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壊れた桜

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 龍崎家の別荘は外壁の破損と、龍虎会の組員の重軽傷者、死者も出たが、警察の介入により籠城は終わりを迎えた。マスコミも多く駆け付け、SNSで写真も拡散されていた事により、高嶺家への非難も多数寄せられてしまった。勿論、櫻子の父の仕事にも影響を及ぼし、外務省と極道との関与等も問題に上げられてしまった。
 SNSの拡散は直ぐに消されたが、暴力団同士の抗争に、外交官だった男と極道の娘のロマンスから産まれた娘が、抗争の火種になった事に、世間からの興味があらぬ方向に向いた。
 外交官の男、極道の女の娘が誘拐され、26年振りに両親との再会時での襲撃がドラマにしたい、とまで囁かれ、高嶺家にはマスコミや野次馬も押し寄せる程になっていた。

「…………父さんが、雪と別れろ、て……」
「………うん、そう言われても仕方ないわね……だから、私は籍も入れてないんだもの………桜太の事もあったから心配したけど、蒼太は勘当はされなくて良かったわ」
「俺は別れないぞ?………櫻とやっと会えたんだ……前向きに捉えよう……な?」
「でも、責任取らされるんじゃない?仕事の方も…………私が居たら邪魔になるわ……私が龍崎家に戻れば、龍虎会が守ってくれるけど、貴方は違うでしょ?」
「俺達は何も悪い事はしていない」
「…………そうだけど……」
「お父さん、お母さん………本当にごめんなさい」
「………菫……もう謝るな…」
「でも………」

 そんなやり取りが高嶺家で話される中、櫻子は桜也にマンションに閉じ込められていた。外に出ては世間に晒されてしまうのを危惧をしている桜也の考えだ。櫻子もそれが分かるから、マンションに篭っている。スマホもPCもテレビも見ず、ただただ桜也に求められていた。

「………はぁ………はぁ……はぁ……」

 桜也はベッドに横たわる櫻子を見下ろし、腕で口元と汗ばむ額を拭う。寝室のカーテンは常に閉め光をシャットアウトし、ベッド脇にあるダウンライトだけの灯りだけが櫻子の裸体を照らす。

「あつ………櫻、そろそろピル飲まなきゃな……」
「…………う………あ……」

 力無く、ぐったりし身体中、所有権を主張するキスマークが所狭しと着いている。桜也はピルをパウチから出すと水と共に口に含み、櫻子に飲ませる。

「少し眠れ……何も今は考えるな」

 櫻子は考えれば考える程自傷行為を、別荘から帰った夜から始めた。

『…………櫻、何してる』

 ベッドからの気配が無くなり、桜也は櫻子を追うと、キッチンから包丁を取り出すのを見つけ桜也は止めた。

『死なせて!!…………私が居るからこんな事になったの!!』

 包丁を取り上げ、桜也に切り付けて、正気に戻った櫻子だが、桜也が見ていないと錠剤を多量摂取したり、と数日続けている。部下を配置する事もあったが、遠慮が出てしまい櫻子に怪我をさせてしまったのだ。
 それにより、疲れて眠らせるという事にした桜也。櫻子が起きている間は抱き潰し、櫻子が寝ている間は横で眠るを桜也も繰り返している。

「これじゃ、既にじゃねぇか………」

 .•*¨*•.¸¸♬.•*¨*•.¸¸♬

「…………はい………あぁ、先日はガサ入れして頂きありがとうございます」

 獅子王組の事務所をガサ入れし、逮捕者も出た獅子王組。壊滅にはならなかったが、安心は出来なかった桜也。

『マスコミが、高嶺櫻子さんの事を躍起になって探してます。高嶺家からも高嶺家の周辺住民からも苦情が殺到してましてね………お嬢さんのご様子は如何ですか?』
「…………自傷行為が止みませんよ………獅子王大和が捕まらない限り無理かもしれませんね………」
『警察の方で保護する事も検討してますが………』
「保護なら高嶺家の家族にして下さい………マスコミや映画やドラマ化に、という話も上がってるとか、そんな話真っ平ごめんだ……そんな事は望んでないんです、高嶺家は」
『………しかし、一番の被害者は櫻子さん……』
「櫻子は私の方で保護します」

 桜也は不安だった。消えて無くなりそうな櫻子が。側に居なかったら、桜也も壊れそうだった。

『何としても探しますよ、獅子王大和を………この件に関しては龍虎会は被害者ですからな………では、もし気が変わり保護を申し出るなら、準備しますので』

 プッ。

「気は変わらない……」

 パリンッ………。

「櫻!!」

 眠っていた櫻子が居る寝室から何かが割れる。割れる物は全て撤去はしていなかった桜也。寝室の窓を割られたのかもしれない、と思い駆け付ける。

「櫻!!何して………止めろ!!」
「…………離して……下さ…………んんんんっ!!」

 手には鏡を椅子で割ったのか鏡の欠片を握り締めていた櫻子。手首を掴み、櫻子にキスで、気を紛らわせ鏡の欠片を離させる。

「櫻…………頼む………俺を置いて逝くな……」
「……………ゔ………ゔっ………」
「…………櫻…………絶対に守る……信じろ……」

 床に落ちる鏡の欠片。手に滲み出る血を桜也は舐めて、床に落ちるのを阻止する。

「…………駄目………鏡の欠片………」
「………それが如何した………櫻の血一滴でも無駄じゃない………必要な物だ………欠片が付いていようと………お前を守れるなら俺が怪我した所で大した事はない………」
「…………お………う……や………」

 涙を流す櫻子にも、今自分の自傷行為を止められなくなる程、解決策が見つからないのだ。激動の日を繰り返し、その波に乗れず目まぐるしく動く現状に追い付かず、助けを求めていた。

「………お願い…………苦しい……助けて……」
「……あぁ、助ける」

 その助けを桜也が見えない鎖で櫻子を絡め取るのは当然の事だった。
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