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屈辱的なダンス
しおりを挟む一方その玉座。
皇帝と皇妃が並ぶ横で、来賓達の相手をしているリュカリオンとナターシャ。
「皇帝も安泰ですな、皇太子殿下が立派な方に成長され、お世継ぎもご誕生されたとか。」
「私はいつでも退位してもいいと思っておりますよ。」
「………陛下、私はまだ若輩者ですから、まだまだご指導して頂かないと。」
「第二皇子殿下もご結婚されましたからな、サポートもあり、皇太子殿下の御代も栄えますな。」
「ありがとうございます、弟は私の左腕………結婚して落ち着いたとしても、近隣諸国の安泰なくして、私はまだ安心は出来ませんよ。そうですよね、陛下。」
「何、それは皇太子の右腕が、私の右腕の息子だ。私は心配はしておらん。なぁ、宰相。」
皇帝は、自分の後ろに控えるウィンストン公爵に振り返る。
「勿体無いお言葉でございます、陛下。」
「レングストンの宰相のお話は、我が国にも届いておりますよ。何故我が国はウィンストン公爵のような者が居らぬのか、と王から何度言われた事か。私も肩身が狭い……一度その話をウィンストン公爵とお話したいものですわ。」
そんな話を玉座でしながら、ボルゾイの挨拶がやって来た。
目の前には、ボルゾイの盛装を着る第一王子アラムと、またも妖艶な姿なだけの第二王女ヘルン。
明らかに盛装ではないようなのが分かる。
同じ様な服のアニースを見た来賓は、アニースとヘルンを見比べていたからだ。
印象はアニースの方が良い。
「まぁ、あのお姿………ボルゾイの盛装なのかしら?」
「でもあちらの方は、肌の露出はあるけれど、品があるわよ?」
淑女達はヘルンの姿に嫌悪感を見せている。
男達はヘルンの装いに釘付けだ。
「男達は、ヘルンの外見だけしか見てないから、ヘルンや義姉妹達が付け上がるんだ。見苦しい………。」
「良いではないですか、それでヘルン姫が満足なら、上辺だけに魅了された男の元に嫁いだ所で幸せにはならないんですから。」
「そんなにヘルンの図太さは細くないぞ?優雅な暮らしが出来るなら、どんな事でもしそうだしな。アラムとヘルン、第一王女ジャミーラの母親はそんな女だ。ジャミーラもレングストンに来なかっただけ、私はまだ気が楽だが。」
「確か、ジャミーラ姫はボルゾイの大富豪に嫁いだとか……30歳程年上の男と。」
「…………あぁ、ジャミーラなら選びそうな相手だな。」
アニースはセシルの話を聞いただけでもうんざりしていた。
そんな姉妹の居るアニースが、染まらなかっただけで有り難い。
アニースが玉座を見ると、ヘルンは媚びる様な目でリュカリオンだけを見ていた。
アラムが、ヘルンに話を振るのは、妃候補の話ばかりで、レングストン側はポーカーフェイスを貫いている。
「………ですから、正式な手順でヘルンをレングストンに留めさせて頂こうと思っておりますが、如何でしょう。」
「来賓として暫くお休みなさるのは許可致しましょう。第二皇子がトリスタン公国、ラメイラ公女と婚姻を結び、更なる強固の国交を固めた後、次の皇子妃を考えておりますので。」
「トリスタンとの国交を固めながら、ボルゾイとの国交も固められるかと思いますが?何せ、レングストンには優秀な方々がおみえですし。」
アラムもチラチラとリュカリオンを見ているのだが、リュカリオンはヘルンの目線を嫌がり、ナターシャとコソコソと話をしていた。
恐らく、イチャイチャぶりを見せびらかして、ヘルンの入る隙は無いのだ、と言いたいのだろう。
ナターシャもそれを分かるのか、リュカリオンを嫌がらず寧ろ、寄り添う姿を見せつける事により、他の来賓達は一層微笑ましく見ていたのだ。
「皇太子殿下と皇太子妃殿下は、本当に仲睦まじいですな。」
「本当に羨ましい、美男美女ですこと。」
「…………くっ…………皇太子殿下!わたくしと1曲躍って頂けませんか!?」
ヘルンがリュカリオンとナターシャとの仲を苦し紛れに裂き、離そうと懇願する。
レングストンで女性が男性をダンスに誘うのは無礼な事とされている。
淑女らしく、控えめな女性がモテるのだ。
それさえも知らない無知なヘルンにリュカリオンは苦笑いする。
何か言おうとリュカリオンは息を吸うが、先にアラムが口を開く。
「それはいい!皇太子殿下、是非ヘルンと1曲と言わず好きなだけ躍って下さい!」
アラムもレングストンの風習は無知のようだ。
「皇太子………。」
「…………ふぅ……では1曲だけ……ナターシャ、後で私達も踊ろうか。」
リュカリオンは溜息を付き、仕方ないという意味を含め言い放った後、ナターシャの手の甲にキスを落とした。
「はい、殿下。楽しみにしておりますわ。行ってらっしゃいませ。」
ナターシャは満面の笑みで見守るが、それを玉座から離れた場所で見ていたセシルは、ナターシャの表情を読み取る。
「かなり怒ってるな、ナターシャ。」
「………そうなのか?」
「えぇ、かなり………リュカ殿下はナターシャを癒やす為に、明日は寝不足でしょうね。」
「?」
その意味は、アニースには分からなかったが、セシルが嘘を付くようには見えないので、敢えて聞き直す事はなかった。
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