしていた。
養護院に救済を求めた時には、ティアナは弟妹を捨てている。
食べる物に困り果て、産まれながらの美貌を持ち合わせていたティアナは、実母と同じ事をして、1日の食べ物を確保していた。
実母は自分の身体を売り、金を貰い、父親を知らないまま産まれたのがティアナ。
ティアナもまた首都で、金持ちを見付けては身体を触らせていたのである。
身体を遂に壊し、食べ物欲しさに養護院に転がり込んだのが幸いだった。
始めて雨水が落ちてこない屋根の下で、暖かな毛布に包まれて安心して眠る幸せ。
暫くはそれで満足出来た。
しかし、本来のティアナは金持ちを探し、身体を触らせて、金を貰っていた生活をしていた。
そう、もっと暖かな部屋、美味しい食べ物、ふかふかの毛布を金持ちは持っている。
養護院を出たからといって、また路上生活をするのは嫌だったティアナは、金持ちの家に住む事を望んだ。
養護院に居れば、救済支援という金持ちの道楽で、里親になってくれる貴族も多い。
貴族達は道楽で救済支援をしているのではないのだが、税金対策や子供を亡くし、後継者を求めたり、様々な理由がある。
だが、子供達にそんな事は関係無い。
今より幸せになりたい、という権利は子供でもあり、養子に入りたいという子供が多かった。
ティアナは養護院では模範的な良い子を演じ、金持ちそうな大人が来ると、気に入られようと記憶に残す。
そして、ティアナに目を付けたのがエリーゼ夫人だった。
アマルディア伯爵は養子を取る考えは無かったが、エリーゼ夫人のたっての希望で、ティアナは引き取られる事になったのだ。
義理の兄になったカエアンは2歳歳上でも扱いやすく、路上生活をしていたティアナのずる賢い考えを駆使し、直ぐに手の上で転がせられた。
このまま、貴族と結婚が出来れば、路上生活とは決別出来て、勝ち組の仲間入りなれる、と思っていたティアナにも誤算があった。
法律の壁である。
ティアナは法律を知らない。
そして、養女になってカエアンがティアナに夢中になった頃、それを知った。
養子になっても、出自が平民であっても、貴族出自の者とは婚姻関係を結ぶ事は出来ず、と。
もし、貴族と結婚したければ、貴族が平民にならねばならない、という法律があったのだ。
平民が貴族になる方法はあるにはあるが、ティアナに学が無いので、その考えには行き着かない。
法律を担う貴族達は、その法律を変えようとはしないだろう。
強者が弱者を管理し支配する事で、弱者が強者に支配してもらう事で、境界線を作り安全と平和が保たれるのだ、という教えがあったのだ。
それならば、無理矢理にでも境界線を壊してしまえば良い、と手短にカエアンと肉体関係を結んだ。
ティアナは直ぐにアマルディア伯爵夫妻に知られてしまったが、アマルディア伯爵夫妻は子煩悩でも有名らしく、カエアンには甘い親。
そして、カエアンがティアナを庇ってくれたのもあり、許されてしまった。
義理兄妹という関係にしてしまった以上、法律の壁と、出自の壁、あらゆる壁がティアナにある事を突き付けられた時、ティアナにはある計画を思い付いたのだった。
それが、今やっと長年考えてきた事が実現出来そうで、ティアナは最高の気分で、日々を過ごしている。
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