何故、私は愛人と住まわねばならないのでしょうか【完結】

Lynx🐈‍⬛

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婚約

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 カエアンが不在なのか、と思ったレイラ。
 玄関を開けて貰い、アマルディア伯爵の案内で、レイラは邸に入る。

「嫌だわ、カエアンってば……またそんな風に私を揶揄って……」
「そんな風に、て褒めたんだぞ?ティアナ………今日も美しいって、ね」
「今日、貴方の花嫁が来るのでしょ?良いのかなぁ?私を褒めちゃって……」

 玄関ロビーの階段の上から2つの声が聞こえ始め、レイラは見上げた。

「全く、あいつと言う奴は………早く降りて来い、と言ったのに……」
「良いではありませんか………ティアナと迎え出る、と言って、約束通り出て来たのですから」

 アマルディア伯爵は溜め息を漏らす傍らで、エリーゼ夫人は、出迎えに遅れた声に気にも留めた様子も無い。
 やっと姿を現したかと思えば、女の腰を抱き寄せ、手を支え、ゆっくりと階段を共に降りて来る男。
 絵姿の通り、美男子の長身の姿のカエアンだった。
 そして、エスコートされている女がティアナだろう。

「ティアナ、足元に気を付けなさいね」
「分かってるわ、お母様」
「母さん、俺がティアナのエスコートに失敗するとでも?」
「そうは言ってないでしょ」

 階段をゆっくりと降りるのは構わない。
 だが、1段毎にドレスの皺を気にしてはカエアンと見つめ合っていて、何分掛ければ良いのだろう。
 そうして、レイラは待たされて、目の前でカエアンとティアナはレイラを爪先から頭迄撫でる様に見てから、ティアナは鼻で笑った。

「……………」
「へぇ~…………カエアンの妻になる人ね?……フッ………」
「ティアナ、笑うのは駄目だ、と約束したじゃないか」

 レイラの身なりを笑ったのなら、レイラの落ち度。
 しかし、5日の旅で、極力楽な姿でいないと辛いから街娘の様な姿では居たのだ。
 それでも、質の良い生地を使ったワンピース。
 貴族のドレスで始めての旅は、不慣れなのだから出来なかったのだ。

「だって………貧相なんだもの……胸、あるのかしら………フフッ……」

 ティアナは胸を張り誇張する。
 自分の方がスタイルが良い、と言いたいのだろう。
 随分と失礼な物言いだが、レイラはティアナの嘲笑いを聞き流し、にこやかに微笑んだ。

「カエアン様、始めてお目に掛かります………レイラと申します」
「…………カエアンだ……お前と仕方なく結婚してやる………くれぐれも俺の神経を逆撫でしないでくれ」
「カエアン、それが初対面の令嬢に言う言葉か」
「俺の妻なんです、どう扱おうが父さんには関係ありませんよ」
「そうよね、カエアン」
「ティアナ、部屋に戻ろうか」
「えぇ………じゃあね、
「ははははははっ!………ティアナ、笑わせないでくれ」
「あら、じゃあ普段から呼ぼうかしらね」

 ティアナは名乗りもせず、カエアンにまたエスコートをされ、またゆっくりと階段を上って行った。

「…………全く……もう少し優しく出来んのか、カエアンは………」
「…………レイラ嬢、貴女の部屋に案内させるわ………荷はもう運ばせているから、夕食迄寛いでいて頂戴。夕食準備が出来たら、呼びに行かせるから、着替えて来て。その姿では何方が貴族で何方が平民か、という話になるから」
「…………分かりました、エリーゼ夫人」
「夕食時に、これからの事をお話しますからね」

 エリーゼ夫人は何か含む所がありそうなのに、話を逸らしていた。
 貴族と平民、と言葉を出した事は、レイラには侮辱を浴びせた悪意が含まれている。
 そして、こんなに簡素で失礼な挨拶があって良いのだろうか、とレイラは思う。
 ロヴァニエ子爵家でも、ここ迄失礼な出迎え方ではない気がするのだ。

「令嬢、お部屋にご案内致します」
「あ、はい………お願いします」

 若い侍女が案内した部屋は、上階の奥の角部屋。

「結婚式迄は、此方のお部屋をお使い下さい」
「分かりました」

 結婚したら、部屋を変わるのなら、荷も出しきらなくても良いだろう。
 首都にも邸を持つアマルディア伯爵家にも、レイラの私物や服を持って行かねばならなくなるだろうし、部屋に入ったら分けておこうと思って、部屋の中へと入った。

「…………え……」

 一瞬目を疑うレイラ。
 北を向いて窓があり、薄暗い部屋。
 カーテンの端は解れ、糸も飛び出て、チェストは傷が付いていて、鏡台の鏡は曇っている、ただ年季が入っただけの調度品ばかり。
 かろうじてベッドシーツは真新しそうではあるのが救いだが、レイラがロヴァニエ子爵家で使っていた部屋より、狭く日当たりも悪かった。

「此処…………ですか?」

 幾ら何でもロヴァニエ子爵家より、質素な事は無いだろう、とレイラは侍女を振り返った。
 すると、冷や汗が滲み出ている侍女を見て察する。

「…………此方でございます………」

 レイラを歓迎してないのは理解した。
 しかも、これでアマルディア伯爵家、主人含め侍従達もレイラを厄介者と見ている、という事だ。

「た、只今お茶をお淹れ致します」
「…………ありがとうございます……」

 今文句を侍女に言っても、この様になった経緯を侍女に説明させても良い結果にはなりはしないだろう。
 侍女が丁寧にお茶を淹れてくれたのを見て、侍女の教育も行き届いた家だと分かると、レイラは用意されたテーブルの前に座った。

「貴女はこのお邸では長いの?」
「っ!…………わ、私はまだ3年程で……」

 何処かレイラに怯えた様子なのが気になるが、返答はしてくれる侍女のお茶を飲むレイラ。

「アマルディア伯爵領の事はあまり良く知らないので、教えて下さい」
「…………わ、私なんかがお教えする事なんてありません!…………夕食時間になる前にお着替えを手伝わせて頂きますので、それ迄ごゆっくり………失礼致します!」

 侍女は逃げ出す様に、部屋から出て行ってしまう。

「…………何をそんなに怯えたのかしら……彼女に何もしてない筈なのに………」

 歳も近そうな侍女だったから、仲良く出来れば、と思っただけだ。
 そもそも、レイラは友人作りは苦手なので、態度が悪かったかもしれない。
 しかし、そうではない、とこの後に気付くのだった。
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