放浪の花嫁【完結】

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
上 下
61 / 85

ヘルンの媚薬

しおりを挟む

 この夜、アラムから宴席を誘われたタイタス。
 女達は出席しない宴席だと聞かされた為、セシルと共に参加した。
 宴席にはタイタスやセシル、レングストンの者だけではない。
 アラムの即位式に参列する、ボルゾイと国交がある諸外国の要人も参加した。

「タイタス皇子、どうだ?ボルゾイのワインは。レングストンのワイン程では無いが、美味いだろ?」
「………えぇ、なかなか美味いですね。」

 アラムはタイタスとセシルの前にドカッと座り、タイタスのグラスにワインを注ぐ。

「女、て何で嫉妬深いんだろうな………一夫一妻制のレングストンでは経験無かろう?」
「…………ありますよ、女の嫉妬は………特に長兄リュカリオンの結婚した頃は大変でしたからね。」
「美形な皇子だからな………ジャミーラもヘルンもあの皇太子見たさに、レングストンに行く為にアニースを監禁迄しようとした………それを目論んでいるのを知っていて、見て見ぬふりまでしたぐらいだ。」
「それで、『放浪姫』と噂が出たんでしたね。」

 アラムは既にほろ酔いで、思いの丈をタイタス達に吐き出す。

「………アニースの母はボルゾイの中でも突出した踊り子だった。俺もイリーザに子供ながら目を奪われたものさ………日に日に成長していくアニースがイリーザに見えてしまっても仕方ない…………母は、本当にイリーザを憎んでいたからな……ジャミーラとヘルンを焚き付け、アニースへの態度はエスカレートしていたのを、俺も父も止めなかったのさ……母のヒステリックを見たら分かるだろうか……。」
「…………時には嫉妬は人さえも殺め兼ねますからね。」
「そうだな…………タイタス皇子、アニースをレングストンで宜しく頼む。父がまだ元気があった時に言っていた言葉だ。無事で居てくれたらそれでいい、とな。」
「…………お任せ下さい、アラム王子。」

 その言葉を聞いたアラムは、微笑みその場を離れて別の国の来賓の元へと行ってしまった。

「アラム王子も良心はあったのですね……ジャミーラ姫やヘルン姫に押されてご自分を出さなかっただけのようだ。」

 セシルは黙って会話を聞いていて、離れて行った後に口を開いた。

「…………まぁ、兄上達の妃も強いからな、ある意味………。」
 「確かに……。」

 タイタスやセシルも、この機会を利用し、他の国との交流を計る。
 宴席も2時間程で終わり、タイタスもほろ酔いながら、セシルと客間に戻ろうとしていた。

「………さて、寝るか………。」
「そうですね。」
「タイタス殿下。」

 宴席が終わる頃を見計らったのか、女の声がして、振り返る。
 同じ様に客間に戻ろうとしていた来賓達は、その女に目線が行く。
 肌が全身透ける布でかろうじて身体を隠して佇むヘルン。
 もはや、全裸と言ってもいい。

「…………ヘルン姫……何か?」
「タイタス殿下、お疲れ様でした。お酒飲み過ぎたのではありません?」
「えぇ、まぁ………。」
「では、酔い覚ましにこちらを。」

 ヘルンは侍女に持たせたグラスをタイタスに渡す。

「これは?」
「酔い覚ましですわ。さぁ、飲んで下さいな。」
「毒ではないでしょうね?ヘルン姫。」

 ヘルンを睨む様に、タイタスの後ろでセシルが冷たい声を掛ける。

「何で毒を飲ませなきゃならないのよ、失礼ね!」
「…………セシル……人の目がある場で毒等飲ます馬鹿は何処にもいないだろう、自分が犯人だと言わせるようなものだ。」
「それはそうですが………。」
「頂こう………ヘルン姫。」
「あ、タイタス!!居た!!」
「!!…………タイタス殿下、お部屋にお送り致しますわ。」

 アニース迄もタイタスを迎えに来たのか、宴席が終わった時間にやって来る。
 アニースの姿を見たヘルンは、酔っ払うタイタスの腕を絡み取り、胸を押し付けた。

「!!………離せ……ヘルン姫……………くっ!!」

 パリンッ………。

 タイタスがグラスを床に落とす。

「タイタス殿下!!………何を飲ませた!!ヘルン姫!!」
「まぁ、大変………お部屋にお送りしますわ。」
「ヘルン姫を止めよ!!」

 セシルの一声で、次々とセシルの部下が駆け寄ると、ヘルンをタイタスから剥がす。

「何をする!!私はこのボルゾイの王女だぞ!!」
「では、何を飲ませた!!あなたが王女だろうが、タイタス殿下はレングストン皇国の皇子!!やって良い事と悪い事の区別が付かないのか!!」
「何を騒いでる!!」
「アラムお兄様!!こいつら私を捕まえてるのよ!!離せ!!」

 拘束されているヘルンを見たアラム。
 しかし、状況が状況。
 タイタスはヘルンに何かを飲ませたのは明らかだった。

「ヘルン!!タイタス皇子に何を飲ませた!!場合によっては国際問題になるんだぞ!!」
「何よ!!媚薬飲ませただけよ!!この男、全然私の魅力に気付かないから、骨抜きにしてやろうと思ったから飲ませたのよ!!」

 バチンっ!!

 アラムが、ヘルンを殴った。

「衛兵!ヘルンを後宮に押し込めろ!!」
「何でよ!!悪い事なんてしてないわ!!………!!離しなさいよ!!ちょっと!!」

 アラムは酔が覚めたのか、しっかりした足取りでタイタスに近付く。

「タイタス皇子、大丈夫か?」
「…………な……んとか…………あ……つ……い……。」
「いかん!!早くタイタス皇子を部屋に運べ!!」
「タイタス!!大丈夫?」
「アニース!!近付くな!!」
「アラム?」
「アニース様は近付かない方がいいです。タイタス殿下は媚薬をヘルン姫に飲まされました。治まる迄、タイタス殿下の前に姿を現さないように。」
「で、でも……。」

 タイタスは媚薬の効果が身体中に行き渡っているのか、熱っぽく色気を醸し出している。
 3人掛かりで、タイタスは客間に押し込まれ、その部屋の前に迄着いて来たアニース。

「セシル殿、タイタス皇子にその場限りの女を充てがう事は出来るが、どうする?」
「飲んだ媚薬は強力なのですか?」
「ヘルンが用意したから恐らく強力なものだろうな………1人の女だけでは治まらないかもしれん。」
「駄目だ!!タイタスは複数の女を相手出来るような人じゃない!!」
「アニースは部屋に戻れ。お前が居た所でどうにもならん。」
「……………アニース様……あなたはタイタス殿下の妃になるおつもりですよね?」
「………セシル?………何か考えがあるのか?」

 セシルは自分の服から箱を取り出し、アニースに渡す。

「恐らく、タイタス殿下はご自分を治める為にその場限りに充てがわれた女を抱きたくないでしょう…………妃にしたい、と考えておられるアニース様以外、抱きたいと思わない筈。ですがそれはアニース様にも負担は掛かります。その覚悟がありましたらタイタス殿下のお相手をお願いします。もし、その覚悟がまだ無いのなら、この部屋には誰も入れさせません。タイタス殿下が治まる迄誰1人入れませんから、今結論をお出し下さい。」

 部屋の中で呻き声が聞こえる。
 息遣いも荒く苦しそうにしているように思えてならないアニースは決断を迫られるのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる

花草青依
恋愛
"氷の令嬢"と揶揄されているイザベラは学園の卒業パーティで婚約者から婚約破棄を言い渡された。それを受け入れて帰ろうとした矢先、エドワード王太子からの求婚を受ける。エドワードに対して関心を持っていなかったイザベラだが、彼の恋人として振る舞ううちに、イザベラは少しずつ変わっていく。/拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』と同じ世界の話ですが、続編ではないです。王道の恋愛物(のつもり)/第17回恋愛小説大賞にエントリーしています/番外編連載中

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

処理中です...