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皇子宮は大騒ぎ

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 ナターシャとリュカが湖でずぶ濡れになったその頃。
 ダイニングに来ないナターシャとリュカを心配をしている皇子達と侍女や兵士達。
 大騒ぎになり始めた頃、セシルがやってきた。

「大騒ぎされて如何されました?」
「セシル!!兄上が何処に居るか知らないか?」

 トーマスがセシルに詰め寄る。
 セシルはやはり、という顔をする。

「何か知ってるな?セシル。」
「はい、その事で皇子宮に来ましたから、ご安心下さい。騒ぎになっては王城の陛下方の耳に入ってしまい、終始が大変ですから。」
「タイタス、兵士達に探すのを止めろ、と言ってきてくれ。」
「分かった。」
「あ、私が言ってきます!」

 ライアがタイタスの代わりに動く。
 兄弟の3人はセシルの話を聞いておいた方がいいのでは、との判断だ。

「では、ライア頼む。」
「はい!」
「それで?セシル、何を知ってる?」
「殿下は妹と離宮に行かれましたよ。戻りが遅い様なので、夜道が危険だと判断し、離宮にそのままお泊りになるかもしれません。」
「離宮………だと?」
「えぇ、代々の皇太子が継承する離宮が王宮の西の外れにありまして、殿下が妹を連れて行きました。離宮の存在は、皇太子しか知らないので、トーマス殿下、タイタス殿下、コリン殿下はご存知無くて当然の事なのです。」

 3人は絶句した。

「何故離宮に?」
「リュカ殿下は1人になりたい時に、離宮に行き休まれます。皇太子としての重圧から逃れる時に……子供の頃からの逃げ場所です。私はよく共をしてましたから。そこを妹に見せたい、と常々仰ってました。」
「帰って来るんだよな?」
「殿下が職務放棄する訳ないじゃないですか。」

 ドタドタ……。

 廊下から慌てるような足音が聞こえてくる。

「失礼致します!!只今、リュカ殿下の使いの者が、セシル様をお呼びです。」
「リュカ殿下から?ここに通してくれ、宜しいですか?トーマス殿下。」
「あぁ、兄上の事だからな。」

 暫くすると、ユランの従者がリュカの書いた手紙を持って来た。

「失礼致します、リュカ殿下よりセシル軍師へ、と。」
「確認する…………。」

 セシルはトーマス、タイタス、コリンにも見せる様に見る。

「は?ナターシャが湖に落ちて、服が濡れたから帰れなくなった?」
「しかも、泊まる……だと?」

 タイタスとトーマスは不服そうだ。

「セリナは何処に?」
「私です、セシル様。」

 セシルは冷静でいられる。
 それはリュカに離宮に泊まらせようと避妊具迄渡したぐらいたから………。
 しかし、帰ろうとして湖に落ちるとは思わなかったが。

「ナターシャの衣類を数着分持ってきてくれないか、私が今から届けに行くので。」
「私達もご一緒します。ナターシャ様の身の回りのお世話が必要ですし。」
「侍女は1人でいいよ。馬車で行くには目立ちますしね、騎乗するから3人は無理だ。」
「では、俺も行こう。」

 トーマスも名乗りでる。
 しかし、セシルは……。

「申し訳ありません。トーマス殿下だけでなく、皇太子殿下以外の皇子をお連れ出来ない決まりがあるのです。代々その場所があるのを知るのも、皇太子の部下を1人だけ。なので、臣下の中でも、陛下の皇太子時代の侍従であった今の宰相である父と私しか知らぬ場所。カイルも知りません。それだけ重要な場所だと、私は陛下から伺っておりますので。」
「…………分かった、ここで待とう。」
「申し訳ありません、トーマス殿下。」

 トーマス達は不満そうだったが、代々そうしてきたしきたりがあるのなら仕方ない、と諦めた。

「殿下がもし、離宮の場所を話ていい、と仰っるか分かりませんし、陛下から教えては駄目だと、箝口令があるのなら、これ以上私から言えませんので……。」
「お待たせしました!セシル様。」
「ありがとう、では届けに参ります。」

 セシルはトーマス達に一礼して、セリナだけを連れ、離宮へ向かった。


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