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帰国を決めたアニース
しおりを挟む皇女宮に戻るのに、皇太子邸を出たアニースとラメイラ。
「アニースは、タイタスを幸せにしてやってくれ。」
突如、ラメイラに言われてキョトンとした顔をしたアニース。
「どうした?急に。」
「トーマスがリュカから聞いたんだ。リュカの執務室でタイタスといい雰囲気だった、と…………私は、タイタスを幸せに出来ないからさ…………初恋の人だったし、片想いしていた時は、タイタスはナターシャに一途な想いを抱えながら、別の女に慰めてもらってたから、辛い思いをしてもらいたくないんだ。」
「…………タイタスから少し聞いてる………でも私はそれを含め、今のタイタスがあると思っているから、ナターシャやラメイラを好きでいた時のタイタスより、人として成長していると思ってる。」
「…………は?私はタイタスに好かれてはいなかったぞ?」
ラメイラは知らないのだ。
ラメイラがトーマスを選んだ時に、タイタスが自分の想いに気が付いたのを。
アニースはラメイラに微笑む。
「…………仕方ないんじゃないかな……ラメイラはトーマス殿下を選んでから気が付いたらしいから。私から見たら、それは恋じゃないとは思うよ。ラメイラがトーマス殿下に向ける表情を見てラメイラを好きだったと気が付いたらしい。トーマス殿下に引き出されたラメイラの表情を、タイタスでは出来ないと思うからな。」
「そ、そうか?」
「………うむ。だって、タイタスにトーマス殿下の様な包容力ないだろ?」
「……………無いな……。」
「だから、気が付いてトーマス殿下からラメイラを奪ったところで上手くは行かないと思うよ。」
「凄いな、アニース………タイタスの事よく見てる………。」
アニースだって、知り合って友人になった者ぐらいしかよく見ていない。
ラメイラの性格や、トーマスの性格、タイタスの性格が分かるからそう思うだけだ。
「私は、ラメイラも好きだし、トーマス殿下も尊敬しているから分かるし、タイタスがリュカ殿下とトーマス殿下へ憧れる気持ちも知っているから、わざわざ女の事で波風立てるつもりは無かったんだろう。それだけだ、私はタイタスの過去は気にしていない。過去にタイタスに会ったら好きにはなってないかもしれないけど、今のタイタスは好きだな。」
「そっか…………アニースがタイタスを好きになってくれて良かったよ……………いっ………たっ!」
「ラメイラ?………大丈夫か?」
「…………今、思いっきり蹴られた………2人とも元気でさ………いたたたっ……。」
「早く帰った方がいい。2人居るんだし。」
「そうする………じゃあ、また。」
侍女達に支えられ、ラメイラはトーマス邸に帰っていく。
その背が見えなくなる迄見送っていると、アニースは声を掛けられた。
「アニース様、今宜しいですか?」
「…………ウィンストン公爵……ご機嫌よう。どうかしたのか?」
「人をよく観察されておられるアニース様にお願いがございまして。」
「………今の話聞いてたのか………あなたも人が悪い……私が出来る事であればするが、何だ?お願いとは。」
「一旦、ボルゾイへ帰国をして頂きたいと思っております。」
「…………お父様に会えるなら行くが、レングストンに戻れる保証はないぞ?」
「その点は大丈夫かと。同行にタイタス殿下とセシルを考えております。それでもう一つお願いがありまして、そちらが重要でして。」
「…………ジャミーラとヘルン?」
ウィンストン公爵は、一瞬目を見開くが、直ぐに笑った。
「話が早くて助かります…………あなた様にはジャミーラ姫とヘルン姫を連れ出して頂きたい。ご存知かと思いますが、ジャミーラ姫はヴィオ様に手を挙げた。嫉妬で行った事ではないにしろ、皇太子妃の座を狙うかの姫達は、ヴィオ様にとっても危険を齎すと判断致しましたので、アラム殿の即位式を祝う名目でレングストンから帰国して頂き、即位式が終わりましたら、そのまま留めて頂こうという事になりました。よって、帰国の話をアニース様にもお手伝いして頂けないか、と。」
「……………分かった。私もレングストンに恩がある。その恩がそんな事で返せるなら協力しよう。まだ恩を返しきれてはいないが。」
「アニース様、恩の返しは必要ありませんよ。あなたは既にレングストンの国民だと思っておりますし、タイタス殿下の妃となれば、それが恩以上のものとなりましょう。」
ウィンストン公爵は深々と頭を下げるのだった。
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