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アニースの知り合い
しおりを挟む何度か、馬車の主の仕事を手伝ったアニースとタイタス。
「あんちゃん、俺の仕事手伝わねぇか?」
「そうしたいが、俺にも仕事があるんだよ。今日は休みであそこに居ただけだし。」
「そうか、そうだよな………そんな美人な彼女居たらデートだよな………本当助かったよ、早く仕事も終わりそうだ………ほらよ、大聖堂に着いたぜ。」
「俺達も助かったよ。これチップ、受け取ってくれ。」
「いやぁ、いいよ、久々に仕事も楽しかったからな。」
「いや、受け取ってくれ、これで馬の餌でもやってほしい。」
あくまでも、馬車代と言い張るタイタスに男は折れて受け取る。
「仕方ないな、有難く受け取っておくよ。ねぇちゃん、いい男捕まえたな、離すなよ!」
「!!」
「おいおい………俺のが努力要るんだよ、愛想つかされないようにしなきゃならないんだからな!」
「若いねぇ、幸せにしてやりなよ、あんちゃん。」
言いたい事だけ言って、馬車主の男は行ってしまった。
「アニース、何処にある?」
「…………。」
「アニース?如何した?」
「!!………あ、ごめん……何て言った?」
「店に行くんだろ?」
「あ、うん。…………ここからなら分かるから……あ、こっちだ。」
普段から大聖堂の人混みは凄い。
最近は特に賑わっている。
「凄いな、今日の大聖堂の周辺。」
「こらこら、走ったら危ないよ、迷子になるから!」
「だって、お母さん、大聖堂に入るんでしょ?皇太子妃様とラメイラ妃へのお祈りに。」
すれ違い様に、母娘が話ていた。
そう、ナターシャとラメイラが無事に出産出来るように、祈りに来る国民が居たからだった。
「そっか、お祈りか。」
「また叔父さんになるよ………。」
「ヴィオも可愛いからいいじゃないか。」
「…………まぁな………あれ?アニース?」
「…………ここっ!………人の流れに……ふぅ……。」
「逆方向に歩いてるからな………ほら、手。」
「え?」
「迷子防止。」
「…………なっ!」
「…………。」
手を繋ごうと提案したタイタスだが、顔が赤い。
タイタスも先程の馬車主の男から言われた事を意識したのだろうか。
アニースは緊張しながらタイタスと手を繋ぐ。
汗をかく季節ではないが、汗ばんでいくような感覚に陥った。
手から、お互いの温もりを感じながら、アニースが行きたかった店に着いた。
「ここだ。」
「何の店だ?」
「チョコレートの店。以前短期だが働かせてもらってた。ナターシャが好きな店だったらしい。今は懐妊しているから、ナターシャにチョコは無理だとは思うが、チョコ以外にも焼き菓子も売ってるから買って帰ろうかと思って。」
「…………アニース?……やっぱりアニースだ!旦那さん!!アニースですよ!」
「ミランダ!久しぶりだな!」
アニースの知り合いの女性が店の外から出てきたなのをきっかけに、アニースはタイタスの手を離す。
何故か、タイタスにはそれを寂しく思えてしまった。
「………………。」
「アニース、まだ王都に居たのなら、まだここで働けば良かったんじゃない?」
「一旦離れてアードラ迄行ったんだよ。レングストンの王都に戻ったのは半年ぐらい前かな。」
「…………ね、ねぇ、あんたのいい人?彼。紹介しなさいよ!いい男ね。あんた美人だからいい男寄ってくるよねぇ。」
ミランダがアニースの後ろに居るタイタスを見て、ここでも恋人同士だと思われる。
「あ、あぁ………今お世話になっている邸の方だ。」
「なぁに、アニース。貴族の邸で働いてるの?」
「まぁ、そんな所だ。」
「アニース!!元気だったか!………さぁ、入れ今日は久しぶりに会えたから、奢ってやる、さぁ連れの人も。」
店主の声で何とか根掘り葉掘り聞かれる事なく店に入れて安堵したアニース。
普段から賑わう店ではあるのだが、アニース達が入った時間は混み合う時間とズレていた。
「しまった………ミランダが居た日だったのか……。」
「如何したんだ?」
「彼女………おしゃべりで………大丈夫なのかな?タイタスお忍びだし。」
「俺がこういう店知ってると思うか?たいていは大衆食堂的な店でしか食事しないよ。」
「根掘り葉掘り聞かれるのはマズイだろ?」
「それはな。貴族の邸勤めはあながち間違ってはいないけど、俺も同僚、て事にしとくか。」
水が運ばれて来てから、タイタスはその水を飲む。
注文もアニースが好きな物を頼み、タイタスもアニース以上のケーキを頼んでいる。
どうやら、タイタスは甘党らしい。
「お待たせ、アニース。」
「ありがとう、ミランダ。」
「こんなに食べれるの?凄い量だけど……。」
「私は一つだけだ!後は彼が食べる。」
「す、凄いわね。それより早く紹介してよ!」
「あ、あぁ………。」
アニースはタイタスに目線を送ると、タイタスは口を開いた。
「アニースの同僚でタイタスと言う。今日はお互い非番でね。アニースが世話をしている主に土産を、と言うので付き添ったんだ。」
「タイタスさん、かっこいいですね。今度タイタスさんのお友達紹介してもらえませんか?」
「ミランダ、初対面でお願いする事じゃない!」
「いいじゃないよ~。」
「アニース、これ美味い…………ほら、食べて。」
タイタスはこれ以上、ミランダから言われたくないのか、自分が食べているケーキを一口大に掬い、アニースの口元に持っていく。
「タ、タ、タイタス………。」
「ほら、落ちる。」
「………………美味しい……。」
「……………一生やってなさいよ!アニース、結婚式には呼びなさい!祝ってあげるから!」
目のやり場に困ったミランダは、タイタスへのお願いを忘れ、仕事に戻って行った。
「………そんな事もやる人だったのか?タイタス。」
「いや、初めてやった…………彼女が鬱陶しかったからな。」
パクパクと次から次へケーキを口に運ぶ。
間接キスをしたフォークで……。
「………………。」
思い出すと顔が火照る。
アニースは食べたケーキは味さえ分からなかった。
アニースは自分の事で手一杯で気付く事はない。
タイタスもまた顔が火照り、耳が赤かったのを。
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