7 / 85
放浪姫、妃候補に
しおりを挟む城内はまだザワついている。
朝からウィンストン公爵家の男達が慌てているからだった。
客間に通された人物の申し出に、皇帝と皇妃の予定を狂わされる羽目になったのだ。
「申し訳ありません、陛下。」
「何を謝る、宰相。………アニース姫が其方とカイルに感謝を言いに来た序であろう?私としてはボルゾイへの約束が果たせると言うもの………。アニース姫が皇子の妃を望むなら、それもまた良し。」
「しかし、ボルゾイからは、アニース姫の保護を願いでたい、という話だけ、妃候補とは違いますが………。」
「第二王女、ヘルン姫であろう?」
「はい。」
「…………アニース姫の話を聞いてから決めてからでも遅くない。歳もヘルン姫と同じ歳、『放浪姫』………なかなか面白い。」
皇帝が謁見の間に到着すると、リュカリオンも連絡を受け、既に待っていた。
「父上、おはようございます。」
「リュカ、早かったな。」
「『放浪姫』が気になりましてね。セシルから聞いて直ぐに来ましたよ。」
「アニース姫は?」
「セシルとカイルがお相手を………そして、陛下、カイルの事で後程お話が……。」
「…………カイル?……分かった。後で聞こう。」
リュカリオンはその様子を黙って見ていただけだった。
暫くすると、アニースを連れたセシルとカイルがやって来る。
その直ぐ後に皇妃も到着し、皇帝の横に座った。
「陛下、遅くなりました。」
「急であったからな。」
皇帝は労うように、皇妃に返答をすると、アニースを見つめた。
「アニース姫……遠路ご苦労でしたな。アードラで囚われているという情報を聞き、救出せよ、とカイルに命じたのは私だ。」
「さようでしたか、それはありがたかったです。あのままだと、無理矢理あの男に侵されるところでした。カイルに夢中のようだったので、その点でも助かったと思います。」
「ブっ!!」
アニースが、カイルの話をしたので、カイルは思わず吹いた。
ウィンストン公爵とセシルはカイルを無言で睨む。
「…………。」
「……………。」
「し、失礼しました。」
「アニース姫の要望は伺っておる。其方に侍女を付け、皇女宮で本日から休まれるがよい。其方を皇子の妃候補にするかは、直ぐには返答は出来ぬので、暫く待ってもらってよいか?」
「勿論です。私も急にお願いしましたし、皇帝陛下の目で判断して頂ければ。」
そうして、アニースが皇女宮の5階を使う事になった。
3階はラメイラ、4階はアリシアが使っているからだった。
セシルの案内で連れて来られたアニースはラメイラとアリシアに対面する。
ラメイラとアリシアは、アニースの美貌に、彼女のボルゾイ国内では考えられない反応を見せた。
「うわぁ……綺麗だ………。」
「ラメイラお姉様もかっこいいけど、アニース様もかっこいいですわ………。」
ボルゾイ国内で、アニースを賛辞する者は居なかったのだ。
「宜しく、お世話になる事も多いと思うが、宜しくお願いする。アニースだ。」
「第二皇子トーマスの婚約者、ラメイラだ。宜しく。」
「アードラ国第一王女、アリシアですわ、アニース様。」
アニースはアードラ国と聞き、一瞬顔を強張らせた。
「アードラ?最近迄、私はアードラに捕まっていたんだ。あの男、其方を探していたが、レングストンに居られたのだな。」
「え!!…………ま、まさか叔父様がまた……。」
アリシアは逃げて来たのだろう、あの男から、と、アリシアの表情でアニースは理解する。
「アリシア様、ご推察通りです。」
セシルは多くは語らず、アリシアに理解を求めた。
「カイルに助けて貰ったんだ。本当に、ウィンストン公爵家には世話になりっぱなしだな。」
「……………カイル……。」
アリシアがカイルの名を呟く。
「アリシア?どうした?」
「い、いえ、何でもありません。」
ラメイラの声で、我を戻したアリシアを見たアニースは、アリシアに伝えた。
「私は今日初めて彼にあったのだ、勘ぐらないでくれ、アリシア王女。」
「あ、いえ、勘ぐった訳ではありませんわ、大丈夫です。」
アニースにアリシアは微笑み返すのだった。
1
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説

【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる
花草青依
恋愛
"氷の令嬢"と揶揄されているイザベラは学園の卒業パーティで婚約者から婚約破棄を言い渡された。それを受け入れて帰ろうとした矢先、エドワード王太子からの求婚を受ける。エドワードに対して関心を持っていなかったイザベラだが、彼の恋人として振る舞ううちに、イザベラは少しずつ変わっていく。/拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』と同じ世界の話ですが、続編ではないです。王道の恋愛物(のつもり)/第17回恋愛小説大賞にエントリーしています/番外編連載中
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】貴方の傍に幸せがないのなら
なか
恋愛
「みすぼらしいな……」
戦地に向かった騎士でもある夫––ルーベル。
彼の帰りを待ち続けた私––ナディアだが、帰還した彼が発した言葉はその一言だった。
彼を支えるために、寝る間も惜しんで働き続けた三年。
望むままに支援金を送って、自らの生活さえ切り崩してでも支えてきたのは……また彼に会うためだったのに。
なのに、なのに貴方は……私を遠ざけるだけではなく。
妻帯者でありながら、この王国の姫と逢瀬を交わし、彼女を愛していた。
そこにはもう、私の居場所はない。
なら、それならば。
貴方の傍に幸せがないのなら、私の選択はただ一つだ。
◇◇◇◇◇◇
設定ゆるめです。
よろしければ、読んでくださると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる