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しおりを挟むざわざわとした大聖堂ではあったが、より一層ザワ付く一行が大聖堂に入って来た。
見るからにボルゾイの衣装の男2人。
「つっ…………ア、アラム………。」
アニースは思わず呟く。
その声はアリシアには聞こえたようだが、アラムには聞こえていないようだ。
だが、顔を反らし、視界に入らないように出来るだけ俯いたアニース。
そして、その後ろからボルゾイの1人の女。
妖艶な衣装を着るその女は、男に挟まれながら歩いて来る。
(…………相変わらず、下品な……。)
「皇太子殿下はどちらかしら?ご挨拶したいわ。」
「ヘルン、後程話す機会もあろう、とにかくお前は大人しくしてるんだ。」
「あら、何故?レングストンに嫁ぐ為なら何でもするわ。」
小声で話してはいるが、アニースの前の席に案内され通り過ぎた際に聞こえてしまう。
恐らく、アリシアやアニースの近くに参列した者達には聞こえている。
レングストンの貴族の参列場所ではないだけマシだった。
「母上の正式な書簡がある。レングストン皇帝も無下にはしない筈だ。あれだけ反対した父上の御代ももう終わる。そうしたらお前がやりたいだけやればいい。」
「ジャミーラや妹達来ないようにしてよ?私が皇太子妃になったら、ジャミーラは離縁してまで来そうだもの。」
「まだ皇太子妃の座を狙うのか?あれだけ愛妻家だと噂がある皇太子なんだぞ?」
「当然でしょ。私の魅力に気付けば、私が皇太子妃になれるわよ。」
「第三皇子もなかなかの美形だぞ?」
「嫌よ、皇太子妃になって、皇妃になりたいんだから私は。」
ヘルンは、リュカリオンとナターシャの間に割って入る気なのだろうか。
アニースは、ナターシャの人柄とウィンストン公爵家への恩返しで、ヘルンの言葉が許せない。
既に前に居るナターシャに知らせたい。
そう思ったら、いても立ってもいられなかった。
しかし、結婚式が始まってしまう。
今ここでどうする事も出来ない。
「それにしても凄いわね、レングストン。嫁げば豪遊出来るわ。」
「黙りなさいよ、ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ…………厳かな教会で下賤な言葉並べて……。」
アリシアがヘルンに突っ込んだ。
ヘルンが振り向く。
キョロキョロはしているが、誰が話をしたか分からないらしい。
「誰よ!今言ったの!!」
「おい、ヘルン止めろ。」
「お兄様、今明らかに私は馬鹿にされたのよ!」
「お前が言われる事を言うからだ。」
「当たり前の事を言ったまでだわ!」
「失礼、式が始まりますからお静かにお願い致します。」
エスカレートしそうであった為、衛兵がヘルンに声を掛けた止めさせた。
アニースはホッと肩を撫で下ろす。
(…………頼むからこれ以上、ボルゾイの恥を晒さないでくれ、ヘルン。)
式が始まり、トーマスが祭壇前に待機し、ラメイラが父のトリスタン王のエスコートで入場してきた。
その間もブツブツと小声で兄のアラムと話しているヘルン。
(………流石に声を落としたか……。)
式が始まる前に話していた声量ではないものの、時々聞こえる下品な言葉。
あのヘルンの話声をラメイラやトーマスが聞かなければ、と願う。
「アレが第二皇子妃?…………ふっ。」
「!!」
(………どうして、あの女は見下す事しかしないんだ!ジャミーラも居たら………多分もっと酷い……。)
しかし、ラメイラは目の前のトーマスに夢中で聞こえていなかったようだ。
(………聞こえてなくて良かった。)
早く終わって欲しいとも思ってしまう。
厳かに進む式の最中でさえ、会話が止まる事のないヘルンとアラムに苛立つアニース。
そして退場の場で、ラメイラはナターシャを見つけると、嬉しそうに手を振ったのを見ると、再び鼻で笑ったのが見えた。
「!!」
(………ヘルン!!)
「アレが皇太子妃?大した事ないわね。」
「………いくら綺麗でも性格悪い女は皇子殿下に相手されねぇぞ。」
「!!」
ヤジが飛ぶ。
腹が立ったのだろうアリシアが声色を変え、男の子っぽく言ったのだ。
「誰よ!!」
「こら、ヘルン!今は我慢しろ!」
「お兄様!侮辱されたのよ!私は!」
「…………お前……いい加減にしろ。」
「ヘルン様…………ヘルン様以上の美女等居りません、ですがここはボルゾイではないのですよ、お言葉はお控え下さい。」
(………注意するなら、早く注意しろよ!)
そう考えていると、ラメイラとトーマスがアニースの近くを通る。
目が合い、苛立つ中でも精一杯の拍手と笑顔をラメイラとトーマスに向けたアニース。
大聖堂からラメイラとトーマスが退場し、これからパレードに行くだろう。
アリシアがアニースに駆け寄って来る。
「お姉様!」
「あぁ、アリシア。」
ヘルンが近くに居るので、名前は言わないで近寄るアリシア。
「素敵な式でしたね。」
「あぁ、ラメイラ綺麗だったな。」
「わたくしも祝福される結婚式したいなぁ。」
「アリシアなら大丈夫だろう。」
「…………だといいですけど。」
アニースは、アリシアの頭を撫でた。
慰めるようなその手は、アリシアの不安を全部でなくとも溶かしていく。
「そうだわ、お姉様早く王宮に戻りましょう!こうしては居られないわ。」
「アリシア?」
アリシアにアニースの腕を引っ張られ、早く馬車に乗ろうとしているのか大聖堂の入口を目指す。
しかし、大勢の貴族や来賓が大聖堂に居るのだ。
警備兵の誘導に従わなければならなかったりする。
アニース達の近くに居たボルゾイの王族達も、同じ様に待っている。
結婚式に参列した者達の中で、国外からや王都に邸が無い貴族達は王城の客間に宿泊する事になっていて、その者達に夜会も開かれる。
「お姉様、今日は夜会出席されます?」
「私は出ないな………遊ぶ暇があるなら、勉強しなければ……皇子達から教えて頂いた事を理解出来ているとは思ってないのでな。」
「わたくしもご一緒していいですか?レングストンでは14歳にならないと夜会に出れないので。」
「そうなのか?」
「つまらないんですよね、アードラでは夜会で人間観察するのが好きだったのに。」
ざわざわとした状態なので、普通にアリシアと話をしていアニース。
だが、レングストンでは珍しくない銀髪のふわふわしたアリシアと、レングストンでは珍しい赤茶の髪のアニースは目立っていた。
それがボルゾイから来た、アラムとヘルンの視界に入った。
「お兄様!!あれ!見て!!」
「何だ?ヘルン。」
「アニースよ!!あれ!」
「!!何だと!!」
その声で条件反射的にアニースは振り向いてしまうのだった。
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