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皇妃の力量
しおりを挟む「お母様~!!」
「ヴィオ、大丈夫?…………腫れてるわ、冷やさなければ……セリナと一緒にヴィオは待ってて。直ぐにお母様は、ヴィオの編みぐるみを持って帰るから、ね?」
「……………。」
お腹を庇いながら、ナターシャに駆け寄ったヴィオレットの目線に合わせ屈むと、慈しみの言葉をヴィオレットに掛けた。
母の言葉に素直に従い頷くヴィオレットはセリナの手を掴む。
「セリナお願いね。」
「お任せ下さい、ナターシャ様。」
セリナとヴィオレット、数人の衛兵が皇太子邸に戻って行く。
「お会いするのも、お話するのも初めてですわね、ジャミーラ様。わたくし皇太子妃ナターシャでございます。」
「早く開け渡して貰えないかしら?私、皇太子妃になりたいから。」
「…………そんな事より、ヴィオレットの編みぐるみをお返し頂けませんか?ヴィオレットの編みぐるみだという証拠はありますから。」
皇太子妃を譲れ、と言われてもそれを無視するナターシャ。
「皇太子妃の座を譲るなら返してあげましょうかね。」
「あなたには、皇太子妃は無理ですわ。お返ししたくないのであれば、その編みぐるみの目だけお返し下さい。わたくしが編みぐるみを作り直し、娘に渡しますので。」
「この目が気に入ってるの。」
「申し訳無いのですが、その編みぐるみはわたくしの友人が作ってくれた編みぐるみ。目は皇太子殿下がヴィオレットの瞳に合わせて用意した大切な物ですので、かけがえのないものですから。」
「皇太子殿下が選んだ物なら、尚更渡せないわね。」
「…………あなたは、皇太子殿下が他の女の為に与えた物で満足なのですか?お安い方ですのね………あなたの価値は………幼子を叩いておいて、謝罪もしていないのでしょう?そして、奪おうとする行為…………そんな方が皇太子妃になりたいだなんて、国を滅ぼす行為、誰が許すと思いますか?」
「私の価値は高いわよ!王女なのよ!」
「王女?何処がですか?わたくしには、欲しい物強請りの物取りにしか見えません。悲しい方ですわね。何でも欲しい物は手に入れて来られたのでしょう。その分人の気持ちを手に入れる事に疎くなってしまわれたのですね?高い地位の方にわたくしの言葉は聞き入れられないかもしれませんが、レングストンでは、あなたにそれは通用致しません。力づくで、とわたくしが衛兵達に命じても良いのであれば、今ここでさせてもらいますが?」
ナターシャが『力づく』と言った瞬間、衛兵達が一斉に武器を構える。
あとは、ナターシャの命令を待つのみ。
それにはジャミーラも退く。
「分かったわよ、返せばいいんでしょ!返せば!」
「ライア、受け取ってきてもらえる?」
「はい。……………お渡し下さい、ジャミーラ姫様。」
「ふん!」
「……………衛兵、ジャミーラ様を連れてきて頂戴。ヴィオレットに謝罪してもらうから。」
「返したからいいでしょ!」
返せばそれで済むと思ったら大間違い。
ナターシャは不可抗力だとしてもヴィオレットを叩かれて、許すつもりもないのだ。
悪い事をしたら謝る。
それは人として当然の行為。
「今回は特別に皇太子邸に入る事を許すのです。嬉しくないのですか?今の時間なら皇太子殿下は執務を終え帰って来ている頃。渋るなら、もっと皇太子殿下からキツイ罰が与えられますわよ?」
「!!」
「ジャミーラ姫様、どうぞご一緒に。」
ライアからヴィオレットの編みぐるみを受け取り、解れがないかを確認するナターシャ。
「良かった、修復は不要ね。」
「はい。ヴィオ様はこの編みぐるみがお気に入りですから。」
先程の冷たい口調から母の優しい口調に変わるナターシャは我が子を抱くかのように大事に持った。
皇太子邸にジャミーラを連れて来ると、リュカリオンが青褪めた表情で出て来る。
「ナターシャ!!無事か!!」
「如何されました?そんなに慌てて。」
「…………ジャミーラ姫……。」
「反省されヴィオに謝りに来たのですわ…………そうですわよね?ジャミーラ様。」
「…………え、えぇ……。」
ヴィオレットは、頬の痛みも消えたのか落ち着いていた。
「ヴィオ、はい、編みぐるみ。」
「お母様!!ありがとう!!」
「お姉さんがね、叩いてしまってごめんなさい、てお話に来てくれたわ。」
「…………ひっ!!」
ナターシャの後ろに隠れ、思い出したのか泣きそうになるヴィオレット。
それをリュカリオンは見守るしか出来ない。
ジャミーラに謝れ、と命令は簡単だが、それはヴィオレットへ嘘を付くようなものだ。
ジャミーラが謝る態度を素直に見せなければならない。
「悪かったわ………叩いて。」
「ヴィオ、お姉さんはね、ごめんなさい、という言葉を出す事が恥ずかしいのだって。だから、ヴィオが痛くて泣いたのにびっくりしちゃったの。許してあげて?編みぐるみも帰って来たでしょう?」
「……………もう、叩かない?」
「えぇ、叩かない約束してくれたわ。」
「ありがとうございます………拾っ………?」
「拾ってくれて、でしょ?」
「うん、それ!」
「…………じゃあ、私は戻っていいわね!?」
「ジャミーラ様、今後この様な事は許しませんから…………それと、わたくしは皇太子妃になりたかった訳ではありません。わたくしは皇太子殿下を愛したから妃になったのです。愛した方の元に居る為に皇太子妃として認められる存在で居たいだけ。私も欲に溺れた女ですので、その欲を奪う存在は、わたくしは断固として阻止します。首の皮1枚繋がったその身を大事になさいませ。」
「……………ふん!」
ジャミーラは、居心地悪く皇太子邸に入れたにも関わらず、逃げるように出て行った。
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