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実は騙してました
しおりを挟む何度となく、タイタスとアニースはセシルの目を盗み、夜を過ごそうと企むようになった。
殆ど、2人のヤケである。
「こうなったら、どっかの街で宿屋に潜り込むか?」
「………そこ迄しなくても……私はこうして寄り添えるだけでもいいけど?」
「…………俺が辛い………。」
「はははははは!」
「……………リベンジしたい……。」
照れた顔で、媚薬に頼らない抱き方を早くしたい、というタイタス。
それがアニースには可愛くて仕方なかった。
ボルゾイで滞在する街はこの街で最後になり、これからレングストン、ウィンストン領に入る山越えがある。
また暫く、ゆっくりするような時間は取れないのだ。
「タイタス、焦らなくていいんだ………もう私達を邪魔する者は居ないだろ?」
「それはそうだが………。」
「じゃあ、まだ我慢だな………。」
「アニースは良いのか!」
「………私?言ったろ?寄り添えるだけで、言葉を交わせるだけで今は、タイタスを知れるから嬉しい、て。」
「触れたい、て言ってたじゃないか。」
「確かに寂しかったけど、あれは話も出来なかったからだけだ。今は傍で話が出来て、2人の時間があるだけでも嬉しい。」
ニッコリと笑うアニースだが、心苦しい事を抱えていた。
タイタスに言いたくて仕方ないが、これもお互いの為に、と言われたらそうした方がいい、とさえ思うセシルからの言葉があったのだ。
オアシスで、誤解が生じていたと思っていた時、理解し合ったと思っていた。
だが、まだ何処か不安に駆られていたアニース。
それがセシルに伝わっていた。
『アニース様、悩んでいらっしゃいますか?』
『………何に対して?』
『タイタス殿下との結婚です。』
『…………気付いてたか……。』
『はい、タイタス殿下にも同じような悩みはまだ抱えていらっしゃるかと推察はしております。』
『セシルは改善方法は分かるのか?』
『何となく、ですが……。』
『どうしたらいい?』
『今は、お互い言葉を交わす事です。お互い、恋に落ちてからの関係ではない筈。利害一致してお互いを知り得ない段階で、身体の関係を先にしてしまった……それで、そのまま流れで、となってしまっている。タイタス殿下はアニース様を、アニース様はタイタス殿下をまだよく理解されておられない。それでは幸せな結婚は無理かと。』
『…………好きではあるし、尊敬はしてるんだがな………タイタスは私に言いたくない事がありそうで………。』
『…………まぁ、それは男女の関係の事でしょうね………タイタス殿下には不名誉な事でしたから……アニース様はタイタス殿下に隠し事は無いようですが、タイタス殿下にそれをご本人から聞き出さない限り、閨は控えた方が宜しいかと。』
ふと、タイタスが話している内容をそっちのけで、セシルとの会話を思い出したアニース。
「アニース?どうした?ぼ~っとして。」
「あ………ちょっと疲れ溜まってるかも……。」
「じゃあ、そろそろ馬車に戻るか……休憩も終わりだし。」
「うん。」
タイタスはアニースに手を差し伸べ、並んで馬車迄歩く。
馬車にはセシルが待っていた。
「タイタス殿下、またアニース様を連れ出しましたね?時間は取ると言いましたが?」
「分かってるよ!話してただけだ!」
「セシルに何を言われたんだ?タイタス。」
「侍従達撒いて、宿屋に連れ込もうとした時に、セシルに説教食らったんだよ。」
「それは私も同じだけど………。」
「この辺りは、街中でも狼も出るようですし、単独は危険なんですから。」
「狼ぐらい、俺一人でもアニースを守れる。」
「そうですが、お気を付け下さい、タイタス殿下。」
タイタスは、何度もセシルから説教をされていたのだろう、嫌々そうな顔をして馬車に乗り込んで行った。
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