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家族

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 レイラの結婚話を聞いてから、レイラは相手がどんな人かを調べた。
 ロヴァニエ子爵の事業の事をコッソリ行う傍らで、書庫で貴族名鑑を読むぐらいの事しか出来なかったが、アマルディア伯爵家も古くからある家系で、内陸地に領地を持っている。
 ロヴァニエ子爵家は海岸部の領地となり、気候も少々違う様に思えた。

 ---名産物は……あ……鉱山をお持ちなのね……裕福で融資をして頂けるのは納得だわ……家族構成は伯爵夫妻にご長男のカエアン様………養女のティアナ様………平民からの養子……随分と慈悲深き方なのね、アマルディア伯爵閣下は………

 結婚したら、養女の令嬢と同居になるかもしれない。
 
 ---え?20歳………カエアン様は22歳……

 自分の義妹になるティアナの方が年上だった。
 貴族では、爵位序列で年上の人間でも爵位が下なら上位は優位ではあるが、同じ伯爵という位で義妹への扱い方も変わってきてしまう。
 しかも、義妹は平民出身者。
 尚更扱いが難しい。

「お会いしてみない事には分からないわね……悩んでいたって、解決策は出ないわ」
「なんの解決策で?レイラお嬢様」
「爺や………ねぇ、爺や………貴方はアマルディア伯爵家の事は知っている?」
「一般的知識程度であれば」
「何を知っているの?」
「名鑑に載る程度と、養女になられた女性に関する事ぐらいですな」

 執事も所用で書庫に入って来た様だ。
 何札も本を抱えて、本棚に戻している執事。

「ティアナ様の事を?………名鑑に載る絵姿はとても綺麗な方だったの」
「…………私の妹が、アマルディア伯爵家の侍女長でございまして、どの様な方かは聞いてはおりませんが、嗜好やどういった経緯で養女として迎え入れられたかはお伝え出来ます」

 従事する主人達の個人的な事を漏らす事は憚られるので、侍従達は口には出さない。
 レイラもそれは分かるので、聞こうともしなかった。
 寧ろ、養女になった経緯の方が聞きたい事だった。

「教えて欲しいわ」
「ティアナ様はアマルディア伯爵夫人に気に入られ、首都にある養護施設から引き取られたと聞いております。確か、引き取られたのは10歳ぐらいだったかと」
「10歳………ある程度成長されてからなのね」
「はい………養子に迎えるとなると、物心付く前に引き取らる子が殆どですからね」

 子を亡くした夫婦が、養子を貰う場合、子と同世代の年齢にするか、若しくはそれより下の子にするのが一般的な養子縁組。
 事、貴族であるならば、平民臭さを出したままの子供は敬遠されがちなのだという。
 従順にさせたければ、幼い年齢の方が良いし、貴族として育てる為に、幼少期から教育する必要があり、教養を身に付けさせるのだ。

「もしかして、亡くなられたお嬢様がみえたとか?」
「いえ、元々カエアン卿お1人だけでしたよ……なので、妹は大層驚いたそうです。ティアナ様はレイラお嬢様が仰る通り、華やかなお顔立ちなので、アマルディア伯爵家では伯爵夫人は可愛がっている、と………伯爵閣下も夫人と同様、本当の娘の様に接しておられるそうで」
「皆に好かれる方なのね」
「……………だと良いのですが……爺やはこの結婚は祝福しかねます……」
「爺や?」
「っ!…………あ、いえ……」

 レイラにははっきり聞こえなかった最後の言葉。
 聞こえたら理由を聞こうとするだろう。

「カエアン様との仲も聞いてる?妹さんから」
「っ…………さ、さぁ……お年頃の年齢ですし、結婚適齢期の男女ではありますし、お2人共結婚相手探しをしていると思われ、その点は分かりかねます」
「お兄様はお相手探しをしている様子はないわよ?ティアナ様と同じ20歳なのに」
「人、それぞれですから………」

 何とも歯切れの悪い執事。
 何かレイラには言えない事がありそうだった。

「それで済むなら、私だって結婚願望なんて無かったのに、結婚させられるのよ?」
「…………そ、そうでしたな……準備にも多忙かと思います。旦那様のお手伝いは後回しでも構わないのではないでしょうか」
「…………私が修正しないと、忽ちこの家は潰れてしまうわよ………でも………ロヴァニエ子爵領からアマルディア伯爵領迄、馬車で5日は掛かるのでしょう?…………如何しましょう……」
「…………爺やから、答えは出ません……」

 この言葉が物語っている意味は、執事が内情を把握しているからだ。
 前ロヴァニエ子爵の仕事を執事は見ているし、補佐をしてきた人なので、手を施すのなら、ロヴァニエ子爵でもマキシムでもなく、レイラの方が相応しい、と分かりきっていた。
 だが、執事の分際で、主人の後継問題に口だは出来ないのが常。
 悔しさだけを募らせている事しか出来ず、現状打破ではなく、現状維持をしこれ以上悪くならない様に、とするだけだ。

「レイラお嬢様はまだ書庫に居られますか?」
「えぇ、寝る前に読む本を選んでから出るわ」
「本当に、勉強熱心ですね、レイラお嬢様は」
「…………私にはこれしか無いもの………」
「レイラお嬢様は、どんな令嬢よりも聡明で知的なご令嬢でございます。ライラ様の美しさとはまた別の美しさがあるのですから、ご自信を持たれて下さい」
「私には、お姉様の華やかさや、セイラみたいな儚げさと可憐さは持ち合わせてないわ……其方の方が、男性は好みなんじゃないの?」
「何を仰いますか………レイラお嬢様は充分お綺麗ですよ………では……失礼致します」

 本は視野を広くしてくれる。
 自由を手にしている兄や姉、弟が羨ましくて堪らなかったが、本も世界を教えてくれる。
 どちらが幸せを齎すか等、それは捉える者の考える権利だ。
 本を読み静かにさえしていれば、雑音が聞こえない。
 両親の妹に対する心配する焦り声、兄の飽きっぽい趣味の自慢、姉の美への探究心と社交界での噂話、弟の武勇伝、妹の咳払いや気の弱い言葉と我儘。
 ただ、静かに自室で何も悪さはしない、と知らせる事が、レイラの居場所だった。
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