58 / 100
婚約発表②
しおりを挟むいくら婚約したからと言ってもまだ発表をした訳でも、皇帝や皇妃に認められた訳でもない為、リュカの後ろを控えめに歩くナターシャ。
「皇太子殿下。」
歩いていると、何人もの令嬢から声が掛かる。
(………これで、6人目かしら……。)
ナターシャは数えていた。
その都度、リュカは冷たい視線を令嬢に送り、会話をせずに歩いて行く。
しかし、この令嬢はリュカとナターシャの進行方向を遮っていた。
「通してくれないか。」
「お話をしたいのですが?」
令嬢はチラッとナターシャを見て鼻で笑う。
(………失礼な方………この方、子爵家のレティシャ様だったかしら。)
「衛兵!!この女を摘み出せ!!暫くの間、登城を禁ずる!!」
彼女の行為が癪に触ったリュカ。
「何故ですか!皇太子殿下!!」
呼ばれた衛兵に肩を掴まれた子爵令嬢の言葉に対し、リュカは更に冷たい態度を向ける。
「子爵令嬢が、公爵令嬢に対して無礼だとは思わないのか?分からないなら、暫くの登城禁止でなく、何があろうとも、登城禁止にするぞ!」
「こ……公爵令嬢………。」
レティシャは項垂れてしまう。
ナターシャを知らなかったのだろうが、それでは、彼女の未来を絶つようなものだ。
腹が立ったナターシャだが、リュカの腕に手を添え、声を掛けた。
「リュカ殿下、レティシャ様はわたくしをご存知なかったようですし、仕方ありません。反省されておいでなので、ここは穏便になさって頂けますか?」
「ナターシャ!!彼女は君を嘲笑ったんだぞ?」
「確かに、いい気分ではありませんが、貴族の顔と名前をご存知なかった不勉強さを、ご自分が反省されれば良い事。レティシャ様のお父上も、この件を知ればレティシャ様はお部屋に篭せ、その間知識を広めるでしょう。そうなれば、登城する機会もある筈、道を断てば、レティシャ様の婚姻に傷が付きますわ。」
登城が許されない貴族は華やかな場に出る時に、その理由を探られる為、不名誉な噂が立つ相手を毛嫌いし、婚姻相手を探す機会を逃しかねないのだ。
不名誉の噂を立てた貴族を求める貴族は居ない。
「ナターシャは彼女と知り合いなの?」
「知りません。交流も無ければお会いしたのも初めてです。」
リュカはナターシャの知識に驚き、笑ってしまう。
「はははははは!!………流石、俺のナターシャ!!良かったな、レティシャ嬢、この件はナターシャに免じ許してやろう………但し、私の前に現れるな、彼女が許しても私は彼女に対する無礼を許した訳ではないのだからな。離していいぞ。」
「はっ!」
「あ、ありがとうございます……皇太子殿下、ナターシャ様。」
「ナターシャ、遅れてしまう。もう行こうか。」
リュカはナターシャに手を差し伸べ招く。
思わず、ナターシャは手を添えてしまった為、その隙にとばかりリュカは肩を抱いて歩き出してしまった。
「で、殿下………恥ずかしいです………。」
「もう駄目、離さない。」
先程の令嬢との一件で、ナターシャの行いは噂になった事は言うまでもない。
「あの姿見たら、もう皇太子妃の器量があると誰もが思う筈だよ。貴族令嬢もしかも自分より爵位が低い女の顔と名前を知っていて、彼女の将来も心配した、となれば、ナターシャの知識、配慮、立ち居振る舞いを期待しない貴族は居ない。まぁ、気が付いた所で、もう遅いけどね、君は俺のだから。」
あの冷徹な表情を振り撒きながら、王城を歩いていたリュカがご機嫌になり、令嬢の肩を抱き寄せて歩いている、とこちらもまたたく間に噂に上がった。
謁見の間の前に来ると、苛々しながら立っているセシルを見つける。
「やっぱり遅くなりましたね。何してたんですか?」
「あぁ、来る途中、令嬢に捕まったんだ。」
「鼻の下でも伸ばしてたんですか?」
「俺がそんな事する訳ないだろう?」
「今がそうですけど?妹に捕まったじゃないですか、鼻の下も伸ばしてるし。」
「……………。」
正に、鼻の下を伸ばして上機嫌で歩いていた。
ナターシャの肩を抱き寄せて歩いてから……。
セシルの言った事は間違っていない。
「……………俺の侍従、カイルに変えてもらおうかな……。」
「カイルは無理ですよ。せっかちのカイルが侍従ならリュカ殿下は泣きますよ?忙し過ぎて。」
カチャ。
「何をしている。話声がするから開けて見たら、殿下がお見えではないか!早く教えなさい、セシル!」
「……すいません、父上。」
「遅くなって、すまない。」
「リュカ殿下、お入り下さい。陛下がお待ちですよ。」
0
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説
山に捨てられた元伯爵令嬢、隣国の王弟殿下に拾われる
しおの
恋愛
家族に虐げられてきた伯爵令嬢セリーヌは
ある日勘当され、山に捨てられますが逞しく自給自足生活。前世の記憶やチートな能力でのんびりスローライフを満喫していたら、
王弟殿下と出会いました。
なんでわたしがこんな目に……
R18 性的描写あり。※マークつけてます。
38話完結
2/25日で終わる予定になっております。
たくさんの方に読んでいただいているようで驚いております。
この作品に限らず私は書きたいものを書きたいように書いておりますので、色々ご都合主義多めです。
バリバリの理系ですので文章は壊滅的ですが、雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。
読んでいただきありがとうございます!
番外編5話 掲載開始 2/28
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる
西野歌夏
恋愛
ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー
私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる