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突き付けられた国婚
しおりを挟むアニースがアリシアと王宮に戻ると、精神的な疲れにより、目眩がした。
だが、それはこれから起こる序長にすぎない。
皇女宮で身体を休めていると、セシルが会いに来た。
「申し訳ありません、アニース様。」
「……いや、私の方こそ先程はありがとう。ウィンストン家には助けられてばかりだ。」
「本当に助けられているのかは分かりませんが、アニース様もお気を強くお持ち下さいますよう。」
「……アラム達は、素直に帰るのだろうか。」
「無理でしょう………なので、アニース様は常に毅然とした態度でヘルン姫とは立場が違うのだ、という振る舞いをお願いしたいのです。」
「分かった。私も強くいよう。」
「それで、アラム王子とヘルン王女が陛下に夜会で謁見を求めておりまして、アニース様も同席させろ、と。」
「…………会いたくないが仕方ないな………すまないが、ボルゾイの服に着替えさせてくれ。」
「では、夜会の時間になりましたらお迎えに参ります。」
アニースは下品にならないよう、品のある色合いの服とヴェールに身を包む。
父の国王が母に、と贈った黒曜石のカチューシャ、ブレスレット、ネックレス、ピアスを着け着飾った。
「まぁ………アニース様………素敵です。」
「そうか?……私は踊り子だった母に瓜ふたつなんだそうだ。その母は決して男に媚びず、露出する服は着なかった。品を落とす、と言ってな………私の義姉妹は、品を落としてでも、露出する衣装で男を落とそうとするのが許せない。それで落ちる男ばかりボルゾイに居るのだ。」
「アニース様の装いは、下品では決してありません。」
「ありがとう。」
皇女宮に迎えに来たセシルは、アニースを見て満足そうな顔をする。
「アニース様、流石です。ボルゾイ国内で絶世の美女と言われただけあります。」
「褒めても何も出ないぞ?セシル。」
「要りませんよ。」
セシルの案内で王城の大広間にやって来たアニース。
華やかに着飾ったレングストンの貴族を始め、各国の来賓が既に楽しんでいた。
「私が、お側に居りますので。」
「助かる。こういう夜会は初めてだから、よく分からない。」
「あちらに、ボルゾイの方々がおみえですね。」
「無視するよ、私からは話す事はないからな。」
「皇太子リュカリオン殿下、皇太子妃ナターシャ殿下ご入場でございます!」
ざわざわとした会場が静まり返る。
リュカリオンにエスコートされたナターシャは、清楚でシンプルなクリーム色のドレスで登場した。
この日の主役は皇太子夫妻ではない。
夜会には参加しないトーマスとラメイラだ。
落ち着いた色、落ち着いた立ち居振る舞いで、美しい若い夫婦に目を奪われる来賓達。
「本当に美しいな、あなたの妹は。」
「恐れ入ります。」
「第三皇子タイタス殿下、第四皇子コリン殿下、ご入場でございます!」
同じように入場を知らせる掛け声と共に、タイタスとコリンも入ってくる。
王族だからなのか、14歳にまだ満たないコリンは夜会には参加出来るようだ。
アニースはタイタスを眺める。
(…………結婚するなら、タイタス殿下なのだな……。)
だが今は結婚相手よりもヘルンが気になって結婚等考えていられないアニースだった。
「皇帝陛下、皇妃陛下、ご入場でございます!」
皇帝と皇妃の入場があり夜会は始まる。
アニースは壁の華になり、夜会の雰囲気を見ていた。
次々と皇帝や皇妃に挨拶を行く来賓達。
レングストンの主なる貴族達は、それぞれ話こんでいる。
「ウィンストン公爵は常に皇帝の傍に居るのだな。」
「今日は特別ですよ。何せ、ボルゾイで厄介な方が居りますし、皇帝陛下の代わりに憎しみ役をかって出るかと。皇太子殿下も妹のナターシャも皇帝陛下の傍に控えてらっしゃいますからね。」
「見ておかなければな。」
「この場所からですか?近くでご覧になられたら?」
玉座よりかなり離れた場所にいたアニースは首を振る。
「いや、見渡せる場所の方が全体が見える。」
「…………ボルゾイで冷遇された方でなければ、王位に立てれたかもしれないのに……。」
「ん?何か言ったか?」
セシルが小声でボヤくがアニースには聞き取れなかった。
「いえ、こちらの事です。」
セシルはアニースの器質を確認出来た。
だからだろう、ボルゾイの王サマーンはアニースを守りたかったのだ、と。
玉座を真っ直ぐ眺めるアニースを見て喜びを感じたのだった。
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