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家族
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しおりを挟む1週間、2週間、と過ぎてもレイラ宛にカエアンやアマルディア伯爵家からの連絡は無かった。
結婚前に会う機会を設けて欲しい、とレイラも思い、ロヴァニエ子爵に頼んでみたが、レイラの意見も聞かず、結婚式の日取りやアマルディア伯爵家へ向かう日迄勝手に決められてしまった。
「あとはお前のウエディングドレスを決めるだけにしてあるそうだ。良かったな、お前はその身1つで良いんだからな………準備は全てアマルディア伯爵夫人が娘としているらしい」
女として産まれたなら、結婚式の主役は花嫁の筈だ。
式の準備は花嫁が義理の母と意見を交換し、花嫁の意向に沿った式にするのが、レイラが育った国の通例だと聞いている。
それが、たった2週間足らずでほぼ決まっているという。
「通常では婚約から1年程明けてから、結婚式ではないのですか?」
「良いではないか。それだけ早くカエアン卿は結婚を急がれているのだ。お前だとて、引き伸ばされるよりマシだろう」
いや、寧ろ引き伸ばされた方が、レイラには都合が良い、と思えてならない。
会う約束も無いまま、結婚しなければならない恐怖心が勝っていた。
「カエアン様にお会い出来ませんか?お父様」
「何を言っている?………もう、融資して頂ける金は頂いたのだ。結婚式前には会えるし、結婚式を取り止めも許さん。予定通りにお前はカエアン卿と結婚し、アマルディア伯爵家を繁栄させ、そのお溢れを此方に回せ」
「っ!」
レイラは金と引き換えで捧げられる身だと痛感する。
ライラが伯爵家は嫌だと、セイラは病弱で駄目だ、と言われたら一番動かしやすい従順なレイラしか居ないのは分かるが、もっとレイラと話をして決めて欲しかった。
結婚で商売しないで欲しい、とレイラがポソッと呟く。
「結婚で商売だと?」
「…………あ……」
「貴族同士の結婚とは本来こういうものだ。ライラの言い分をする結婚等、最近の若い奴が言う戯言で、皆親達の決めた結婚相手と結婚するものなんだぞ、レイラ………ライラも今我儘を言っているだけだ。儂がライラに公爵家と繋がりを持って見せるのに、レイラがアマルディア伯爵家を更に繁栄させれば、儂の後ろ盾でライラを公爵家に嫁がせられる。家族だろう?皆で協力し、ロヴァニエ子爵家を助けてくれ、レイラ」
ポンポン、と肩を叩かれ、レイラはロヴァニエ子爵に抱き締められるが、ちっとも嬉しくは無い。
兄弟姉妹、それぞれ褒められたり、礼を言われたりすると、ロヴァニエ子爵に抱き締められるのだが、レイラはそれが極端に少ない。
両親はレイラに感心を示した事がほぼ無かったのだ。
目立たなかった、というのもある。
兄、姉、弟は目立ち、妹は病弱で手が掛かる。
余裕が無いと言えばそれ迄だが、やはり子供心では寂しく、褒められたくてレイラも努力はしてきた。
家庭教師から勉強や教養を受け、真面目に取り組み、マキシムやライラより優秀さを見せたのに、マキシムからは、女が男より出来るなんて、と言われたり、ライラからは、幾ら頭が良くても、美しくなければ男性は寄り付かないわよ、と言われ、それからは上の2人より、目立つ事に諦めた。
母からは、兄や姉を立てなさい、とも言われていたからでもある。
その内、弟妹が出来ると、レイラは肩身が狭い思いを虐げられ、益々両親に甘えられなくなってしまったのだ。
元々持って産まれた大人しい性格に拍車が掛かり、家族からの愛情を諦めてしまってからは、自分から関わらない様にしている。
その息苦しい家から早く出たいとは思っていても、その勇気も無く、ロヴァニエ子爵家の経済難から放っておけずにレイラは16歳で成人した。
早ければ16歳の成人を迎え、直ぐに結婚して子を産む令嬢も珍しくはない。
ただ、それが幸せか如何か等、当人しか知らず、レイラはその様な友人も居ない事から、相談相手も居なかった。
「…………荷は纏めた……せめて絵姿ではないカエアン様とお会いして、お話はしたかったな………結婚式迄、準備に忙しくて話せる機会は少ないだろうし」
そうこうする内に、レイラはカエアンとも会えずに、アマルディア伯爵領へと行かねばならなくなった。
結婚後は、首都に住む事になるそうだが、結婚式はアマルディア伯爵領で行うのだという。
その後、アマルディア伯爵夫妻は領地管理のみの職務に徹する様で、首都に住むのはレイラとカエアンだけになるのだろう。
アマルディア伯爵の養女、ティアナに関しては聞けなかったが、兄夫婦の生活拠点である首都には居づらいだろうと思われる。
「結婚式当日には間に合う様に儂達も行くからな、レイラ」
「…………はい、お父様」
「レイラ、身体には気を付けてね」
「お母様も、セイラの看病疲れで身体を酷使なさらぬ様に………アマルディア伯爵領でお待ちしております」
ウエディングドレスの仕立てもあるので、レイラだけは先に行かねばならず、アマルディア伯爵家からの迎えの馬車にレイラは乗り込んだ。
ロヴァニエ子爵家から誰も侍従は連れて来なくても、事足りるとも言われてしまい、レイラは親しい侍女さえも連れては行けなかった。
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