56 / 85
オアシス
しおりを挟む朝、レングストン国境を出てボルゾイに続く街に夕方着いたアニース達。
夕食は泊まる宿屋では用意は無く、街中の食堂で済ましたアニース達。
ジャミーラやヘルンのボルゾイ達一行は、街中の食堂を嫌がり、侍従達が作る料理を宿屋に運ばせた。
宿屋の店主は嫌がったが、ジャミーラ達は金を上乗せしてまで我儘を通す。
「金が欲しいでしょ?上乗せするわ!だから部屋で食べさせなさい!街の食堂なんて行きたくないわ!」
渋々、店主は了承したが、ジャミーラ達とは別行動にしたかったアニースやタイタス、セシル、レングストンの侍従達は、見張り以外街中の食堂に各自散らばり食事を取った。
「おやすみ、アニース。」
「おやすみ、タイタス。」
部屋は勿論、別にした2人。
宿屋の了承を得て、お互いの部屋には見張りを付けた。
セシルの指示ではあるが、アニースもウィンストン公爵の言葉を気にしていた為、見張りは有難かった。
そんな旅を5日程続け、ウィンストン領に入ったアニース達。
「ウィンストン領土に居られる間は、我がウィンストン邸の別邸にお泊り下さい。侍従達迄は無理ですが、警備はさせていますので。」
と、領土内を2日程掛けてボルゾイ国境迄、無事に済んだ。
そして、国境。
山を一つ越え、ボルゾイの砂漠を3年振りに見つめるアニース。
オアシスにより休息を取ると言うので、馬車から降りたのだ。
「この先にある街にも大きなオアシスのあるんだ。そこは活気があって賑やかなんだよ。」
「へぇ~………それにしても暑いな……。」
「タイタスは砂漠初めてなのか?」
「あぁ、ボルゾイに入ったのも初めてだ。ウィンストン領迄はあるけどな。」
水筒の水を飲み干してしまった程、喉を、潤すタイタス。
「肌は隠しといた方がいいぞ?昼は砂漠の熱と日差しで火傷してしまう。夜はその分寒いんだ。」
「聞いてはいたが、暑すぎて無理。」
「汗が蒸発してそれが焼けるぞ?余計に暑くなる。」
「…………なるほど……だから、ボルゾイの男の格好はマントみたいなのを被っているんだ………。」
「まだ、都迄は遠い。真っ直ぐ行っても1ヶ月半は掛かるからな。街に寄りながら行く必要はあるから、2ヶ月程掛けなければ。」
レングストン王都から、ウィンストン領迄5日、出る迄3日、ボルゾイに入って初日だ。
「うへ~………長旅だ……。」
「すまないな、付き合わせて。」
「…………いや?……アニースは嫌なんだろ?彼女達がレングストンに居るのが。」
「………うん………ナターシャやラメイラの妃の座を狙うのは絶対に阻止したい。」
「仲良いもんな、ナターシャやラメイラと。」
「それもあるんだけど…………私、あなたを利用した………。」
オアシスの木陰になる木に凭れて座っていたアニースが、猫背に俯く。
タイタスは立ってはいたが、その言葉で横に座った。
「………あぁ……ジャミーラ姫とヘルン姫から口説かれる、て?」
「………知ってたのか?」
「………父上と宰相から、そうなるんじゃないか、と。アニースは『タイタスを口説けばレングストンに居られる』と言うんじゃないか、て。」
「…………ごめんなさい……私はタイタスの妃候補なのに、あなたを囮にしてしまった………私が行くのに、ジャミーラ達は行かない、て言ったからどうしても連れ出したかった………連れ出してボルゾイにまた帰して何とか留めさせる為に考えよう、て………今はレングストンから出すだけでも、と。」
タイタスは黙って聞いていた。
アニースの考えを知りたかった様子。
「ま、そうなるだろうな………俺でもそう考えるだろうし。」
「タイタス殿下、お話中申し訳ありません。ジャミーラ姫様とヘルン姫様がタイタス殿下とお話したい、と。」
ジャミーラとヘルンの侍女達が、アニースとタイタスの前にやって来る。
「話?今は休息にオアシスに立ち寄っているだけ………何の話から聞いてないのか?」
タイタスは警戒心を隠さない。
「私共では、ジャミーラ姫様やヘルン姫様の意図は分かりかねます。」
「……………悪いが、俺は彼女達と話はない。アニース、出発準備に行くが君も行くか?今侍従がアニースの周りには居ないから、付き添ってくれ。」
「うん、分かった。」
「タイタス殿下!!………お、お願いします!!どうか、ジャミーラ姫様とヘルン姫様に………。」
タイタスが行く気が無い事が分かると、侍女達は怯えた表情になる。
アニースはその表情で察した。
「では、あなた達はジャミーラ達にこう言えばいい。『出発するからまた後で時間を取るそうです。』と。」
「……………は、はい……そうします。」
侍女達は怯えたままだが、少しホッとした表情をするのだった。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる