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高嶺の祖父

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 新居に暮らす様になって、3日。初めて蒼太の父と会う事になった。蒼太が必死になって、雪との事を説明し、誘拐された櫻子の生き様を懇々と説明していたのだと言う。雪に関しても、を貫き通した雪だったから、渋々だった内縁関係の夫婦の高嶺家。祖父は、決して蓮や菫にも会わなかったらしく、蓮も菫も緊張していた。

「緊張する!」
「何で会おうと心変わりしたんかな、おじいさん」

 菫と蓮もラフな格好はこの日はしていない。車を運転する蒼太が、その話に入る。

「桜也がな………説得したんだよ……ほら、あいつはだろ?兄さんが勘当され、亡くなった時も、父さんは断固として弔わなかったし、墓も知らない。今更兄さんの子だと名乗り出るのも、と考えてはいたらしいが、流石に事件の事を説明しない訳にはいかない、と言って、櫻子の弁護士として、事の顛末を詳しく書いて送ったらしい。父さんも櫻子が誘拐されてたのは知ってたしな……」
「お父さん………桜也は、名乗り出てるの?自分も孫だって」
「………結局名乗ってない………ただ、龍虎会の顧問弁護士としてしかな……名前もだし……」

 都心でも高級住宅街で夫婦2人で住んでいる祖父母。その家に着くと、玄関に桜也が立っていた。

「桜也!?」
「………立会いも兼ねてな……喧嘩にならない為に、と伝えたら了承したよ、じいさん」
「……………言わないの?自分も孫だって……」
「言ってどうする?30年前、一度だけ会った知らないジジイだ。あのじいさんは親父の位牌を投げ付けたよ………」
「あったな…………そんな事も……」

 位牌と遺骨を持って、一度桜也はここに来た事があるらしい。遺体も引き取らず葬式も行う気も無く、龍崎が葬式を行い、その報告に桜也は組員に乗せてきてもらい来たのだという。僅か5歳の小さな子が考えて来るぐらい、祖父母に会いたかったのかもしれない。それなのに、祖父は桜也を追い出したのを、蒼太は見ていたらしい。

「今は、俺は弁護士だからな、追い返す事はないだろう」

 チャイムを押す蒼太。

『はい』
「蒼太だけど……家族も連れて来た………後、今回世話になった弁護士も」
『……………お待ち下さい』

 家政婦だろう。暫くして玄関が開き、向かい入れられた。しかし、玄関で仁王立ちする老人。まだ現役で医師をするという祖父は威厳に満ち溢れている。

「父さん………」
「上がれ、蒼太………あと、弁護士の先生だけだ………あとは帰れ」
「は?会うって言ったんじゃなかったのかよ!!」
「蓮!!………黙って!!」

 雪が、止めに入る。

「ふん………極道の血を引く子供は、礼儀がなっとらんな」
「………じゃあ、私も礼儀がなってない、という事でしょうか?………敷居は跨げませんね………折角、立会いに名乗り出ましたが………」
「先生は良いんだ……私は蒼太と先生にだけと話すと言った………あとは顔だけ見たら充分だ」
「ちょっと!!ふざけないでよ!!お父さんもお母さんもどれだけ苦労したと思ってんの!?お姉ちゃんだって、大変だったんだから!!」
「…………蒼太……子供の教育がなっとらん……折角いい大学に行かせ、外務省に入れたというのに、極道の女を好きになるから……もういい、お前も帰れ………そいつらと別れん限り、家に入るな」
「…………じゃあ、好きで極道に入った、私の父であり、貴方の息子、桜太はどうなんですかね?桜太の息子の私は、極道に育てられて大学迄行き、弁護士になりましたけど?」
「……………!!」

 祖父の顔色が変わる。

「もっと言ってやって!桜也さん!!」
「そうだ!!もっと言え!!」
「菫!蓮!黙りなさい!!」
「もういいじゃありませんか、あなた」

 パタパタと家の奥から優しそうな老婆が出て来る。

「……………美桜……」
「蒼太、雪さん……蓮、菫………櫻子………それに桜也………上がりなさい………おじいさんは頑固だから、桜太が死んだ事を自分のせいにして、認めたくないのよ………あの子の死をね……」

 通された部屋はリビング。その部屋には写真が壁を埋め尽くす。

「いつの間に、こんなに写真が………」

 蒼太が驚きを隠せない。

「この写真は蓮…………これは菫………これ……櫻だわ………」
「これは、櫻でも蓮でも菫でもないが………」
「…………その写真は桜太が送ってきた桜也だ」
「…………」

 子供の頃の写真ばかり。後は制服を着た蓮や菫の写真が飾られていた。

「私が、父さんが蓮達に会おうとしないから、節目毎に送った写真………」
「…………何だ……立会いなんて不要じゃないか……」

 桜也がポロッと口にし、薄っすらと涙を目に溜めていた。じっと桜太と桜也が写った写真を眺めている桜也。

「あ、これ私が撮った写真よ」
「………雪お嬢……」
「もうさ、この時の桜也って本当に可愛くって可愛くって………この直前、桜太にめちゃくちゃ怒られてたんだけど、写真撮ったら機嫌良くなったの、桜太。『この写真、現像したら親父に送るんで下さい』て言われたわ……懐かしい………桜也を公園に遊びに連れてった後よ、これ」
「本当だぁ!桜也さん可愛い!!お姉ちゃんお姉ちゃん!見てよ見て!」
「可愛い…………この写真欲しい……スマホ保存していい?桜也」
「…………やめろ櫻………」

 高嶺家で大盛り上がりする光景を、祖父母はただ、涙を拭いながら見守った。

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