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結婚式迄あと5日

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 皇太子邸、ナターシャとリュカがリビングで寛いでいる。
 リュカの物は皇子宮から皇太子邸に移され、物も大分増え、生活感がありナターシャも落ち着いていた。

「殿下……。」
「『リュカ』」
「…………侍女も居りますから。」
「気にしないでいいのに。」
「ケジメですわ。」
「…………で?何?」

 微笑ましい光景だが、話す事は真面目な事だった。

「ロレイラ様の事です。わたくし、ロレイラ様が何か仕掛けて来るのかが分かりませんが、何故婚約式以降にタイタス殿下に近寄って来たかわかりませんの……。殿下にはお話しましたが、今更わたくしに『許婚だった』と教える意味があるのか、と。」
「ロレイラは………。」

 リュカが言い掛けて、口にする事を止め、セリナ達に声を掛ける。

「セリナ、もう寝室に行くから下がっていい。」
「ではナターシャ様の閨の準備を。」
「いや、閨の準備はいい。今はナターシャと話がある。」
「…………畏まりました。また明日朝伺います、おやすみなさいませ。」

 セリナ達を下がらせ、リュカは話を続けた。

「ロレイラは、俺の貞操を奪っただけでなく、他の独身女達をけし掛けた女だ。しかも、ナターシャと許婚が変わってからだ。」
「………な、なんて酷い事……。」
「俺が離宮に逃げた意味がそこにある。少し成長し、逃げる術と冷徹さを振り撒き暫くは大人しくなった女だ。前皇帝の弟を祖父に持つロレイラは、地位も品位も申し分なかったから許婚になったんだが、幼い俺にはどうでも良かった。4歳年上で大人びてきたロレイラが、身近に居る許婚の俺に性的感情を持ったとしても、おかしくはないと今は思うよ。だが、子供の俺は嫌悪感しかなかった。そんな俺がナターシャと会った時にどれだけ救われたか………。」
「え?わたくし、リュカと子供の頃会った事がありますの?」

 2人きりのリビング。
 ナターシャはリュカを『殿下』とは呼ばない。

「あぁ、覚えてなかったのは悲しいが、闇に落ちていた俺に救いの手を差し伸べたのは君だよ。だからナターシャを妃に、と初めて望んだんだ。」
「わたくし、何て話をしたんですか?」
「………忘れているなら、俺だけの思い出にしたいんだけど………。」
「気になりますわ。」
「…………可愛い顔して言ったんだよ、泣いていた俺の頬にキスをして………『悲しい顔をしていたら、幸せが逃げますわ。もし大きくなっても泣いていたら、わたくしが幸せを差し上げます。』と。俺はその言葉に、『あぁ、この子は俺を幸せにしてくれるんだ』と、なら俺はこの子に幸せを与えよう、とずっと思ってた。誰にも渡したくない、とずっと………。」
「……………リュカ………。」
「今は、あの頃よりもっと強く思ってる。本当に、子供の時からナターシャだけを想ってた。」

 ナターシャは、リュカに抱き着く。

「わたくし………忘れてたのですね……ずっと………ずっと……お待たせしていて申し訳ありません。愛してますわ……わたくしがあなたを幸せにしてみせます。」
「ナターシャ…………俺のナターシャ……。」

 その夜は、閨もなく寄り添い温もりを感じる触れ合いだけで、静かに夜を過ごす2人だった。

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