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出立
しおりを挟むアニースは翌朝、世話になった人達に挨拶を済ますと、そのまま王城入り口迄歩く。
荷物は既に皇女宮から運び込まれ王城門にアニースが乗る馬車に乗せてある。
「タイタスは馬に乗るのか?」
タイタスは馬に乗る準備をしていた。
「馬車に繋げるのに、ここまで乗って来ただけだ。」
「あ、そっか………タイタス。」
「ん?」
「旅、宜しくな。」
「……………。」
タイタスは辺りを見回し、ボルゾイの者が居ない事を確認し、口を開いた。
「宰相から聞いたと思うけど、一人になるなよ。」
「うん、セシルが傍に居てくれるらしいから。」
「…………セシル?………あ、あぁ……。」
「タイタス?如何した?」
「………セシルも男………だから気を付けて………。」
「…………プッ……セシルは私を女として見ていないぞ?」
アニースは妃候補だったナターシャとラメイラより勘が働く。
だから、拗ねたような態度になるタイタスの言わんべき事が何となく分かったアニース。
「わ、分からないじゃないか!」
「私は、タイタスの妃候補だろ?なら、王族を裏切る様な事になる事はしないよ。」
「カイルはアリシアをコリンから奪ったじゃないか。」
「しーっ!奪ってない。アリシアがカイルを好きになったんだ、奪う奪わないじゃない。人の気持ちをよく理解した上で言葉を選ばなければ駄目だ。」
アリシアがレングストンの公爵家の嫡男の男を好きになった事は知られていない。
アリシアはまだ幼く、アードラの反乱で一次避難という名もで留学で通している。
「…………あ……す、すまない。」
「とにかく、セシルが私を好きになるとは思えないな。カイルの事を抜きにしても。」
「そ、そうなのか?」
「うん、勘だけど。」
「…………曖昧な……。」
「ふふふ………でも、私はその勘だけで、今迄ジャミーラ達から逃げてきたからな、根拠は無いが信じてもらってもいいぞ?」
アニースは自信ありげにセシルの事を話していると、一段と騒がしくした一行が王城門に来る。
ジャミーラとヘルン達だ。
「やっと到着か。出発するから馬車に乗ってくれ、アニース。」
予定時間を遅れてやって来たジャミーラとヘルン。
「この程度の遅刻は序の口だぞ?いつもあんな感じだ。じゃ、また後でな、タイタス。」
「………あぁ、また。」
まだ言いたい事があったタイタスだが、また後で言えると思い、馬車に向かうアニースの背中を見送る。
その後姿を見てタイタスは馬車に乗り込んだ。
「ふぅ…………これから私は正念場だな………。」
馬車に乗ったアニースは、まだもたつくジャミーラ達を眺める。
今迄、ボルゾイでアニースが受けて来た仕打ちを思い出すと、殺意さえも芽生えてしまうが、それは自分に対しての戒めに捉え、仕返しではなく、縁を切る事に決めていた。
だからこそ、愛する父を諦めたアニース。
父の心労を思えばこそ、と思っていた。
だが、その父が病と聞くと、行きたくて仕方なかった。
それが、行けると思えば、迷いは無い。
「お父様…………アニースが行く迄どうか持ち堪えて………こんな、娘だけど…………。」
アニースがボルゾイを出てから3年、旅をして人の心理や表裏、綺麗な事や汚い事も見てきた。
アニースの中にも汚い面はある。
ジャミーラやヘルン程では無いにしろ、ジャミーラとヘルンがタイタスの妃の座を狙うように仕向けたのはアニースだが、そう自分が決めたのに、タイタスに了承も取らず言ってしまった事に、謝らなければならないのに言えていない。
知らないで欲しいと思いつつ言えないのだ。
レングストンからナターシャやラメイラを守る為に、タイタスを連れてボルゾイに行く事を。
囮の様な扱いをさせてしまった事を。
「言いたくないな………でもタイタスに謝らなければ………セシルが私に付き添う事で話が逸れてしまった………後で言わなきゃ。」
やっと出立した馬車に1人揺られ、自分が乗る馬車の前で進むタイタスに思いを馳せるのだった。
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