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無様な2人
しおりを挟む翌日、アニースはセシルに願い出て、ジャミーラとヘルンの居る客間に連れて来て貰った。
「すまない、セシル…………ジャミーラ達と話がしたい。」
「構いませんが、詰られるかもしれませんよ?宜しいのですか?」
セシルを皇女宮に朝呼び出し、アニースは覚悟を決めたのだ。
「構わない。私はボルゾイを捨てた。それにより私は何も持たない存在にはなったが、レングストンに害を齎す物がボルゾイから来たのなら、元王族としても私は決別を完全にした訳ではないから、無関係だとは思いたくないのだ。父の病も気になるし……。」
「アニース様がそれで良いなら、午後に会いに行く予定でおりますのでご一緒に。」
「あなたが居てくれたら心強い。頼みます。」
午後の勉強が終わる頃、セシルは図書館へ迎えに来て貰った。
「トーマス殿下、本日の勉強は終わられましたか?」
「…………あぁ、終わったが如何した?セシル。」
「アニース様が義姉の方々にお会いしたいと申されまして、ご案内を。」
「…………アニース、良いのか?」
初耳のトーマスと一緒に勉強をしていたアリシアは驚いた様子を見せた。
「アニースお姉様!何されるか分かったものでは………。」
「大丈夫だ。私も毎度逃げては前に進めない…………タイタスの妃候補として、義理姉になるかもしれない、友人でもあるナターシャやラメイラに危害を加えるジャミーラとヘルンを許せないだけだ。」
「…………お姉様………。」
「行ってくる………アリシア、終わったらあなたの部屋に遊びに行くよ。愚痴を聞いてくれるか?」
アニースにとっても、アリシアは大事な友人であり、妹のような存在になっていた。
アリシアの頭を撫で、優しい笑顔をアニースは向ける。
「勿論です!わたくしがレングストンに居る間は、アニースお姉様の為だけでなく、ナターシャお姉様やラメイラお姉様を守る為に動きますから!」
「…………ありがとう、アリシア。」
「では、ご案内致します、アニース様。」
「あぁ、頼む、セシル。」
セシルはアニースを客間が並ぶフロアに連れて来た。
アニースもレングストン王城にやって来た時は、この客間フロアの一室に通されたのを思い出す。
「何だか、懐かしいな、このフロア。」
「………そうでしたね、急遽お通ししたのがこの1角でしたから。」
レングストンに身を寄せるようになってから半年は経っていた。
「アニース様、こちらです。」
「……………。」
アニースの周りの空気が緊張で包まれる。
ボルゾイで、アニースを虐めてきた筆頭がこの扉の向こうに居ると思うと、恐怖心が蘇るのだ。
「開けて宜しいですか?」
セシルもその空気を感じ取り、確認を取った。
「開けてくれ。」
「御意。」
コンコン。
躊躇する事なく、セシルは扉をノックする。
「失礼します。ジャミーラ姫、ヘルン姫、覚えて頂けましたか?」
「…………アニース!」
「無様だな、ジャミーラ、ヘルン……侍女が居ないだけで化粧も出来ないのか?」
1日経ったジャミーラとヘルンの姿は今迄、侍女達に任せっきりだった事を物語る。
髪も化粧も出来ていないのだ。
その点、アニースは旅をしながら働いていたのもあり、ある程度の事であれば侍女の手を煩わす事なく、見目を整えられる。
レングストンでは侍女を付けてくれているのもあり任せてはいるが、アニース付きの侍女達は仕事が楽だという噂が上がる程、侍女達の評判も良いアニースだった。
「アンタはいいわよね!侍女付けてもらってるんでしょ!」
「侍女ぐらい寄越しなさいよ!」
「…………そうしたいのは山々なんですがね、ボルゾイの侍女達の疲労度が見るに見兼ねてますから、姫達の世話が無理そうでしてね。」
「だったらレングストンの侍女を寄越しなさい!」
「生憎、余裕はありませんね、ボルゾイの侍従達の看病等をさせておりますし、一番元気な方々はご自分でしていただけると思っておりましたから。」
余程、セシルもジャミーラとヘルンの相手をしたくないのか、全く取り合わないのを見るアニースは笑いを堪えるのが必死だった。
それが、またジャミーラ達の怒りを煽る。
「何笑ってんのよ!」
「腹立つわ!アニースの癖に!」
「身支度ぐらい自分で出来ないとは面白くてな。セシル、私付の侍女をジャミーラ達に回してもいいぞ?どれだけ私と彼女達が侍女の扱いが違うか、よく分かるんじゃないか?だが、侍女達は嫌がるだろうな。ジャミーラ達も嫌だろうけど………私からの蔑み等。」
「アンタの侍女なんて要らないわよ!」
ヘルンがアニースに襲い掛かりそうな勢いで詰め寄る。
「ヘルン、いいじゃない、アニースの侍女寄越しなさいよ、使い物にならないぐらいにして返してやれば。」
ボサボサの髪に着崩れた服で腕組みし、威張るジャミーラだが、そんな姿が気の毒に見えてしまう。
「アニース様、なりません。彼女達に大事なレングストンの侍女達を回す等。」
「………そうだな、私付の侍女達は、レングストンの好意だという事を忘れかけては駄目だな。」
「そうではありませんよ、侍女達が傷付けさせたら、アニース様は心を痛めるでしょうからね、特に身近な侍女達だと。」
「まぁ!私達が侍女を痛め付ける、て言うの!」
ジャミーラは言い返すが、ヘルンはそうではない。
普段から侍女達にしていた事をこの客間でしようとしたのをセシルに知られているからだ。
そのヘルンの顔色を見逃すセシルではない。
「おや、ヘルン姫。身に覚えありそうな顔ですが?」
「……………早くボルゾイの侍女を寄越してよ!」
そう、言うしかなかった。
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