放浪の花嫁【完結】

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
上 下
21 / 85

賠償請求

しおりを挟む

 ヘルンが帰国した事は、レングストン王宮内で平和が訪れた。
 客間の調度品に関してはセシルからウィンストン公爵、ヘルンが使った客間を清掃した侍女の間での話に一旦留めるに至った。
 セシルがヘルン達の使った部屋に行くと、皇帝とリュカリオンからの通達の手紙は開封もされず破られ床に捨てられていた。

「開封もせず……か……どうします?父上。」
「そのまま、陛下にお見せするだけだ。調度品は勿論その対価は請求する。余りにも王女としての品位も教養も無い娘には、サマーン王に伝えなければな。」

 セシルがウィンストン公爵と、散らかされた客間にウンザリする程の溜息を漏らしながら会話をする。
 王城は宿屋ではないのだ。

「しかし、サマーン王にヘルン姫を咎める事が出来るのでしょうか?」
「出来なかったら、賠償責任として国交をレングストン有利にするだけだ。陛下なら……いや、皇太子殿下ならご納得されるだろう。」
「…………リュカ殿下はかなりお怒りですからね。」
「しかし、セシル………。」
「はい。」
「良くやった。」
「ヘルン姫を帰した事ですか?」
「そうだ。あの姫はレングストンの未来に必要ないからな。」

 レングストン皇国の宰相であるウィンストン公爵は、王族に害を及ぼす者は許さない。
 愚かな王族でないレングストン皇国の皇帝や皇子達に忠義を示しているウィンストン公爵を見ている2人の息子もまた同様なのだ。
 戦争も内乱も無く、国として成り立つレングストンを長く支えてきた自負により出来た、王族からの信頼されているからこそだった。

「リュカ殿下からボルゾイを探れ、と言われていますが、父上はご存知ですか?」
「勿論だ。セシルが行く迄もない、指示は出してある。」
「必要であれば私も探りに行きますが?」
「皇太子殿下はお忙しい方だ………補佐はお前でなければ務まらない。腕の良い者を行かせる。お前は指示をレングストンから出しなさい。」
「父上がそれで良いなら。」

 ウィンストン公爵は溜息混じりで、セシルにぼやく。

「それとな………少し気になる事が連絡あったのでな……。」
「何です?」
「第一王女だった、ジャミーラ姫が未亡人になり、出戻ったらしい。」
「あの、ヘルン姫に負けず劣らずの我儘な第一王女が!?」
「かなり、歳の離れた夫だったらしい。財産だけ受け取り、今は王宮内に居るそうだ。」
「ヘルン姫が帰ったらまたボルゾイでひと悶着ありそうですね。」
「あるだろうな…………査定は終わったか?」

 何が失くなっているかを調べさせていたウィンストン公爵は、リスト化したメモを、侍女達から手渡される。

「はい。こちらになります、宰相様。」
「………うむ…………また高級なものばかり……では、コレは陛下と皇太子殿下に意見を頂き、請求させてもらおうとしようか。セシルも仕事に戻りなさい。」
「はい。そうします。」
「お前達も掃除が残っていよう、ここは暫く使用禁止にするが、片付けを頼む。」
「畏まりました。」

 ウィンストン公爵とセシルは客間に王宮で働く侍女達を残し、それぞれの執務室に戻った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる

花草青依
恋愛
"氷の令嬢"と揶揄されているイザベラは学園の卒業パーティで婚約者から婚約破棄を言い渡された。それを受け入れて帰ろうとした矢先、エドワード王太子からの求婚を受ける。エドワードに対して関心を持っていなかったイザベラだが、彼の恋人として振る舞ううちに、イザベラは少しずつ変わっていく。/拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』と同じ世界の話ですが、続編ではないです。王道の恋愛物(のつもり)/第17回恋愛小説大賞にエントリーしています/番外編連載中

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】貴方の傍に幸せがないのなら

なか
恋愛
「みすぼらしいな……」  戦地に向かった騎士でもある夫––ルーベル。  彼の帰りを待ち続けた私––ナディアだが、帰還した彼が発した言葉はその一言だった。  彼を支えるために、寝る間も惜しんで働き続けた三年。  望むままに支援金を送って、自らの生活さえ切り崩してでも支えてきたのは……また彼に会うためだったのに。  なのに、なのに貴方は……私を遠ざけるだけではなく。  妻帯者でありながら、この王国の姫と逢瀬を交わし、彼女を愛していた。  そこにはもう、私の居場所はない。  なら、それならば。  貴方の傍に幸せがないのなら、私の選択はただ一つだ。        ◇◇◇◇◇◇  設定ゆるめです。  よろしければ、読んでくださると嬉しいです。

処理中です...