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戦火に巻き込まれたアニース
しおりを挟むアードラから更に西に旅をしようと考えていた。
モルゾイから飛び出して、2年は経っている。
その頃、何かと思い出すのはレングストンのウィンストン公爵の話。
『皇子の妃に』と。
皇太子リュカリオンは、妃を得て皇女が最近産まれたという。
(ま、あの約束なんて口約束なんだ。今更考えようとしても、な。)
そんな頃、更に第二皇子トーマスの婚約が入ってくる。
約束も忘れようと思った。
今頃、レングストンに戻ってももう遅い、と思ったアニースは、戦の噂があったにも関わらず、アードラの内政が不安定を理由に、アードラを離れようととしたのが不運となった。
略奪、誘拐、強姦等、アードラの兵士達が隣国を襲う。
アニースはモルゾイ特有の赤茶の髪を隠しなんとか逃げようとしたのだが、兵士に捕まった。
「ほぉ、美しい娘ではないか………こんな上等な娘なら、お前達には勿体無い。宰相に献上しようではないか。」
「……………。」
(またアードラか………。)
アニースの手荷物を全て奪い、その中にウィンストン領土で取れる高級の薬草が大量に発見された事もあり、レングストンに関係する娘だと思われていたのもあったからだった。
「レングストンの者なら、お前を盾にする事も出来るかもしれん。」
「…………。」
(……何も話す訳にはいかないな………レングストンに迷惑を掛けてしまう。)
「ふん、何も語らずか……。美しい娘よ。連れて行け!」
アードラに戻され、アニースは拘束されたままアードラの宰相、アマレスの前に連れて行かれた。
「美しい………赤茶の髪、深緑の瞳……意思が強そうな娘ではないか。名は何という?お前を私の妻にしてやろう。」
「……………。」
「………口が聞けぬ訳ではなかろう?」
アマレスの言葉に一切答えないアニース。
「無理矢理、侵す事も可能なのだぞ?私は紳士だ。暫く待ってやろう、今はアードラの第一王女を探さねばならぬのでな……。私の別邸に連れて行け。」
「分かりました、来い!」
「…………。」
(何処に連れて行くつもりだ!)
目隠しをされ、猿ぐつわをされ、拘束されたアニース。
(…………階段?降りてる?地下牢か何かか?……………ん?また階段上がる?何だ?)
アマレスの私室で行われたやり取りだったが、それを隠れて見ていた、アードラの兵士に扮した男が、気配を消して後を追っていたのは誰も知らなかった。
アニースの所在を確認した男は、王城を後にし、アードラの宿屋に入る。
「カイル様、ご報告が。」
「ん?何か重要か?」
金髪ボサボサ頭のカイルが、手を止め先程来た部下を見る。
「『放浪姫』と噂される女性を発見致しました。」
「…………『放浪姫』だと!父上が所在を普段から定期的に確認させていた、モルゾイの第三王女か!」
「はい。アマレスに捕まりました。」
「…………助け出せ。父上ならそう指示する筈だ。今後の事は確認する。保護を拒むなら、姫の希望通りに、所在は常に確認を。」
「御意。」
そして、部下はアマレスの行動パターンから、隙を付き、アニースを救出に乗り出したのだった。
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