29 / 38
高嶺の祖父
しおりを挟む新居に暮らす様になって、3日。初めて蒼太の父と会う事になった。蒼太が必死になって、雪との事を説明し、誘拐された櫻子の生き様を懇々と説明していたのだと言う。雪に関しても、夫婦別姓を貫き通した雪だったから、渋々だった内縁関係の夫婦の高嶺家。祖父は、決して蓮や菫にも会わなかったらしく、蓮も菫も緊張していた。
「緊張する!」
「何で会おうと心変わりしたんかな、おじいさん」
菫と蓮もラフな格好はこの日はしていない。車を運転する蒼太が、その話に入る。
「桜也がな………説得したんだよ……ほら、あいつは弁護士だろ?兄さんが勘当され、亡くなった時も、父さんは断固として弔わなかったし、墓も知らない。今更兄さんの子だと名乗り出るのも、と考えてはいたらしいが、流石に事件の事を説明しない訳にはいかない、と言って、櫻子の弁護士として、事の顛末を詳しく書いて送ったらしい。父さんも櫻子が誘拐されてたのは知ってたしな……」
「お父さん………桜也は、名乗り出てるの?自分も孫だって」
「………結局名乗ってない………ただ、龍虎会の顧問弁護士としてしかな……名前も纐纈だし……」
都心でも高級住宅街で夫婦2人で住んでいる祖父母。その家に着くと、玄関に桜也が立っていた。
「桜也!?」
「………立会いも兼ねてな……喧嘩にならない為に、と伝えたら了承したよ、じいさん」
「……………言わないの?自分も孫だって……」
「言ってどうする?30年前、一度だけ会った知らないジジイだ。あのじいさんは親父の位牌を投げ付けたよ………」
「あったな…………そんな事も……」
位牌と遺骨を持って、一度桜也はここに来た事があるらしい。遺体も引き取らず葬式も行う気も無く、龍崎が葬式を行い、その報告に桜也は組員に乗せてきてもらい来たのだという。僅か5歳の小さな子が考えて来るぐらい、祖父母に会いたかったのかもしれない。それなのに、祖父は桜也を追い出したのを、蒼太は見ていたらしい。
「今は、俺は弁護士だからな、追い返す事はないだろう」
チャイムを押す蒼太。
『はい』
「蒼太だけど……家族も連れて来た………後、今回世話になった弁護士も」
『……………お待ち下さい』
家政婦だろう。暫くして玄関が開き、向かい入れられた。しかし、玄関で仁王立ちする老人。まだ現役で医師をするという祖父は威厳に満ち溢れている。
「父さん………」
「上がれ、蒼太………あと、弁護士の先生だけだ………あとは帰れ」
「は?会うって言ったんじゃなかったのかよ!!」
「蓮!!………黙って!!」
雪が、止めに入る。
「ふん………極道の血を引く子供は、礼儀がなっとらんな」
「………じゃあ、私も礼儀がなってない、という事でしょうか?………敷居は跨げませんね………折角、立会いに名乗り出ましたが………」
「先生は良いんだ……私は蒼太と先生にだけと話すと言った………あとは顔だけ見たら充分だ」
「ちょっと!!ふざけないでよ!!お父さんもお母さんもどれだけ苦労したと思ってんの!?お姉ちゃんだって、大変だったんだから!!」
「…………蒼太……子供の教育がなっとらん……折角いい大学に行かせ、外務省に入れたというのに、極道の女を好きになるから……もういい、お前も帰れ………そいつらと別れん限り、家に入るな」
「…………じゃあ、好きで極道に入った、私の父であり、貴方の息子、桜太はどうなんですかね?桜太の息子の私は、極道に育てられて大学迄行き、弁護士になりましたけど?」
「……………!!」
祖父の顔色が変わる。
「もっと言ってやって!桜也さん!!」
「そうだ!!もっと言え!!」
「菫!蓮!黙りなさい!!」
「もういいじゃありませんか、あなた」
パタパタと家の奥から優しそうな老婆が出て来る。
「……………美桜……」
「蒼太、雪さん……蓮、菫………櫻子………それに桜也………上がりなさい………おじいさんは頑固だから、桜太が死んだ事を自分のせいにして、認めたくないのよ………あの子の死をね……」
通された部屋はリビング。その部屋には写真が壁を埋め尽くす。
「いつの間に、こんなに写真が………」
蒼太が驚きを隠せない。
「この写真は蓮…………これは菫………これ……櫻だわ………」
「これは、櫻でも蓮でも菫でもないが………」
「…………その写真は桜太が送ってきた桜也だ」
「…………」
子供の頃の写真ばかり。後は制服を着た蓮や菫の写真が飾られていた。
「私が、父さんが蓮達に会おうとしないから、節目毎に送った写真………」
「…………何だ……立会いなんて不要じゃないか……」
桜也がポロッと口にし、薄っすらと涙を目に溜めていた。じっと桜太と桜也が写った写真を眺めている桜也。
「あ、これ私が撮った写真よ」
「………雪お嬢……」
「もうさ、この時の桜也って本当に可愛くって可愛くって………この直前、桜太にめちゃくちゃ怒られてたんだけど、写真撮ったら機嫌良くなったの、桜太。『この写真、現像したら親父に送るんで下さい』て言われたわ……懐かしい………桜也を公園に遊びに連れてった後よ、これ」
「本当だぁ!桜也さん可愛い!!お姉ちゃんお姉ちゃん!見てよ見て!」
「可愛い…………この写真欲しい……スマホ保存していい?桜也」
「…………やめろ櫻………」
高嶺家で大盛り上がりする光景を、祖父母はただ、涙を拭いながら見守った。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【完結】Mにされた女はドS上司セックスに翻弄される
Lynx🐈⬛
恋愛
OLの小山内羽美は26歳の平凡な女だった。恋愛も多くはないが人並に経験を重ね、そろそろ落ち着きたいと思い始めた頃、支社から異動して来た森本律也と出会った。
律也は、支社での営業成績が良く、本社勤務に抜擢され係長として赴任して来た期待された逸材だった。そんな将来性のある律也を狙うOLは後を絶たない。羽美もその律也へ思いを寄せていたのだが………。
✱♡はHシーンです。
✱続編とは違いますが(主人公変わるので)、次回作にこの話のキャラ達を出す予定です。
✱これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる