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承諾
しおりを挟む「分かった、それなら行ってやろうじゃない。」
「私が落としてやるわ。」
ジャミーラとヘルンに闘争心を仰ぎ、アニースは覚悟を決める。
タイタスを奪われないように、レングストンに戻る、と言わせないように。
「では、荷造りしておいてくれ、出発は決まったら伝えるから。」
「荷造りなんてしなくても、ボルゾイには長居しないわよ。」
「旅路に何も持って行かないのか?それに旅路で買い揃えたらレングストンに戻る時にまた荷が増えて大変だぞ?ジャミーラは、前夫の邸に置いてある物も少しは持って出るんだろ?高価な物をそのままだと盗まれてしまうぞ?」
「……………そうだわ!管理はさせてるけど、あそこには高価な物がまだある!」
アニースの言葉にはジャミーラとヘルンの心理を擽る要素がある。
伊達に長く妹をして、観察していた訳ではない。
「従者達も連れてってくれよ?大所帯になる旅なんだから。」
「こうしちゃいられないわ!ある程度荷造りさせなきゃ!」
(…………残った荷物は、処分……かな……自分の物は全て持って行って欲しいが……。)
アニースが言いたい事は粗方終わった為、再びジャミーラとヘルンに声を掛けた。
「何を持って来ていたか分からないが、レングストンの調度品迄持って行かないでくれよ?ボルゾイの印象を悪くしたら、タイタス殿下との婚姻さえ、拒否されてしまうからな。」
「それはヘルンに言って!」
「私が持ってった、て証拠見せなさいよ!」
「ウィンストン公爵が、ヘルンの持って行った調度品をそのまま無視するとは思えない。請求書なり証拠を突き付けたのに、破り捨てていったんじゃないのか?」
ヘルンのやりそうな事をカマかけるアニース。
「……………くっ………。」
「図星か…………今回はしないでくれよ……では、また明日、勉強の時間で。」
アニースはジャミーラの部屋を出る。
そして小声で虐待されている侍女達に声を掛けた。
「医者を呼んでおく。ラメイラ妃が出産間近で、数人王城に待機しているから、皇女宮にも来てもらえるだろう。」
「あ、ありがとうございます……アニース姫様。」
「すまないな、私がジャミーラやヘルンと比べ立場が弱いから、これぐらいしか出来ないが。」
「とんでもございません………アニース姫様のお心の優しさに感謝致します。」
侍女達は、一斉に頭を下げる。
アニースがボルゾイに居た頃は、ジャミーラやヘルンの指示でアニースを冷遇し、虐待をさせられてきた侍女達。
それでも、アニースは彼女達の治療をする事を望んだ。
侍女達は命令されただけ。
悪いのはジャミーラとヘルンなのだ。
「待っててくれ。」
アニースは部屋に戻り次第、侍女に医者を呼びに行かせた。
「…………また、虐待されたようです。」
「また?」
「はい、以前ボルゾイから来られた直後、ほぼ全員に痣が………中には骨折していた者もおりました………。アニース様、ボルゾイはそのような恐ろしい国なのですか?」
「私は、絶対にそんな事はしない!」
医者達は、ラメイラ出産を待ちたい、という事で、助手が治療にあたった。
恐る恐る、治療後の報告を聞いたアニース。
悔しかった……ボルゾイの印象がジャミーラとヘルンに尽く悪くされるのが。
「アニース様、私達はアニース様の侍女で喜んでいます!」
「そうです!アニース様はあの方達とは違います!」
「…………皆………ありがとう、そう言ってくれて嬉しいよ。」
レングストンに来て、溜まり溜まった鬱憤をタイタスの胸で吐き出してから、アニースの涙腺は緩くなったようだ。
一筋の涙が頬をつたった。
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