放浪の花嫁【完結】

Lynx🐈‍⬛

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ラメイラ双子の母に

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 ボルゾイへの出発も着々と近付いていた。
 
「うん、これぐらい持って行くか。」

 アニースは数着の服と装飾品、化粧品、僅かな日用品のみ。

「少なくないですか?もう少し服をお持ちになったら……。」
「私以外にも付き添うあなた達の荷もあるのだぞ?軽くでいい。」
「アニース様は気にされなくても。」
「付き添いの侍女も数人に絞られてるのですから……。」
「荷を多くしたら、管理が大変だろ?ウィンストン領を超えたら山越え、その後は砂漠が続くんだ。食料品も他に持って行くんだから私は軽くでいいんだよ。」

 この日は勉強もない休日でのんびりしようと、アニースはラメイラの居るトーマス邸に行こうと思い立つ。

「ラメイラに会いに行ってくる。今は出産間近で公務休んでるし、元気付けてくるよ。」
「そうですね、お邪魔にならないようにあまり長居はしないで下さいね。」
「そうだな。行ってくる。」

 皇女宮を出ようとすると、皇女宮の階段を何度も行き来するジャミーラとヘルンの侍従達。

「凄いな、荷物。」

 置いていかれても困るだろうが、次から次へと服や装飾品を下ろしている。
 それらを避けながら、皇女宮を出たアニースはトーマス邸迄来る。

「ご機嫌よう、ラメイラ妃は居るかな?」
「アニース姫様、ようこそ。………どうぞ、今日はおみえですよ。」
「ありがとう、入らせてもらう。」

 衛兵に声を掛けて、中に入るとラメイラは編み物をしていた。

「ラメイラ、調子はどうだ?」
「アニース、暇してたんだ、来てくれて助かったよ。」
「編み物してたのに?邪魔じゃなかったのか?」
「…………私がこういう事好きでやってると思うか?」
「……………思わないな。」

 お互いがよく理解して、アニースとラメイラはクスクスと笑った。

「何かしてないとさ………嫌な事ばかり思い出すんだ………妊娠が分かった時、私の母上の事を話しただろう?」
「あぁ……。」

 ラメイラの母は、ラメイラの弟を産み亡くなっている。

「私はまだ怖いんだ……母上と同じ双子を妊娠しているし、同じ様にならないか、と。」
「だが、順調なのだろう?」
「…………不思議な事にな。」

 ラメイラは、アニースに満面の笑みを見せる。

「それならいいじゃないか、何を心配する?ヴァン子爵も頻繁に診てくれているのだろう?」
「うん……だけど頑張らなければならないのは私だろ?その頑張りたい気力があったりなかったり…………せめて1人だったらなぁ、て………。」
「分からないでもないが。」
「ナターシャに言ったらさ、無いもの強請り、て言われた。授かり物を有難く頂きなさい、ラメイラの元に2人が来たいから来たのです、て言われて…………あぁ、そっか……て、落ち込むと思い出す。でも気が付くと落ち込むの繰り返しだよ。」
「そうか………ラメイラはナターシャといい関係だな。私もその仲間入りしたいものだ。」
「なってるよ。私はアニース好きだぞ?勿論、アードラに帰ったアリシアもな。」

 編み物の手も止まり、話に夢中になり始めた頃、急にラメイラの顔色が変わり、汗も出始める。

「ラメイラ?」
「……………ヴァン………子爵………を………も、もしかしたら………破水………した………かも…………。」
「破水?」

 破水が何か分からず戸惑っていると、ヴァン子爵から説明があったのだろう、破水が何か分かっていた。

「産まれ……る………かも………。」
「!!マーニャ!!マーニャは居るか!」
「は、はい!」
「ラメイラが破水した!ヴァン子爵を呼んでくれ!」
「は、はい!!直ぐに!!」

 まだ双子を産むのにリスクが高いレングストンの医療。
 じわじわと、ラメイラの着るドレスのお尻に染みが広がっていく。

「寝室行くか?」
「……………む、無理………お腹………痛い……あぁぁぁ…………っ!!」
「ラメイラ………。」

 アニースは分からない。
 出産に立会う事も初めてで、自分も経験が無い。

「アニース………腰擦ってて…………痛くて……。」
「わ、分かった!」

 一生懸命、アニースはラメイラの腰を擦るしか出来ない。

「ラメイラ!!」
「トーマス殿下!!」
「ベッドに運ぼう、捕まれるか?ラメイラ。」
「無理……………運ばれてる時に産まれたらどうするの!………………イタタタ………。」
「ラメイラ妃、確認致します。トーマス殿下、宜しいですか?」
「あぁ、頼む。」

 トーマスの了承を得ると、ラメイラのドレスを腰迄捲くるヴァン子爵。

「まだ頭は見えていない…………ラメイラ妃をベッドに!」
「ま、まだ産まれ………ない?」
「ラメイラ妃、まだもう少し掛かります。昨日は順調でしたから、お気を強くお持ち下さい!」
「ラメイラを寝室に運ぶ。」
「そっとお願いします!殿下!」
「当たり前だ!」

 ラメイラはトーマスにしがみつき、アニースを見た。

「アニース………ごめん………産んでくる。」
「ラメイラ、頑張れ!」
「…………ん。」

 寝室に運ばれたラメイラはほぼ丸1日、苦しみながら双子の男の子を無事出産した。
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