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街中デート
しおりを挟む貴族街を馬車で移動する。
カーテンで外は見えない。
アニースは外を見たくてカーテンを少し捲ってしまった。
「外見たい?」
「あ………いや……。」
「ごめん、お忍びだから我慢してくれる?」
「そっか………仕方ないな。」
「それと、名前なんだが、呼び捨てで呼んで欲しい………街中で『殿下』は流石に……。」
「そうだな、では私もアニース、と。」
タイタスが視察に行く時はたいてい1人だそうで、アニースはそれにも驚いた。
「何故、今迄誰も連れて行かなかったんだ?」
「俺には友人と言える者も居ないからな……皇子だから、と傍に来る者達は、畏まるだろ?だから、身分隠して街中に出てみたら、どうなるんだろう、て1人で歩いてても誰も知らないんだよ、俺の事なんて。」
「…………。」
「それがまた楽しくてさ。王宮だけだと自由がないな、と………それで、一人旅してきたアニースもそういうのが分かるかな、とね。」
「……………何となく、被るな………そういうの………でも、私は好きで旅をしていた訳ではないからな?義兄姉達から逃げたかっただけだ。それでもいい事と悪い事も沢山あって、いろいろな人と会った………安住出来る街を求めて3年………ウィンストン公爵に助けて貰わなかったら、まだ私も旅を続けていたかもしれない。だが、今レングストンに居て、今幸せだと旅で大変な生活をしている人達はどうしているんだろう、と思うよ。」
「…………レングストンは裕福と言われるが、全ての人がそうではないからな。治安もいい街ばかりでもないし……。」
ガタン。
「貴族街の入り口に着きました。」
馬車が止まり、馬車を降りた2人。
「夕方迄には戻る。」
「お気を付けて。」
「護衛付けないのか?」
「付けたら、俺が身分ある者だと分かってしまう。それに俺は軍の中では負けた事はないんだ。」
「それで剣を持ってきたのか。」
「使う事がない方がいいけどね。」
2人で街中を歩き進める。
アニースは旅の途中、暫く王都に滞在していた事はあるものの、遊ぶ事はなくいろいろな仕事をしながらその日暮らしをしていただけだった。
物珍しい物を見る度に、タイタスはそれに気付き説明を付けていく。
「アニース、歩き回って疲れたろ?腹も減ってきたし、何か食べないか?」
「あ!じゃあ行きたい店がある!」
「行きたい店?」
「あ、でも場所……この辺りは知らなくて……あの大聖堂迄行けば分かるかな。」
「ちょっと距離あるが…………。」
タイタスが急にキョロキョロし始め、馬車で荷を卸していた男に声を掛けた。
「お~い、大聖堂の方にも行ったりするか?」
「え?行くが如何したんだ、あんた。」
「チップ渡すし、その間に荷を卸しす場所があるなら手伝うんで、俺と彼女乗せてくれないか?乗るのは荷台でいい。」
「いいが、これ重いぞ?小麦だし。」
「力仕事は慣れてる、任せてくれ。」
「じゃあ頼むよ、あんちゃん………ほら、そこの彼女も乗りな、あんたは前に乗りなよ、綺麗な服が汚れちまう。」
「………私も荷台でいいよ、その方が楽しそうだし。」
タイタスが気さくに見知らぬ男に話し掛け、仕事を手伝う代わりに乗せてもらうように交渉しているだけで、アニースは心を踊らせた。
こんな、楽しい事は経験しなければ、と思う。
「いいのかい?…………あぁ、彼氏と離れたくないんだな………クククッ。」
「か!………彼氏って……。」
「良かった、俺も彼女を隣に座らせたくなかったから、座る、て言ったら如何しようかと思った。」
「タイタス!!あなた迄!!」
「ほら、アニース乗るぞ。」
「!!」
荷台が高いので、飛び乗るしかないか、と思ったアニースだが、タイタスに抱き抱えられ、荷台の後ろに座らせた。
そして、タイタスは自分で飛び乗り、アニースの横に座った。
「乗ったな、動くぞ。」
「宜しく頼む。」
「…………。」
アニースは、タイタスに女扱いされた事にドキドキしていた。
タイタスが軽くアニースを持ち上げたのにも驚いたのだが、勉強の時のタイタスしか知らなかった為に、この日の屈託無く笑う楽しそうなタイタスを見た為に、アニースは緊張してきてしまった。
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