放浪の花嫁【完結】

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
上 下
55 / 85

出立

しおりを挟む

 アニースは翌朝、世話になった人達に挨拶を済ますと、そのまま王城入り口迄歩く。
 荷物は既に皇女宮から運び込まれ王城門にアニースが乗る馬車に乗せてある。

「タイタスは馬に乗るのか?」

 タイタスは馬に乗る準備をしていた。

「馬車に繋げるのに、ここまで乗って来ただけだ。」
「あ、そっか………タイタス。」
「ん?」
「旅、宜しくな。」
「……………。」

 タイタスは辺りを見回し、ボルゾイの者が居ない事を確認し、口を開いた。

「宰相から聞いたと思うけど、一人になるなよ。」
「うん、セシルが傍に居てくれるらしいから。」
「…………セシル?………あ、あぁ……。」
「タイタス?如何した?」
「………セシルも男………だから気を付けて………。」
「…………プッ……セシルは私をとして見ていないぞ?」

 アニースは妃候補だったナターシャとラメイラより勘が働く。
 だから、拗ねたような態度になるタイタスの言わんべき事が何となく分かったアニース。

「わ、分からないじゃないか!」
「私は、タイタスの妃候補だろ?なら、王族を裏切る様な事になる事はしないよ。」
「カイルはアリシアをコリンから奪ったじゃないか。」
「しーっ!奪ってない。アリシアがカイルを好きになったんだ、奪う奪わないじゃない。人の気持ちをよく理解した上で言葉を選ばなければ駄目だ。」

 アリシアがレングストンの公爵家の嫡男の男を好きになった事は知られていない。
 アリシアはまだ幼く、アードラの反乱で一次避難という名もでで通している。

「…………あ……す、すまない。」
「とにかく、セシルが私を好きになるとは思えないな。カイルの事を抜きにしても。」
「そ、そうなのか?」
「うん、勘だけど。」
「…………曖昧な……。」
「ふふふ………でも、私はその勘だけで、今迄ジャミーラ達から逃げてきたからな、根拠は無いが信じてもらってもいいぞ?」

 アニースは自信ありげにセシルの事を話していると、一段と騒がしくした一行が王城門に来る。
 ジャミーラとヘルン達だ。

「やっと到着か。出発するから馬車に乗ってくれ、アニース。」

 予定時間を遅れてやって来たジャミーラとヘルン。

「この程度の遅刻は序の口だぞ?いつもあんな感じだ。じゃ、また後でな、タイタス。」
「………あぁ、また。」

 まだ言いたい事があったタイタスだが、また後で言えると思い、馬車に向かうアニースの背中を見送る。
 その後姿を見てタイタスは馬車に乗り込んだ。

「ふぅ…………これから私は正念場だな………。」

 馬車に乗ったアニースは、まだもたつくジャミーラ達を眺める。
 今迄、ボルゾイでアニースが受けて来た仕打ちを思い出すと、殺意さえも芽生えてしまうが、それは自分に対しての戒めに捉え、仕返しではなく、縁を切る事に決めていた。
 だからこそ、愛する父を諦めたアニース。
 父の心労を思えばこそ、と思っていた。
 だが、その父が病と聞くと、行きたくて仕方なかった。
 それが、行けると思えば、迷いは無い。

「お父様…………アニースが行く迄どうか持ち堪えて………こんな、娘だけど…………。」

 アニースがボルゾイを出てから3年、旅をして人の心理や表裏、綺麗な事や汚い事も見てきた。
 アニースの中にも汚い面はある。
 ジャミーラやヘルン程では無いにしろ、ジャミーラとヘルンがタイタスの妃の座を狙うように仕向けたのはアニースだが、そう自分が決めたのに、タイタスに了承も取らず言ってしまった事に、謝らなければならないのに言えていない。
 知らないで欲しいと思いつつ言えないのだ。
 レングストンからナターシャやラメイラを守る為に、タイタスを連れてボルゾイに行く事を。
 囮の様な扱いをさせてしまった事を。
 
「言いたくないな………でもタイタスに謝らなければ………セシルが私に付き添う事で話が逸れてしまった………後で言わなきゃ。」

 やっと出立した馬車に1人揺られ、自分が乗る馬車の前で進むタイタスに思いを馳せるのだった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...