放浪の花嫁【完結】

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
上 下
38 / 85

尊敬の捉え方

しおりを挟む

 王城門から、梃子でも動こうとしないジャミーラとヘルン。
 ボルゾイの侍従達もウンザリした顔で、疲れからか何人かが倒れ込んでいるようだ。
 主人であるジャミーラやヘルンは、ピンピンしていて、血色も肌艶も良いのにこの差は何たる事か、と心配になる。

「マズイな………ボルゾイの侍従達の様子は心配だ。」
「父上、如何します?」
「私では判断出来かねる………まさか、頭が無いなりに、コレを見越したのではあるまいな………。」

 ウィンストン公爵とセシル、カイルが侍従達を心配していると、そこにカイルとトーマスがやって来た。

「宰相、お引き取り願えたか?」
「皇太子殿下………いえ………一向に。」
「きゃあ!皇太子殿下よ!私達、ボルゾイからあなたの妃になる為にやって来たんです!それなのに、何故入れて頂けませんの?」

 リュカリオンの姿を見つけるや否や、急に声色を変えたジャミーラ。

「皇太子殿下!私もあなたの事を忘れられません!どうか私を妃に!」

 ジャミーラに引き続き、ヘルンさえも媚びる。

「しつこいな………だが、これでは帰らないだろうし、仕事や公務に差し支える。」
「…………殿下、私に案があるのですが。」
「何だ?」
「陛下の許可も頂かなければなりませんが、一旦、をさせてみては、と………。」
「何だと?」
「講師には、殿下方以外の講師を付け、では妃になれない、と証明させれば良いのです。」
「……………それでは、ナターシャとラメイラの心が休まらないのでは?存在だけでも迷惑なのだぞ?」
「では、娘とラメイラ妃に離宮で静養させれば宜しいかと。」
「ちょっと待て、宰相!それは反対だ!」
「俺も反対………ラメイラと離れるのは堪えられん!只でさえアードラから帰ったばかりで…………。」
「俺だってそうだ!今悪阻で苦しんでいるのに。」

 ウィンストン公爵とカイル、トーマスが揉め始める。

「離宮に行かなくても良いのでは?」
「セシル?」

 セシルはウィンストン公爵の案を聞き、賛同するかの様に付け加えた。

「父の言う通り、食事や睡眠以外、暇なく勉強させれば良いんですよ、2人同時に。客間に押し込んでおいて、妃にはなれない、と言い放てば良い。ナターシャもラメイラ妃も今迄通りに過ごせる筈です。アニース姫とアリシア王女は今迄同様、殿下方からの勉強もそのまま出来ると思いますよ。」

 リュカリオンは門兵の向こうに居るジャミーラやヘルンの声を一切無視し、顎に手を当て考え込む。

「なるほどね………トーマス、父上に知らせて来てくれないか、それで了承を得たら、ジャミーラ姫とヘルン姫を客間に押し込もう。タイタス。」
「リュカ兄上、何だ?」
「お前は、ボルゾイの侍従達の体調が悪くなっている者達を、部下を使って医者に診せてやってくれ。流石に、彼らがかわいそうだ。」
「分かった。」
「兄上は宰相の案に乗るんだな?」
「自由にはさせるつもりはないぞ?トーマスだって、ラメイラの心配は俺以上だと思うしな。」

 リュカリオンの指示の元、トーマスは皇帝の執務室へ戻り、タイタスは部下に指示をし、ボルゾイの侍従達の手当をしに動こうとする。

「タイタス………あの、先程はありがとう。嬉しかったよ。」
「アニースは気にしなくていい。俺が許せなかっただけだ。義理とはいえ、姉に言われていい言葉じゃない。俺は、リュカ兄上もトーマス兄上も尊敬してやまないが、兄上達は俺にあんな事は言った事もないしね。」
「私だって、あなた達兄弟は尊敬する方達だよ。それに、私は彼女達には負けない自信をレングストンで付けたんだ。妃候補は譲らないし、尊敬するナターシャやラメイラの場を守ってみせるよ。」
「ははは………頼もしいな。一緒に頑張ろうぜ。」
「勿論!」

 アニースとタイタスの会話は戦友のような会話ではあったが、いいコンビだと見ていたリュカリオンは思った。

「なかなかお似合いですね、タイタス殿下とアニース姫。」
「そうだな………ナターシャとはだいぶタイプは違うが、アニースはタイタスを上手く扱えそうだ。タイタスが欲しいだろう言葉を掛けてる。」
「そのようですな。」

 リュカリオンとウィンストン公爵の会話は、アニースとタイタスには聞こえていない。
 ジャミーラとヘルンの声の方が大きかったからだ。

「宰相、あの姫達の対応、任せてしまってもいいか?私が言うのも構わないのだが、話が噛み合わないし、近くに寄りたくもない。」
「大丈夫です。私も殿下方をあの姫達に近付かせたくありませんから、私と息子達にお任を。」
「…………げっ!」
「………カイル………。」
「カイルは嫌そうだな………はははっ!」

 ウィンストン公爵は息子達を巻き込み、自分も極力相手にしたくないのが、その息子2人も分かるので、引き込まれたカイルがポーカーフェイスも作らずに嫌そうな顔を見せたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる

花草青依
恋愛
"氷の令嬢"と揶揄されているイザベラは学園の卒業パーティで婚約者から婚約破棄を言い渡された。それを受け入れて帰ろうとした矢先、エドワード王太子からの求婚を受ける。エドワードに対して関心を持っていなかったイザベラだが、彼の恋人として振る舞ううちに、イザベラは少しずつ変わっていく。/拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』と同じ世界の話ですが、続編ではないです。王道の恋愛物(のつもり)/第17回恋愛小説大賞にエントリーしています/番外編連載中

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない

かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」 婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。 もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。 ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。 想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。 記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…? 不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。 12/11追記 書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。 たくさんお読みいただきありがとうございました!

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

ヒヨクレンリ

なかゆんきなこ
恋愛
二十八歳独身。オタクで腐女子の峰岸千鶴はある日突然親にセッティングされた見合いで一人の男性と出会う。それが、イケメン眼鏡の和風男子・柏木正宗さん。なんでこんなリア充が見合なんか……!! 驚愕する千鶴だったが、とんとん拍子に話は進んで……。見合い結婚したオタク女と無口眼鏡男の、意外にらぶらぶな結婚生活の物語。サブタイトルは、お題サイト『TV』様(http://yadorigi1007.web.fc2.com/)のお題を使わせていただきました。※書籍掲載分を取り下げております。書籍版では(一部を除き)お題タイトルをサブタイトルとして使わせていただいております。その旨、お題サイト管理人様にはお許しをいただいております。※

処理中です...