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放浪姫、妃候補に
しおりを挟む城内はまだザワついている。
朝からウィンストン公爵家の男達が慌てているからだった。
客間に通された人物の申し出に、皇帝と皇妃の予定を狂わされる羽目になったのだ。
「申し訳ありません、陛下。」
「何を謝る、宰相。………アニース姫が其方とカイルに感謝を言いに来た序であろう?私としてはボルゾイへの約束が果たせると言うもの………。アニース姫が皇子の妃を望むなら、それもまた良し。」
「しかし、ボルゾイからは、アニース姫の保護を願いでたい、という話だけ、妃候補とは違いますが………。」
「第二王女、ヘルン姫であろう?」
「はい。」
「…………アニース姫の話を聞いてから決めてからでも遅くない。歳もヘルン姫と同じ歳、『放浪姫』………なかなか面白い。」
皇帝が謁見の間に到着すると、リュカリオンも連絡を受け、既に待っていた。
「父上、おはようございます。」
「リュカ、早かったな。」
「『放浪姫』が気になりましてね。セシルから聞いて直ぐに来ましたよ。」
「アニース姫は?」
「セシルとカイルがお相手を………そして、陛下、カイルの事で後程お話が……。」
「…………カイル?……分かった。後で聞こう。」
リュカリオンはその様子を黙って見ていただけだった。
暫くすると、アニースを連れたセシルとカイルがやって来る。
その直ぐ後に皇妃も到着し、皇帝の横に座った。
「陛下、遅くなりました。」
「急であったからな。」
皇帝は労うように、皇妃に返答をすると、アニースを見つめた。
「アニース姫……遠路ご苦労でしたな。アードラで囚われているという情報を聞き、救出せよ、とカイルに命じたのは私だ。」
「さようでしたか、それはありがたかったです。あのままだと、無理矢理あの男に侵されるところでした。カイルに夢中のようだったので、その点でも助かったと思います。」
「ブっ!!」
アニースが、カイルの話をしたので、カイルは思わず吹いた。
ウィンストン公爵とセシルはカイルを無言で睨む。
「…………。」
「……………。」
「し、失礼しました。」
「アニース姫の要望は伺っておる。其方に侍女を付け、皇女宮で本日から休まれるがよい。其方を皇子の妃候補にするかは、直ぐには返答は出来ぬので、暫く待ってもらってよいか?」
「勿論です。私も急にお願いしましたし、皇帝陛下の目で判断して頂ければ。」
そうして、アニースが皇女宮の5階を使う事になった。
3階はラメイラ、4階はアリシアが使っているからだった。
セシルの案内で連れて来られたアニースはラメイラとアリシアに対面する。
ラメイラとアリシアは、アニースの美貌に、彼女のボルゾイ国内では考えられない反応を見せた。
「うわぁ……綺麗だ………。」
「ラメイラお姉様もかっこいいけど、アニース様もかっこいいですわ………。」
ボルゾイ国内で、アニースを賛辞する者は居なかったのだ。
「宜しく、お世話になる事も多いと思うが、宜しくお願いする。アニースだ。」
「第二皇子トーマスの婚約者、ラメイラだ。宜しく。」
「アードラ国第一王女、アリシアですわ、アニース様。」
アニースはアードラ国と聞き、一瞬顔を強張らせた。
「アードラ?最近迄、私はアードラに捕まっていたんだ。あの男、其方を探していたが、レングストンに居られたのだな。」
「え!!…………ま、まさか叔父様がまた……。」
アリシアは逃げて来たのだろう、あの男から、と、アリシアの表情でアニースは理解する。
「アリシア様、ご推察通りです。」
セシルは多くは語らず、アリシアに理解を求めた。
「カイルに助けて貰ったんだ。本当に、ウィンストン公爵家には世話になりっぱなしだな。」
「……………カイル……。」
アリシアがカイルの名を呟く。
「アリシア?どうした?」
「い、いえ、何でもありません。」
ラメイラの声で、我を戻したアリシアを見たアニースは、アリシアに伝えた。
「私は今日初めて彼にあったのだ、勘ぐらないでくれ、アリシア王女。」
「あ、いえ、勘ぐった訳ではありませんわ、大丈夫です。」
アニースにアリシアは微笑み返すのだった。
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