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即位式
しおりを挟むその日の午後、アラムの即位式が始まった。
アニースは痛い身体に鞭打って、何とか起き上がり、侍女達の手伝いで即位式用に着飾った。
「…………痛い………。」
「アニース様……肌をこれで覆って下さい。見える所は化粧で隠しましたが、やはり心配なので………。」
「……………すまない。」
コンコン。
『セシルでございます。アニース様に早急に薬茶を飲んで頂きたくお持ち致しました。』
客間のアニースの部屋の扉を叩くセシルの声で、侍女の1人が開けに行く。
セシルが薬茶を持ってくるとは珍しい、と思いアニースは驚くが、彼もウィンストン公爵家の1人だと思えば納得する。
「薬茶?何の効果の物だ?」
「筋肉疲労と、体力回復促進、鉄分補給の薬草を煎じ、茶にした物です。全身筋肉痛に、睡眠不足の上、かなり体力を消費し、出血もあったかと思いますので。」
「!!」
セシルが、昨夜客間の前で控えていたのは、アニースもその客間を出た時に知ったのだが、それがあからさまにされて、どういう顔をして受け取っていいか分からない。
「時間もありません、躊躇わずにお飲み下さい。即効力はあてにならないので………じわじわと効いてくるものですから。」
「あ、あぁ………頂く……………!!」
グラスをトレイに置き、口を抑え、一気に喉に押し込んだアニース。
「苦い!!水くれ!水!!」
「鉄分補給の薬草が苦いので致し方ないかと。」
「…………苦いなら苦いと言って欲しかった……。」
「薬は苦いか不味いかのどちらかしかありませんよ、アニース様。即位式が終わられたら今日はごゆっくりなさってください。警護は厳重にしておきますので。」
「…………あぁ、頼む……流石に疲れが……。」
「こんな形になりましたが、タイタス殿下とお幸せになって下さい。」
「……………そうするよ。タイタスと幸せになるよ。」
セシルは、まだ自分も用意があるとかで、自分の客間に戻って行った。
時間になり、即位式が行われる大広間にやって来たアニース。
既に参列していたタイタスとセシル。
「タイタス、大丈夫か?」
「俺の事はいい、少し寝不足なだけだ。アニースの身体の………んぐっ!」
アニースがタイタスの口を手で塞ぐ。
「馬鹿っ!今ここで言うな!」
「タイタス殿下、アニース様、注目されますから。」
「!!………じゃ、また後でっ!」
「あ、あぁ。」
アニースは王女として参列するので、ジャミーラや義妹達が居る場所に行く。
ジャミーラがアニースを睨んだまま、アニースの場所を開けた。
「相変わらず、邪魔な女ね。早くどっか行きなさいよ。」
「何を言っている?私はまだ第三王女だ。アラムが王になったら、私はレングストンの第三皇子タイタスに嫁ぐ。あと数日で出て行くから待っていろ。」
「は?何行ってんのよ、アンタ!レングストンにもアンタを入れる訳ないじゃない!」
「…………私は昨夜、タイタスに抱かれた。それがこの証明だ。ヘルンには礼を言わなきゃな。」
アニースは肌を隠したヴェールを捲り、ジャミーラに見せびらかした。
「!!ヘルン!ヘルンは何処よ!」
「ヘルンは来ないと思うぞ。謹慎させられている筈だ。」
「なっ!何ですって!………お母様も出て来ないし、何て日なの!!」
苛々させるツボをセシルで学んだアニースは、ジャミーラとの立場を逆転させる。
「ね、ねぇ、アニース……本当にレングストンの皇子に嫁ぐの?」
「あんなにジャミーラとヘルンが躍起になってても相手にされなかった皇子達なのに。」
アニースの義妹、ファティマとリューネ。
彼女達もジャミーラやヘルンが中心でアニースをいびっていたのを便乗していただけの義妹。
アニースの中で、何も怖くないしジャミーラやヘルンが何もしない間は、ファティマもリューネも仕掛けて来ない。
「ジャミーラとヘルンはレングストンで好き勝手して迷惑ばかり掛けていたからな、嫌われて当然なのさ。」
「私もレングストンに行こうかな……ね、もう1人皇子の相手決まってないのよね?」
「ちょっと!ファティマ!あんたズルいわよ!」
「…………そろそろ始まる……静かにな。」
義妹にもレングストンには嫁げないと思っているアニース。
ファティマもリューネも男漁りが盛んだったのを知っていたからだ。
話を反らし、もう直ぐ始まる即位式を待つ。
暫くすると、アラムが入場が始まり、盛大に行われたのだった。
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