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放浪姫の行き先
しおりを挟む数週間後、アードラから馬車が到着する。
その馬車の者がウィンストン公爵の部下だと分かると、直ぐにウィンストン公爵に連絡が入った。
王城に住むセシルが慌てて、対応に追われた。
馬車に乗った人物が、『放浪姫』だったからである。
急遽、客間に通し、セシルが『放浪姫』に会いに行く。
コンコン。
「失礼致します。アニース姫。」
「………急な訪問すまない。どうしても、お礼を申し上げたかったのだ。モルゾイ国第三王女、アニースだ。」
「ウィンストン公爵、嫡男、セシルと申します。父、ウィンストン公爵は現在邸に居りますので、暫しお待ちを。長旅お疲れかと思います。急遽誂えた部屋ですが、こちらでごゆっくりお過ごし頂けたら、と。」
「うむ、申し分ない部屋でありがたい。所で、ウィンストン公爵家にはカイル、という男も居られる筈、其方の兄弟か?」
「弟になります。カイルはアードラの事で動いておりますので。」
「では、カイルとも合わせて頂きたい。礼を申し上げたいのだ。あんな奥まった牢獄に囚われていたのを危険だったろうに、助けて頂いたのに、そのまま国に帰れぬのでな。」
話し方も男勝りで、ラメイラの話し方以上の癖のある話し方で、セシルは内心驚いていた。
「弟は、恐らく父と同じ馬車で来るでしょう。アニース姫が到着された、と連絡を入れましたので。」
「うむ、父君にも以前の事を再び礼を申し上げたいから助かる。」
赤茶色のストレートの長髪に意思の強さを表すような深い緑の瞳。
アードラの女性が着るようなドレスを着ているが似合っていない。
むしろ似合いそうな服は、ラメイラのような服。
しかし、それを言える訳ではなかったセシル。
王城の侍女達を呼び、アニース姫をもてなすように、と朝食がまだだと言うので、朝食を用意させたセシル。
「セシル殿、こちらにはトリスタンとアードラの姫君達も滞在していると聞いたが、花嫁探しでもしているのか?」
「………はい。第三皇子タイタス殿下と第四皇子コリン殿下がまだお相手が決まっておりませんので。」
「お幾つの皇子だ?」
「16歳と、13歳の皇子です。」
「……………私もその花嫁候補にしてもらえないだろうか。」
(…………もう、落ち着きたいのが本音だ………お父様が反対するだろうか……。)
「は?花嫁候補、ですか?」
急な来訪と急な申し出に驚くセシル。
「そうだ、私はモルゾイに帰りたくない!レングストンでは花嫁を探している、お互いいい事尽くめではないか?私は国に居場所等無いのだ。母が身分も無い踊り子で、兄や姉達、召使いさえも私を嫌う。父は可愛がってくれたが、父に会わせてくれない兄や姉が居る国に帰ったら、益々国から出られなくなってしまう。投獄されそうになったのを着の身着のまま、彷徨ってもう3年近くだ。落ち着きたい………。ボルゾイの支援等要らないであろうレングストンだ。そもそも私に支援したいという人間もボルゾイには居ないしな……。ただあるのは、第三王女の称号1つだけ。」
「…………そういう理由で『放浪姫』と……。」
「そんなが噂あるな……。」
コンコン。
「はい。」
扉がノックされ、ウィンストン公爵とカイルが入ってくる。
「アニース姫………ご無沙汰しております。ご健全で何よりでございます。」
「アニース姫、ウィンストン公爵家次男、カイルでございます。ご無事でアードラからの脱出、安堵致しました。」
アニースは立ち上がり、ウィンストン公爵の前に来ると、一礼する。
「ウィンストン公爵、以前の急な訪問に関わらず、薬を譲って頂き、本当に感謝する。乗っていた馬はもう死んでしまったが、あの後もあの薬は役立った。」
「それはお役に立てられてようございました。あれからどのような苦労があったかは伺いませんが、旅の疲れを暫しレングストンで癒やされるのでしたら、我が邸にお迎え致しますが?」
「…………今、セシルに願い出たのだが……セシル、父君に話して良いか?」
セシルに振り向いたアニースはセシルの返答を待つ。
「はい、父はアニース姫を悪いようにはしない筈です。」
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