何故、私は愛人と住まわねばならないのでしょうか【完結】

Lynx🐈‍⬛

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婚約

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 5日程の移動になる旅は楽なものでは無かった。
 レイラは侍女を連れてきてはおらず、身の回りの事の手伝いも無いのだ。
 基本的に出来はするものの、着替えの手伝いや入浴の手伝いは、人が欲しかったりする。
 5日間、野宿となる訳でも無い様で、5日の内2日は宿屋に泊まれるらしい。

「令嬢、辛くないでしょうか」
「旅をするのも始めてなので、こんなものか、と思えば我慢出来ます」
「そうですか………ご無理なさらずに体調が悪くなったら仰って下さい。医者を呼びますから」
「お気遣いありがとうございます」

 御者や私兵らしい男数人しか居ない旅で、目線も気になってくる。
 その為、レイラは彼等の会話の輪にも入り辛く、野宿の時は馬車から出る事を極力避けた。
 初日の夜は野宿だ。
 野盗の類いが出る可能性もあり、交代で見張りをする声が、馬車の外から聞こえる。

「…………なぁ……本当にカエアン様はあの令嬢と結婚されるのか?」
「何だよ、そう聞いてるだろ?」
「え………だってよ………冴えないぜ?あの令嬢」
「おい!聞こえるぞ!分かってるのか?仮にも貴族の令嬢だぞ!ティアナ様とは違って」
「ティアナ様の方が、貴族っぽいじゃん………だって………アレ、だぜ?」

 アマルディア伯爵家の侍従達のレイラに対する失礼な言葉。
 深夜だが、始めての旅で馬車での睡眠は、勿論眠りを妨げる。
 だから、レイラは起きていたのだ。
 本当ならば、本を読み、時間を潰したかったが、気を遣わせてしまうかと思って、馬車内の明かりは消灯していたのだ。

「本当に止めろよ、これ以上言うなよ」
「寝てるって」
「だと良いが、俺知らないからな………」
「顔も名前も覚えやしねぇって………田舎貴族の世間知らずの令嬢なんだろ?」
「首都にも邸持ってない、て聞くからな………アマルディア伯爵家と違って」
「いちいち、貴族様が下自民の名前なんて覚えやしねぇ………カエアン様は派手目な女がお好きなのに、真逆だったのに驚きだったぜ、俺」
「皆、そう思ってるさ………でも仕方ないんだろ?だってさ………」
「可哀想になぁ………あの令嬢」
「おい、同情するなよ………俺達は主人達に逆らえないんだ………そんな気持ちを見せたら、首飛ぶぞ」
「っ!…………そ、そうだった……」

 思っていた想像とは違う、という侍従達の声が、レイラに突き刺さったまま、5日の旅を我慢する事になった。
 旅の途中でも、侍従達は気遣う素振りを出してはくれても、それ以上関わって来ない。
 ロヴァニエ子爵家の侍従と比べても、目の前の侍従達は酷い。
 遠慮無く、アマルディア伯爵家の養女、ティアナを褒めて比べる声も出たりする。

「ティアナ様は本当に美しいんですよ。令嬢も見習われて下さいね」
「愛想も良いしな」
「そ、そうなんですか……」

 会話も無いと、という話題を捻り出したのかもしれないが、口を開けばティアナの話ばかりでレイラはウンザリだった。
 ティアナの性格を聞けば、それに答えて、『令嬢は内向的で、カエアン様と性格合わなさそう』とか、ライラより年上だから、結婚の予定は無いのか、と聞けば、『カエアン様にベッタリなんで』『結婚しないんじゃないか』と、嫌な予感をレイラにさせる。
 そんな話ばかりで、レイラは侍従達と話す事もしなくなると、今度は陰口を叩いていたりする。

「気を効かせて話掛けてんのに、付き合い悪いよな、令嬢は」
「お前が嫌われてんじゃないのか?」
「え?俺紳士的に接してるじゃないか」

 彼等は気が付いていないのだ。
 夫になる男の傍に、姉妹では無い女がチラ付くのは、幾ら好きな男でなくとも不安になるし面白くない、という事。
 結婚するからには、好きにならなくても信頼性が大事で、アマルディア伯爵家を守る必要があるのに、不安分子が居て、それを誇張したつもりは無くとも、不安いっぱいのレイラには堪えるのだ。

 ---男性、て皆こうなのかしら………お兄様は女性を邸に入れた事が無いから分からないけど………

 マキシムをカエアンに照らし合わせても、ライラやセイラはマキシムにベッタリ、という訳でも無い。
 ライラやセイラはマキシムが傍に居ないと駄目という事も無いからだ。
 それを、アマルディア伯爵家の侍従達はこぞって、カエアンとティアナの関係は素晴らしい、と自慢する。
 本当の兄妹じゃない分、恋人同士と勘違いしてしまいそうだった。

「令嬢、到着致しました。お疲れ様でした」

 ---名前も結局聞かれなかったわね……私の事、興味無いんだわ、皆……

 馬車から降りると、庭園が広がり、花々の手入れが行き届いた豪邸だった。
 鉱山を持つ貴族というだけあり、街も栄えていて、アマルディア伯爵は人徳者でもある印象をレイラは受けた。
 玄関から初老の男女が迎えに出ていて、彼等がアマルディア伯爵夫妻だと分かる。

 ---カエアン様は居られないのかしら

 出迎えが遅れようとも、レイラはカエアンに期待はもうしてはいない。
 侍従達の話を散々聞かされたのは、武勇伝や自慢ばかり。
 悪口よりは良い事だが、必ずティアナが話の中に出て来てしまうので、結婚前から望みも尽きたのだ。

「ようこそ、ロヴァニエ子爵令嬢………私がアマルディア伯爵、此方は私の妻のエリーゼだ」
「長旅疲れたでしょう?今日はゆっくり休んで頂戴ね」
「宜しくお願い申しあげます、アマルディア伯爵閣下、エリーゼ夫人………ロヴァニエ子爵が2番目の娘、レイラと申します」
「…………教養もありそうで安心したわ」
「ありがとうございます」

 カーテシーで挨拶したレイラにエリーゼ夫人は、及第点を出した。

「もし、不格好な挨拶だったら、1から教え込まないとならないですからね」
「……………」

 歓迎されている様でされてない、と見えてしまう。
 先入観を捨てねばならないのに、挨拶後にこれでは、一筋縄では行かない生活になりそうで、レイラは固まった。
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