放浪の花嫁【完結】

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
上 下
6 / 85

放浪姫の行き先

しおりを挟む
 
 数週間後、アードラから馬車が到着する。
 その馬車の者がウィンストン公爵の部下だと分かると、直ぐにウィンストン公爵に連絡が入った。
 王城に住むセシルが慌てて、対応に追われた。
 馬車に乗った人物が、『放浪姫』だったからである。
 急遽、客間に通し、セシルが『放浪姫』に会いに行く。

 コンコン。

「失礼致します。アニース姫。」
「………急な訪問すまない。どうしても、お礼を申し上げたかったのだ。モルゾイ国第三王女、アニースだ。」
「ウィンストン公爵、嫡男、セシルと申します。父、ウィンストン公爵は現在邸に居りますので、暫しお待ちを。長旅お疲れかと思います。急遽誂えた部屋ですが、こちらでごゆっくりお過ごし頂けたら、と。」
「うむ、申し分ない部屋でありがたい。所で、ウィンストン公爵家にはカイル、という男も居られる筈、其方の兄弟か?」
「弟になります。カイルはアードラの事で動いておりますので。」
「では、カイルとも合わせて頂きたい。礼を申し上げたいのだ。あんな奥まった牢獄に囚われていたのを危険だったろうに、助けて頂いたのに、そのまま国に帰れぬのでな。」

 話し方も男勝りで、ラメイラの話し方以上の癖のある話し方で、セシルは内心驚いていた。

「弟は、恐らく父と同じ馬車で来るでしょう。アニース姫が到着された、と連絡を入れましたので。」
「うむ、父君にも以前の事を再び礼を申し上げたいから助かる。」

 赤茶色のストレートの長髪に意思の強さを表すような深い緑の瞳。
 アードラの女性が着るようなドレスを着ているが似合っていない。
 むしろ似合いそうな服は、ラメイラのような服。
 しかし、それを言える訳ではなかったセシル。
 王城の侍女達を呼び、アニース姫をもてなすように、と朝食がまだだと言うので、朝食を用意させたセシル。

「セシル殿、こちらにはトリスタンとアードラの姫君達も滞在していると聞いたが、花嫁探しでもしているのか?」
「………はい。第三皇子タイタス殿下と第四皇子コリン殿下がまだお相手が決まっておりませんので。」
「お幾つの皇子だ?」
「16歳と、13歳の皇子です。」
「……………私もその花嫁候補にしてもらえないだろうか。」
(…………もう、落ち着きたいのが本音だ………お父様が反対するだろうか……。)
「は?花嫁候補、ですか?」

 急な来訪と急な申し出に驚くセシル。

「そうだ、私はモルゾイに帰りたくない!レングストンでは花嫁を探している、お互いいい事尽くめではないか?私は国に居場所等無いのだ。母が身分も無い踊り子で、兄や姉達、召使いさえも私を嫌う。父は可愛がってくれたが、父に会わせてくれない兄や姉が居る国に帰ったら、益々国から出られなくなってしまう。投獄されそうになったのを着の身着のまま、彷徨ってもう3年近くだ。落ち着きたい………。ボルゾイの支援等要らないであろうレングストンだ。そもそも私に支援したいという人間もボルゾイには居ないしな……。ただあるのは、第三王女の称号1つだけ。」
「…………そういう理由で『放浪姫』と……。」
「そんなが噂あるな……。」

 コンコン。

「はい。」

 扉がノックされ、ウィンストン公爵とカイルが入ってくる。

「アニース姫………ご無沙汰しております。ご健全で何よりでございます。」
「アニース姫、ウィンストン公爵家次男、カイルでございます。ご無事でアードラからの脱出、安堵致しました。」

 アニースは立ち上がり、ウィンストン公爵の前に来ると、一礼する。

「ウィンストン公爵、以前の急な訪問に関わらず、薬を譲って頂き、本当に感謝する。乗っていた馬はもう死んでしまったが、あの後もあの薬は役立った。」
「それはお役に立てられてようございました。あれからどのような苦労があったかは伺いませんが、旅の疲れを暫しレングストンで癒やされるのでしたら、我が邸にお迎え致しますが?」
「…………今、セシルに願い出たのだが……セシル、父君に話して良いか?」

 セシルに振り向いたアニースはセシルの返答を待つ。

「はい、父はアニース姫を悪いようにはしない筈です。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

処理中です...