43 / 85
縋りつく胸
しおりを挟む「処置無しだな。」
「全くです。」
セシルは、リュカリオンの執務室にアニースを連れ、報告をリュカリオンにした。
呆れて物が言えない程、腐った性根のジャミーラとヘルン。
「申し………訳………ない……。」
涙が止まらず、それでも殴った事にはかわりないアニースは、この騒ぎをリュカリオンに謝罪する。
「アニースの責任ではないよ。父上と宰相に報告してこよう、セシルはアニースに付いててやってくれ。」
「分かりました。」
「………私は大丈夫です…………皇女宮に戻ります。セシルがその場に居たので、皇帝陛下やウィンストン公爵への説明は彼が居なければ。」
「それはそうだが………。」
「大丈夫ですか?アニース様。」
「…………大丈夫だ。」
「じゃあ、暫くここで休んでていいから、落ち着いたら皇女宮に戻るといい。後程、父上の判断を伝えるとは思うが、待っててくれても構わないから。」
リュカリオンも涙目のアニースが王城内を歩くのは目立つだろう、との配慮。
「リュカ殿下、ありがとうございます。この場をお借りする。」
リュカリオンとセシルが執務室から出て行き、1人ソファに座るアニースは再び涙を溢した。
「……………お父様…………会いに行きたい……。」
コンコン。
「!!……………は、はい!」
執務室の扉がノックされ、急ぎ涙を拭いたアニースが思わず返事をしてしまった。
「…………リュカ兄上?………あ、あれ?何でアニースが兄上の執務室に………。」
「タ、タイタス………。」
「な、何で泣いてるんだ!!如何した!?」
「…………み、見苦しくてすまない……。」
「いや………そんな事は気にしなくていいけど………何かあったのか?」
タイタスは、リュカリオンに仕事の書類を渡しに来たのだろう。
その書類を、ソファの前のテーブルに起き、アニースの横に座る。
アニースが持つハンカチが涙でぐっしょりなのを見たタイタスは自分のハンカチをアニースに手渡す。
「……………ありがとう……。」
「思い切り泣けよ…………溜めてたんだろ?」
「………………うっ……………ぐすっ………うぅぅ……。」
タイタスは温もりが欲しいのだろうと、アニースを抱き寄せた。
「い、嫌かもしれないけど、泣きたい時はこの方がスッキリするから…………あ、嫌なら押し退けて……………!!」
アニースはガッチリとタイタスにしがみつく。
そして思い詰めていたモノを吐き出すように泣きじゃくった。
「…………アニース………大丈夫だ、泣きたかったらいつでも貸す。思い切り泣きな。」
アニースが泣く間、ずっと髪を撫でるタイタス。
アニースの涙が枯れる迄、それは続いた。
「……………すまない………ハンカチ借りたのに、タイタスの服の方が濡れた……。」
「アニースがスッキリしたならいい、気にするなよ。」
「…………スッキリ………うん、したな……。思えば、母が亡くなってから泣いた事もなかったかも。」
「…………そうか……じゃあ、かなり溜め込んでたんだな。」
「………泣く暇もなかったのかも………何であんな義姉達の事で、て思うと情けない。」
大分、アニースは落ち着いて、淡々と話を出来るようになっていた。
「何があったか聞いても?」
アニースは、ジャミーラとヘルンとの間にあった事をタイタスに話す。
「…………どうしようもない姫達だな。」
「早くボルゾイに帰ってほしいよ……。」
「リュカ兄上が今セシルと父上に報告してるんだろ?大丈夫だ、何とかしてくれるだろうし、アニースには味方は大勢居る。頼りにならないかもしれないが、俺だってアニースを守ってやるから。」
「…………頼りにならない事はない………私はタイタスのその優しさに救われているんだから。」
「…………め、目が腫れてる……ハンカチを水に冷やしてくるかな…………。」
タイタスは照れ隠しから、慌ててアニースから離れてしまう。
(………純真な人だな、タイタスは。)
執務室にある飲用用の水で、ハンカチを濡らすと、再びアニースの横に座り、目にあててくれたのだ。
その顔も真剣で、アニースもタイタスを見つめてしまう。
「……………。」
「………アニース………。」
タイタスの顔が、アニースの顔に近付く。
唇が重なるか重ならないか、という距離になり、アニースは目を閉じた。
カチャ。
「!!」
「!!」
慌て蓋めくアニースとタイタスを見た、執務室に入って来たリュカリオンとセシル。
「……………へぇ………セシル、邪魔らしいから、もう少し後に戻ってくるか。」
「そうですね……………あ、タイタス殿下、婚姻前の避妊は義務ですからね。」
「!!ちょっと!リュカ兄上もセシルも!何を言って!!」
「ん?そうじゃないのか?………というか、2人共その気なんだろ?」
「また、陛下に報告する事が増えましたね、リュカ殿下。」
「あぁ、そうだよ………また今から行くか?」
リュカリオンとセシルの揶揄いに、真っ赤な顔して聞くしか出来ないアニースを隠すようにタイタスはソファから立ち上がった。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる