放浪の花嫁【完結】

Lynx🐈‍⬛

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ウィンストン公爵の苦悩

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 王城の客間に押し込まれたジャミーラとヘルン。
 勿論、歓迎されている訳ではない為、以前ヘルンが使用していた調度品が失くなっている客間に入れられて、早速文句を言っている。

「何よ!何でまたこの部屋な訳!調度品足りないじゃない!以前はもっとあったわ!」
「それはヘルン姫が持出したままですから………お持ち頂いた調度品を戻せば直ぐにでも整えましょう。」
「それが、妃候補に対する言い方な訳!」

 ヘルンの文句に返したウィンストン公爵に対し、ジャミーラも応戦する。

「以前も申し上げました。妃候補は第三王女アニース様のみ。サマーン王とレングストン皇帝の密約は、な物ではございません。それをしてまで、ヘルン姫だけでなく、今は未亡人になられたジャミーラ姫迄来られた………我々レングストンからすればあなた方は招かれざる客なのです。今日はあまりにもあなた方の従者方が疲労で倒れた者が続出し、彼らを気の毒に思っただけの事。回復されましたら早々にご帰国願います。」

 ウィンストン公爵は最低限の丁寧な言葉の中に嫌味を入れて頭を下げた。
 ジャミーラやヘルンに何を言っても通じないなら、嫌味尽くしの言葉で苛立ってもらい、不快感を植え付け帰国させてしまえば良い事。
 国交はあるが、レングストンはボルゾイとの国交が無くとも財政に打撃は受けない微々たるものだったからだ。
 その分、アードラや、マリージョが補う程の金が入る。

「ふん!従者等取って捨てる程いるわ!軟弱な従者等要らないのよ!」
「では、その従者達はレングストンに引き取りましょう。それでしたら、姫達は帰れますね。」
「本当にムカつくわね!」
「そうなのよ!コイツ、一国の王女に対して失礼過ぎなのよ!ボルゾイだったら、直ぐに首跳ねてるわ!」
「ヘルン、私が皇太子妃になったら、直ぐにコイツの首落としてやるわ!」
「何言ってんのよ!皇太子妃は私よ!」

 その皇太子妃の実父であるウィンストン公爵の前で、皇太子妃になり変わるつもりでいる事を豪語するジャミーラとヘルン。
 愛娘を悪く言う者を、決して許すウィンストン公爵ではない。

「お口が達者なようですので、後程我が娘、皇太子妃ナターシャが、レングストンや他国の知識、教養、マナー、歴史、文学、レングストンの貴族の顔と名前の絵姿等の勉強をして頂きましょう。それらを全て覚えられるのであれば、この客間からご自由に出て頂いても構いません。勿論、ご自分を妃候補と豪語するなら、さぞレングストンの事をご存知でしょうから簡単かと?」

 ナターシャを幼少期から、皇妃になるべく教育させていたウィンストン公爵。
 長い年月を掛けて教育してきても尚、ナターシャは知識を入れている事も知っている。
 それを、数えるぐらいしかレングストンに滞在しなかった王女に、ナターシャ以上の知識が入るとは思えない。
 ウィンストン公爵の挑発に乗れば、時間稼ぎが出来るのだが、

「誰がやるもんですか!」
「面倒くさいのはやらないわ!」

 案の定、ウィンストン公爵の予想通り嫌がる2人。

「そうですか…………では、ここにはあなた方の侍女は入れておりませんし、そのままあなた方の侍従は開放させて頂きましょう。お疲れでしょうしね。あなた方にはレングストンの侍女も付けませんので、ご自分の事はご自分でなさって下さい。私共は、ボルゾイの侍従達が気の毒ですし、ゆっくり療養して頂きたいですからな。勿論、ご帰国迄、で。」
「冗談じゃないわ!まるで監禁じゃいの!」
「誰が監禁と言いました?私は妃候補になりたいのであれば、今の皇太子妃である我が娘、ナターシャより優れていなければならないのです。その証明をするのに、私共レングストンはあなた方の器量が量りかねますので、証明をして頂きたい。如何せん、あなた方は、罵声や文句、我儘を曝け出すだけで、私共はあなた方の知性や教養は見ておりませんから、今ここでその悪評を一層しやすいようにお手伝いを、と申しているだけです。」
「……………くっ……。」
「余程、自信があるのでしょう?覚える時間も要らないのであれば、そのまま問題を出し、答えて頂いてもいいですよ?」
「だ、誰がやるもんですか……。」

 悔しそうに鬱憤を晴らせる侍女も居ない部屋にジャミーラとヘルンのみの生活で、部屋から出させない気のウィンストン公爵に、今この状況でさえ自由が無いのだ。

「やらねば、世話する侍女も居りませんよ?……………まぁ、従ってくれたら良いのですが、あの侍従達の状態で、してくれる者が居るかどうか………。」

 クスクスとウィンストン公爵はあざ笑うように言葉を発すると、ジャミーラとヘルンは何も言い返せなくなる。

「……………。」
「……………。」

 ジャミーラとヘルンは侍従達を物として扱う事をしていたのは周知である事から、開放された侍従達が指示に従うか等分からない。

「おや?その無言は、真面目に器量を量らせてもらっても良いという返事と捉えますが?」
「…………だ、誰が……。」
「まぁ、時間はありますので、また後程。」

 言いたい事は言ったウィンストン公爵。
 これで帰るなら良し、帰らないなら徹底的に勉強させれば良い。
 皇子達と会わせず、ナターシャとラメイラに会わせずに、三行半を下せばいい。
 ウィンストン公爵は一礼し、客間を後にすると、客間から何か割れた音がした。

「また弁償してもらわねばな……。」
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